東京地検の「週刊朝日」への抗議についての編集長「談」

8日(月)の夕刊二紙に載っていたニュース
<郵政不正証明書発行 元上司「指示していない」村木被告公判 議員の依頼も否定
>より
自民党が与党の頃の事件で、厚生労働省の女性局長が虚偽有印公文書作成罪に問われた事件を覚えていますか?
この事件は障害者団体向け郵便料金割引制度の悪用事件で、村木厚子被告の公判が8日、大阪地裁であり、同被告に「議員案件だ」と制度利用に必要な証明書発行を指示したとされる上司が、「議員の依頼はなく、村木被告にも指示していない」と証言、検察側の主張を否定したそうです。検察側は民主党の石井一(当時衆院議員)参院議員から電話で発行の依頼があって、その後「議員案件」だと証明書の発行を指示したと冒頭陳述。上司の元部長は8日の公判で全面否定。石井議員の要請で、捜査段階での供述、調書に署名したのは、「今思えば自分の思い込みだった。そもそも(検察側の構図が)壮大な虚構だったのではないか」と述べた。(日経8日夕刊より)
[記憶と異なる内容の供述調書に署名した理由については「村木被告に指示をしたという大前提の下で、調べを受けた」と話した。供述調書に(塩田元部長が)村木被告から証明書発行の報告を受け、石井議員に電話をかけた」との記載がある点についても、「検事から『通話記録が残っている』といわれ、そう説明したが、どんな通話記録かは教えてもらえなかった。作られた記録に基づく記憶で、事実ではない」と証言した。](讀賣8日夕刊より)

ここでも検察側が描いたストーリーに沿って事件が仕立て上げられて、見込み捜査が行われていたということになります。

さて、本題の週刊朝日」。小沢幹事長の秘書の石川智裕氏の女性秘書が電話で検察に呼ばれ、長時間「監禁」状態で調べられ、二人の子どもを預けている保育所に迎えに行く時間になっても行かせてもらえず、夫にも連絡が取れずの状態だったことが記事になり、その記事に対して地検から抗議書が「週刊朝日」に送られたそうです。ネット上では山口一臣編集長東京地検に出頭要請を受けたという噂が流れ、その件についての事実を明らかにした「お騒がせして申しわけありません」と題する文章が「週刊朝日」というサイトに掲載されています。
かなりの長文ですが、ことのいきさつが丁寧に分かり易く書かれていますので是非読んでみてください。
公平・公正を旨とするジャーナリストとしての気概を感じて気持ちの良い後味でした。
そういえば、朝日新聞は読んでいないのでわかりませんが、テレビ朝日スーパーモーニングや日曜朝の番組サンデープロジェクトでは検察に対する批判的なジャーナリストやコメンテーターの意見も聞くことが出来ました。鈴木宗男氏のあの頃とはその点では違いがありました。
ここでは、長文の後半部から小沢事件についてのところのみ引用します。
勿論「小沢氏を擁護するために」書かれたものではありません。是非是非、最後まで読んでみてください。

 もうひとつ指摘しておきたいのは、昨年3月以降(政権交代の可能性が具体的に見えてきてから)の捜査が明らかに「政治的に偏向している」という点です。検察当局はかたくなに否定すると思いますが、少なくともそう疑われても仕方ないでしょう。


 まず、3月の大久保隆規秘書の突然の逮捕―――。


 当時、検察OBをはじめとする多くの専門家は、「半年以内に確実に選挙があるというこの時期に、政治資金規正法違反という形式犯野党第一党の党首の秘書を逮捕するはずがない」という理由から、「これは贈収賄やあっせん利得、あっせん収賄など実質犯への入り口だ」と解説したものです。以後、今回と同じく「談合」「天の声」「ゼネコンマネー」といった小沢氏に関する悪性報道が続きますが、結局、検察が起訴できたのは大久保秘書の政治資金規正法違反のみでした。


 しかし検察は、その捜査によって小沢一郎氏を代表の座から引き降ろすことに成功しているのです。


 今回の捜査もほとんど同じ経緯をたどりました。


 強制捜査着手前から小沢氏の悪性情報がどんどん流れ、ピークに達した時点で石川議員ら計3人が逮捕され、小沢氏本人も被疑者として2回にわたる事情聴取を受けました。ふつうに考えたら、小沢氏本人が贈収賄や脱税などの実質犯で立件されることが想定される事態ですが、これも結局は石川議員ら3人の政治資金規正法違反のみの起訴で終わっています。まるでデジャヴーを見るような思いです。


 しかし、この10カ月にわたる「小沢捜査」が小沢氏本人はもとより民主党政権にも大きなダメージを与えたことは間違いありません。検察にそういう意図があったとは思いたくありませんが、今年夏の参議院議員選挙にも間違いなく強い影響を与えることになるでしょう。うがった見方かもしれませんが、検察が証拠を見つけられず、法によって処罰できないからといって、イメージ操作で社会的な制裁を加え、政治的ダメージを与えるようなことがあったとしたら、それは先進法治国家とはいえないでしょう。


 今回、問題となった政治資金規正法違反については、「単なる形式犯」という識者もいれば、「国民を欺く重大な犯罪」という専門家もいます。わたしは、両方とも正しいと思っています。この法律はそれほど「悪質性」に幅があるということです。単なる「記入ミス」「記載漏れ」から意図的な「虚偽記載」、さらに、その意図の内容によっても悪質性が違ってきます。誰が考えても処罰の必要があると思うのは、ワイロ性が疑われるヤミ献金の受け取りです。個々の違反事例がどの程度、悪質なのかの判断は捜査当局にまかせるのでなく、わたしたち自身が国民目線でしっかり検証しなければならないと思っています。検察は、自らの捜査に正統性を与え、手柄を大きく見せるためにも、さかんに「悪質性」の宣伝をする傾向にあります。それは、検察にとってはごく一般的な手口なのです。


 石川議員らの事件に関しても、本当に起訴に相当するものなのか、処罰価値があるのか、さまざまな観点からの検証が必要でしょう。元東京地検特捜部長の宗像紀夫弁護士は2月5日付の朝日新聞(朝刊)に次のような談話を寄せています。


政治資金規正法は改正が繰り返されて厳罰化が進み、政党助成金が投入されるようになったことなどで、違反に対する認識が変わりつつあるのは確かだろう。だが、虚偽記載の起訴だけで捜査を終えるのなら、見通しのない捜査だったと批判されても仕方がない。同法違反で簡単に逮捕できるとなれば、検察が議員の生殺与奪を握ることにならないかも心配だ〉


 わたしは、この引用の最後の部分がとても重要だと思います。検察(官僚)が国民が選挙によって選んだ議員(政治家)の生殺与奪を握る社会がいいのかどうか。答えはおのずと明らかです。もちろん、検察にとって政治家の悪事を暴き、法に基づき適正な処罰をするのは重要な役割です。しかし、その場合は誰にも文句を言えないような犯罪事実を見つけ出し、誰にも批判されないだけの証拠を集め、正々堂々と公判請求するのが検察官としての矜持ではないかと思います。


 もちろん、わたしたちは小沢氏個人を擁護するためにこのようなことを書いているわけではありません。「小沢とカネ」に関する新たな疑惑や不正事実をつかんだら、検察より緻密な取材で批判・追及することになるでしょう。上杉さんが弊誌でたびたび指摘するように、検察が権力なら、小沢氏も権力の側の人ですから。


 今回、小沢氏に関して指摘されているさまざまな〝疑惑〟は実は、10年以上前から雑誌メディアで追及されてきたことばかりです。東北地方の談合に関する問題はジャーナリストの横田一さんらが1995年から「週刊金曜日」でキャンペーンを張ったもの、また政治資金団体による不動産購入など、いわゆる金脈問題については松田賢弥さんが主に「週刊現代」誌上でず〜っと追及してきた話です。いずれにしても「小沢金脈」の全容解明は、検察ではなくジャーナリズムの仕事だとわたしは思っています。


 なぜ、小沢氏は不起訴で終わったのか。小沢氏周辺が大物検察OBを使って検察首脳と裏取引をしたという情報が、まことしやかに出回っています。もしこれが本当なら、「検察も小沢も」一蓮托生ということになりかねません。その真偽の確認もわたしたちジャーナリズムの仕事だと思います。民主党政権が今後、取り調べの可視化などを本気で進めるのか。みなさんと一緒に監視していきたいと思います。   引用元:http://www.wa-dan.com/yamaguchi/