マッターホルンに魅せられて(スイス・ツェルマット初日の山歩き) <9日目>

13日(土曜)
目が覚めて、夜中のマッターホルンは?とカーテンを開けてビックリ!!
白々とした空をバックに山頂が王冠を戴いて金色に輝いている!
これがモルゲンロート! あの有名な朝焼けのマッターホルン
時計を見ると5時半。あわてて、まだ眠り込んでいる夫を起こす。これは起こさなくっちゃの事件!です。何枚か写真を撮って、また朝寝の続きを始めた夫。私は刻々と金色の輪の裾野を広げて降りてくるような朝焼けの様子を飽きず眺めていました。   
このホテルは朝食付きなのでパン屋探しはしなくて済む。ホテルの1階食堂で8時、朝食。パンの味がフランスとは少し違う。
昨日、列車が着いた駅へ向い、インフォメイションへ寄って地図を手に入れる。手のひらに収まるサイズ。 
まず、マッターホルンの展望台で有名なゴルナグラート(Gornergrat、3089m)へ9:31発の登山鉄道で。日本人グループと一緒になり少し話す。山口県からのツアーの方たちで、シャモニーからとのこと。昨日はモンブランは見えず、今日は素晴らしいお天気で喜んでいると嬉しそう。10時、ゴルナグラート着。素晴らしい眺め!!
ひとしきり写真を撮ったり、周りの白く連なる山々を眺めたり、去年、夫が友人と登った山,ブライトホルンを教わったり。

グループ写真用の台の所に大きなセントバーナード犬が2頭。首にはブランデーの樽もつけて。写真用のモデル犬らしい。
日本人の若い男の子が、「稼ぎ頭です、この犬が暖房付きの大きな家を建てさせてくれます。一緒に写すのは有料ですが、犬のみならタダです。どうぞ、どうぞ」と。訊いてくるべきでしたね〜、「あんた何者? 飼い主? それとも写真屋さん?」って。

下り、夫の計画では2582mのリッフェルベルグ(Riffelberg)から歩くつもりだったようだが、残雪の具合と私の足の具合を考えて、もう一つ下の駅、リッフェルアルプ(Riffelalp 2222m)からツェルマット(1620m)まで歩くことに。ちょうどお昼頃だったので、ここの駅のベンチで持参のパンと果物で昼食。

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600m近くを歩いて下ったことに。足の具合が悪く、風邪が長引いて、旅行そのものがどうなることかと心配していた私には、今日のウォーキングはきつかった。
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夫には2時間のコースを私の為に4時間かかったと言われたが、よく歩けたと自分でも。途中でエンコすれば迷惑がかかるし、いったん歩き出したら歩き続けなければならないのが山歩き。靴がどれも間に合わずで、普段はいている靴のままだし、下りばっかりで、さすが足先は痛みだす。道端に咲く色とりどりの美しい花々と、どこまでも青い空を背景に角度を変えて姿を現すマッターホルンのお蔭で最後まで歩けたと感謝です。

4時半、ホテル着。私は何が何でも休憩。シャワーを浴びて、洗濯して、シャンプーも済まして、足を休める。

5時半、夫、帰る。今日はあのテラスでマッターホルンを見ながら夕食の予定。Fさん達が買い物で街にいる間、テラスのテーブルやイスをふいたり、セッティングをして準備。7時、テラス・パーティ開始。メニューはアヴィニヨンの中央市場で買ったオリーブの漬け物、パン、それに、男性二人が一寸はり込んだ生ソーセージと、デザートに木イチゴのタルトも。飲み物はビールにワイン。私たちはオレンジジュースと水。ここで、やっと出番です。はるばる日本から持参したオモチャ、じゃなくて、ガスコンロ。ボンベは現地調達。年期の入った夫愛用のコッフェルに熱湯を沸かして、ソーセージをゆでる。生煮えにならないようゆで加減にも注意をして。これが美味しい!! マスタードをタップリつけて、熱々をハフハフ言いながら食べる。
ひと腹できた頃に二人が山の歌を歌い出す。そうそう、夕食前に、みんなで、テラスに出て、マッターホルンを見上げていた時、二人がテラスをステージに見立てて、シューベルトの野バラを大きな声で歌い出しました。川沿いに夕焼けを見ようと集まっていた人たちから拍手をもらって、二人で照れていました。Fさんは山歩きの後、奥さんの買い物に付き合って疲れ、スッカリ酔いも回ったご様子。アーバントロート(夕焼け)のマッターホルンも見えたし、8時半にお開き。
その後、休憩のお蔭で元気を取り戻した私を誘って夫が教会の前の老舗のバーへ。階段を上った入口の脇にテーブルがあってその上の小箱にエーデルワイスが咲いていた。山道で見ることがなかったのは、山の高さが低かったのと、時期が早かったせい。もっと高いところで7月に咲くんだということを、帰ってから、去年行った先輩に教わりました。

ここで出されたビールが美味しいと夫はビールを。私は白ワイン。いつもお付き合い程度に口をつけるだけなのに、この白ワインが飲んでみると本当に美味しい。グラス一杯をゆっくりと2時間かけて飲み干した「バー」初体験の私はビックリ。飲み物以外は出さないの? おつまみ類一切なし。隣の先客のグループは初めにビールを頼んでお変わりなしで1時間以上も話し込んでいる。自信のある店はこうだよ、と夫が。登山家の記事や写真が額におさめてあるし、なかなか風格のあるお店。(ELSIE BARの店内)

9時から11時まで二人で旅の終りに、グラスを傾けながら、この旅を振り返る。夕食のときや、一緒の食事のときの夫たちの話で、今回の旅がどうも「妻へのお詫びと感謝の旅」のつもりだということがわかった。F氏の言葉では「男は社会に出て、どうみても、いい思いや楽しい体験をしているので、罪滅ぼしの旅行」だとか。
私はその都度、自分なりの楽しみを見つけてきたので、取り残されているとか、男はいいなと恨みがましい気持は持っていないし、実際、50代で、夫はあてに出来ないと、友人と勝手に海外旅行もしているので、我が夫に、同じような気持ちがあるとは思わないが、自分の登山に関しては、これから先も行かせてくれ、という思いは確かにあるでしょう。
でも、こんな風に、「我慢してきた妻に感謝の海外旅行」というのは私たちが最後の世代じゃないかしら、と思います。私の両親も一応の定年退職の60代で母に最初の海外旅行を誘っていました。今の世代は、楽しむ時はいつも一緒、という世代では? そう思えば、夫たちの気持は有りがたいことです。