<原発事故/国会では「想定内」>という記事

12日の日本経済新聞夕刊の6頁は紙面の半分ほどが原発事故/国会では『想定内』」という大見出しの記事でした。「公平」な紙面づくりが珍しい?ので紹介してみます。
まず、5年前の2006年3月1日の衆院予算委員会第7分科会で、津波原発の冷却機能が失われる深刻な事態に陥る可能性を指摘した共産党の吉井英勝議員を登場させます。吉井氏は京都大学原子核工学を専攻。04年のインド洋スマトラ沖の地震と大津波を念頭に、福島第1の1〜5号機と女川原発1号機の6基を名指しし「冷却水を取れない事態が起こり得る」と津波への対処を求めていた。
「論客の議員に聞く」と題した記事の中での吉井議員とのやり取り:

ーー政府や東電に「想定外」との声もあります。
「仮に津波で原子炉が被害をうけたとしても外部電源が健全だったら今回のような事態になっていない。地震で敷地内の鉄塔が倒れて外部電源を失った。津波だけでなく地震への対応も不十分だった。政府は07年の新潟県柏崎原発の事故のときも『想定外』という言葉を使った。何かあると必ず想定外という言葉で逃げようとする。これが一番だめだ。
ーー警告はなぜ生かされなかったのでしょうか。
「政府の検討会や審議会のメンバーに電力関係者がたくさん入っており、学者や研究者が厳しい事を言っても押し切られてしまう
。電力事業者はその道のプロなので意見を聞くのはよいことだ。ただ利害関係のない第三者が客観性や科学性に基づいて判断する仕組みに改めるべきだ
ーー持論は脱原発
「いま直ちに原発を止められるとは考えないが、原発の危険性から住民の安全を守ることが重要だ。自然エネルギーが爆発的に普及すれば利用コストも下がる。原発から段階的に撤退する道をとるべきだ」

記事は、「当時の国会での議論は今回の事故が「想定外」という言葉で片付けられない重い事実を意味する反面、議会政治の潜在力も示唆している」と続きます。
論客の二人目は民主党空本誠喜衆院議員。空本氏は東大院で原子力工学を学んだ工学博士。東芝原子力プラント機器の検査技術の設計や開発に携わった。菅首相から「原発事故の収束に向けて手伝ってほしい」と携帯電話に直接要請があった時、恩師の小佐古敏荘東大大学院教授などと独自のチームを結成。原子炉プラントへのホウ酸水の注入や「SPEEDI」の活用などを提案。小佐古氏の内閣官房参与起用の道もつけた。
その後の小佐古氏の辞任については、「4月初旬には冗談交じりで『辞めたい』と洩らしていた。助言しても反映されるのが遅く、徒労感を覚えていた。4月末に正式に提言書を官邸にとどけることができたので、潮時と判断したようだ」
「小佐古氏は政府が福島県内の小中学校の屋外活動制限の放射線量の基準を年間20ミリシーベルトを目安とした事を批判していますが」という問いかけに「チェリノブイリなどを参考にすると個人的には5ミリシーベルト程度が限度と思う」と答えています。
論客の3人目は自民党の山本拓衆院議員。地下式の原子力発電所を提唱していて、立ち上がれ日本の平沼代表らが「地下式原発」の推進議連をつくり、山本氏が事務局長。森元首相と安倍元首相が顧問とか。
与野党の枠組みを超えた「脱原発」の動きも。4月26日、社民党阿部知子政審会長や自民党加藤紘一元幹事長、川口順子元外相ら約40人の議員が集まって「エネルギーシフト(エネシフ)ジャパン」という勉強会があった。原子力や石油、石炭から段階的に太陽光や地熱へ転換する戦略を探るという。
記事の真ん中には、「原子力政策を廻る資金の流れ」が人物写真入のチャートで表してあって、横には「東電と政界をつなぐ人とカネ」とあり、「自民に経営陣・民主は労組」と解説です。

東電など電力各社は労働界、経済界を通じ与野党双方と人、カネの両面から結びつきが強い。原子力などエネルギー政策にも影響力を持つ。


電力各社の労働組合が加盟する電力総連は民主党から小林正夫参院議員と藤原正司参院議員を組織内候補として擁立している(小林氏は東電出身で元電力総連顧問、藤原氏は元関電労組委員長)。政治団体である電力総連政治活動委員会からは両氏を中心に複数の与党議員に政治資金が流れる。
内閣特別顧問を務める笹森清氏は東電労働組合委員長や連合会長を歴任した。菅首相の助言約的な存在。


自民党中曽根康弘元首相や歴代通産・経産省らが中心となり原子力発電を国策として進めた。中曽根氏ら超党派議員団は1955年にジュネーブでの原子力平和利用国際会議に出席して、原子力基本法の制定につながった。


経団連の組織内候補として98年参院選で初当選し、2期務めた加納時男元国土交通副大臣は東電元副社長だ。


政治資金収支報告書によると、東電幹部は個人名で自民党政治資金団体国民政治協会」に献金をしていた。2009年は勝俣会長と清水社長が30万円、6人の副社長は全員24万円で、献金額は職位ごとに横並びだ。

「議会政治の潜在力を示唆」という言い方がよくわかりません。今までのところ、共産党の吉井議員の「冷却水を取れない事態」の警告も実らず、民主党の空本氏の推薦した小佐古氏の内閣官房参与の警告も無視され、涙の辞任会見での告発になりましたが、数値は変らずです。
潜在力があっても生かされていない国会が問題なので、カネの流れを併記してあるのは「問題」の所在をそれとなく…ともとれますが、次回は一歩踏み込んだ内容の記事を期待しています。
自民党河野太郎衆院議員の提言(4月21日のブログより)の正しさが思い出されます。「自民党は電力会社とべったり、民主党は電力会社の組合とべったり。霞ヶ関とは天下りでうまい汁を分け合ってきました。電力会社はメディアにもスポンサーとしてエネルギー政策に関する報道に介入してきました。それぞれが東京電力とともに、今回の事故に至った責任を認めなくてはなりません。政治家は電力会社から献金を受けず、メディアも電力会社から広告を受けるのをやめるべきです。」