井上ひさし著「一週間」

昨日は一日、残り少なくなったこの本を読み終えるのを一日ずらしたくて、手に取るのを休んでいました。
それほど読んでいて面白く、やがて切ない井上ワールドでした。

一週間

一週間

構成も物語りも凝りに凝っていて勢いがあります。その推進力に推されて読み進んでいくうちに、あの戦争と体制と、反体制の活動と憧れの社会主義国家の実態と、関東軍や軍隊組織の中の差別や国際法無視の日本の戦陣訓と捕虜の扱い、ソビエト連邦における少数民族問題などが浮かび上がってきます。言葉遊びと物語の面白さが深刻さを和らげつつ、色んな人間の生き方が散りばめられ、裏切り、不信、信頼、人間の尊厳や矜持が描かれています。
感想の代わりに、この本の構成の面白さが一目で分る数字を並べてみます。内容はタイトルどおり、小松修吉の「一週間」の物語です。月曜日に152頁、火曜日は110、水曜は88、木曜は58、金曜は62、土曜に44、日曜日は1頁、3行で終わっています。
月曜は小松修吉の日本での活動と役割と満州に渡る動機そして捕虜になってシベリア送りになる顛末。火曜日は脱走兵の取材を命じられ、痛快脱走のお話とレーニンの手紙。水曜以降はその「レーニンの手紙」にかける夢のお話とその結末というわけです。
土曜日の小松修吉の言葉から「たしかにかつてはこの自分も、非合法政党の一員としてきびしい地下活動を展開しながら、社会主義の本家であるソヴィエトに憧れていた。しかし、どんな結構な思想も、その国の宗旨になったとたん、指導者たちによって歪められてしまうものと見える。」
   
                  イラストレーション・題字 山下勇三、装丁デザイン 和田誠
この作品は「小説新潮」に2000年から2006年にかけて断続的に発表されたもので、「連載終了後、著者による加筆、訂正が行われる予定でしたが、ご逝去のため残念ながら叶いませんでした。」という断り書きがあります。
帯の内容紹介もついでに:「昭和21年早春、満州の黒河で極東赤軍の捕虜となった小松修吉は、ハバロフスクの捕虜収容所に移送される。脱走に失敗した元軍医・入江一郎の手記をまとめるよう命じられた小松は、若き日のレーニンの手紙を入江から密かに手に入れる。それは、レーニンの裏切りと革命の堕落を明らかにする、爆弾のような手紙だった・・・・。」