正岡律の菅野美穂さん

昨日のNHK、お昼の1時5分からの番組「スタジオパーク」のゲストは「坂の上の雲」で正岡子規の妹、律を演じている菅野美穂さん。
出かけるのを一時間遅らせて見ることに。司馬遼太郎原作のドラマ「坂の上の雲」は日曜夜8時からの1時間半番組。
すでに3回終わって、来週はいよいよ日清戦争。三年がかりのドラマというだけあってとっても丁寧な作り方で豪華な出演者。
ナレーションは渡辺謙。主役は秋山好古阿部寛)・真之(本木雅弘)兄弟に真之の親友正岡子規香川照之=はまり役!)。
正岡子規の妹・律に菅野美穂、好古の下宿先の娘で結婚することになる女性に松たか子(美しい!)、秋山兄弟の父親が伊東四郎(良かったですね〜)、母親が竹下景子(いい老けぶり)、子規の母親は原田美枝子(久しぶり)。子規の友人夏目漱石小澤征悦の四角い顔が夏目漱石の顔を知っているだけに一寸残念。東郷平八郎は渡哲也(薩摩弁がよか!)、伊東博文の加藤剛(久しぶりでしたがサスガ!の存在感)と出るは、出るはのオールスターキャスト! NHKならでは!で受信料払っているからには見なきゃ損!状態。CGで誤魔化している大河ドラマと質の違いが歴然のセットと照明とロケとが相まって豪華なドラマになっています。

坂の上の雲」はドラマ化、映像化の許可がなかなか下りないと聞いていました。司馬作品は読み方が色々出来て、批判もあるとか。高知の友人と「竜馬がゆく」の話をしていた時も、歴史の成功者・英雄の話ばかり取り上げてという批判に、二人で「納得がゆかない、そんなんじゃない、そんな読み方は残念ね〜」と言い合ったものでした。国威発揚の物語と取られることに警戒があったのでは?と想像しますが、ドラマは勿論そういう話にはなっていないのでしょう。明治という国民国家創成期の青年群像を描いたもので、年内あと2回はどうなっているのか楽しみにしているところです。

つい先日、隣の父から月遅れの「文藝春秋」が届きました。その12月号には、司馬遼太郎が「坂の上の雲」(72年完結)を書いた後、「日本人の二十世紀」と題する長文の論文を寄稿、それを「特別企画 「坂の上の雲」のあとさき」として再録されています。書かれたのは今から15年前の1994年のことです。じっくり読めていないのですが、明治の初めごろにはあった「リアリズム」が大正・昭和を経て失われ、観念的な日本人になって戦争で国を滅ぼすに至ったと嘆いておられるような内容です。まさに龍馬や海舟のような懐の深い大きな損得勘定の出来る政治家がたくさん出てきてほしいと思います。

「・・・ しかしもっと重要なのは、大正末年から昭和初年にかけて擬似的な普遍思想、すなわちイデオロギーが広がり始めたことです。具体的に言えば、「右翼」と「左翼」が出てきた途端に、明治からの資産だったはずのリアリズムが、大きく足をすくわれたといえるでしょう。「右翼」といっても・・・・大正末年に「左翼」が生まれ、その反作用として「右翼」が生まれたのです。」
・・・・ともかく右翼にしても左翼にしても、かんじんの自国認識という点ではネジ切りが粗くて、フタと現実が合わないものでした。昭和初年の左翼のことを”水戸学派(朱子学的)”という人がありますが、朱子学イデオロギーで、戦前の日本史教科書もまた、濃厚に朱子学的でした。昭和初年の右翼思想も、当然ながら、朱子学そのものです。日本にあっては左右同根と言いたくなる印象があります。」
「日本は商人国家、などとわりあい自虐的に語られますが、歴史的に日本の商人は十分に魂の入った存在でした。その商人国家のリアリズムに基づいて、日本にとって困難の多い国際問題の交渉のなかで、その状況、状況で自らを慰め、相手に訴えるレトリックを生み出すべきです。」
「歴史のなかの商人像をあれこれ考えてゆくと、勝海舟などまったく商人的発想ですね。むろん、商人という語感につきまとう軽薄さはありませんでした。彼にとって出藍の弟子だった坂本龍馬を含めてです。」


さて、菅野美穂さん、律を生き生きと演じておられてトークもとても楽しいものでした。
菅野さんといえば「イグアナの娘」が評判でした。憑依型の俳優さん。演技派というより、なりきり型の女優さんです。
私にとって忘れ難いドラマは数年前の「愛し君へ」。さだまさし原作の小説をかなり翻案した内容のドラマ化だったようで、カメラマンで病気で失明する青年(藤木直人)が最後は結婚することになる看護士の女性を菅野美穂さんが演じました。ハマッテしまって毎週待ち遠しい思いで見入りました。愛するゆえに障害の道連れには…と悩む青年に翻弄されながらも一途な愛を貫こうとする彼女、失明直前の青年の瞼に焼き付けようとする彼女の笑顔、応えようとする彼女の渾身の表情、終わった番組の最後に子供を真ん中に3人で写っている写真のショットで暗示される幸せな家庭、今も鮮やかに残っているシーンが沢山あって話し出すとつきません。

今回、3年がかりで一人の人間を演じるチャンスは一生に一度と思って、自分の出番のないマルタ島の海外ロケにはカップ麺の差し入れを持って自費で行ったとか。今年の初めにはエカテリーナ宮殿内部のロケもあり、それも滅多にないことと出かけたとか。意気込みがよく伝わるお話でした。
今とは違う明治の時代にバツ2(離婚2回)の正岡律をあれこれ考えないで、現場で感じながら演じていると話していましたが、ドラマを見ていても律を生きて演じておられるのがよくわかります。17年のキャリアで今32歳。本当に楽しみな女優さんです。