不思議な物語を読みました。こんな人物がいたこと自体が奇跡というかフィクションのような・・・
- 作者: 下村徹
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2008/11
- メディア: 単行本
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1922年、ハンガリーで生まれた天才的な彫刻家で戦士でもあるワグナー・ナンドール。
幼い頃、祖父を通して知った武士道をわが道とするようになり、やがて1956年のハンガリー動乱の英雄となり、亡命先のスウェーデンで日本人女性・千代さんと巡り合い、その後、再婚同士で結婚、栃木県益子に住むことになり、1975年日本に帰化。憧れの日本で彫刻家としての生活をスタート、共産国ハンガリーから命を狙われる危ない目にも合いながら、やっと1989年、祖国ハンガリーはソ連の衛星国から離れ民主国家となり、2年後の91年と97年に祖国を訪れる。祖国に残された彫刻が日の目を見るのを確認した年の11月15日75歳の生涯を閉じる。
ハンガリーといえば、知っているのは、マジャール人の国、日本とは姓・名の並び方が同じでヨーロッパの中のアジア系というくらいでした。2000年の中欧、ハプスブルク家の栄光・オーストリア、ハンガリー、スロヴァキア、チェコを訪ねる旅でウイーンからプラハまでのバス旅行に友達と二人で参加しました。ハンガリーでは日本の和太鼓が好きで佐渡に行ったことがあるという青年がガイド役を務めていました。
この本の短い序章に、こうありました。
1999年10月、ハンガリーの古都の公園に日本人の作った「ハンガリーの希望」という巨大な彫刻が建立され、市長をはじめ多くの人がその記念式典に参列した。
その2年後の2001年10月、今度は世界遺産、首都ブダペストにあるゲレルトの丘に同じ日本人が作った「哲学の庭」と名付けられた八体の彫刻が建立され、ハンガリーの政財界の要人を含む千人近い人々が集まり祝った。
さらに、それから4年後の2005年には、ハンガリー国境に近いルーマニアのオラディア市で、この日本人が作った彫刻が、長い間紛争を続けていたハンガリーとルーマニア両国の和解と親睦の象徴として建立され、両国の要人が集まって祝賀した。
しかしこの三つの式典は、日本ではまったく報道されなかった。また、ブダペスト第一の観光スポットである王宮や「漁夫の砦」から、ゲレルトの丘の「哲学の庭」は数百メートルしか離れていないにもかかわらず、日本の旅行会社が観光客を案内することはなく、ほとんどの日本人は未だに、この日本人がつくり、ハンガリー人が誇る「哲学の庭」を見たことがない。
この物語は、これらの彫刻をつくった日本人の物語である。
私は2000年の中欧旅行で、ハンガリーのゲレルトの丘からドナウ川、その川にかかる「ドナウの首飾り」といわれる鎖橋を見たのをよく覚えていましたので、この序章で興味をかき立てられました。
また、この本の著者下村徹という方が、あの「次郎物語」の作者・下村湖人の子息であるというのにも興味がありました。
「次郎物語」は青春のバイブルというか中学時代の思い出の小説です。映画化されたりドラマ化されてがっかりしたこともよく覚えていますが、若かりし頃、物を考え始めた頃に出会った懐かしい日本の作品で、「下村湖人」は特別の響きがあります。
波瀾万丈、複雑怪奇、家族史あり、個人史、ハンガリーの歴史、民族史、ソ連との攻防、活劇あり、逃亡劇、ロマンスあり、等々、大変な物語が淡々と要領よく書かれていて、読みやすく、息をもつかさぬ面白い内容になっています。
益子に行ってみたい、日本にあるこの人の作品を見てみたいと思いました。
ラフカディオ・ハーンは明治の時代に日本人女性と結婚し帰化し、日本を海外に紹介した人物ですが、ワグナー・ナンドールは20世紀にあって、日本が失ったものを惜しみつつ、日本人よりも日本人らしく生きた「日本人」であり、自分の作品「哲学の庭」の思想は21世紀の日本人には分かってもらえない、理解されるのは100年後の22世紀になってからと言っていた人。
ワグナー・ナンドールが今世紀中に理解されるのに、この本は一役も二役もの役割を果たせるのではないかと思います。
PS:
「哲学の庭」 とは
ワグナー・ナンドール氏が1994年に完成させた3組24体からなるブロンズ像です。
1組はハンガリー・ブタペスト市『ゲルトの丘』に、
2組は栃木県益子町『ワグナー・ナンドールアートギャラリー』に建立されていました。
今回、益子町の1組が哲学堂公園に寄贈されました。(2009年12月)
彫刻は3つの輪で構成されており、
第一の輪 「アブラハム」「エクナトン」「キリスト」「釈迦」「老子」
第二の輪 「達磨大師」「ガンジー」「聖フランシス」
第三の輪 「聖徳太子」「ユスティニアヌス」「ハムラビ」の計11体です。
哲学堂公園・梅園(新宿区側)に設置されています。