「原発は低コスト」・「電力不足」はウソ(「週刊朝日」7・1号より)

最近テレビを見ていてコメンテーターの発言で気になることがあります。
最初に当然のように「原発なしではやっていけないでしょ」と言ってから、自分の意見や感想を言う人。周りの人は、誰も皆、黙っていて、「その大前提に問題あり」と突っ込む人を見たことがありません。「やっていけないかどうか」については、「十分やっていける」という意見があるのを知らないのか、考える必要がないと思っているのか、あえて無視しているのか・・・

「やっていけるかどうかの問題」以前に、”消せない火”の原発は使ってはいけない、”トイレのないマンション”に喩えられる原発は使ってはいけない、自らの世代、地域、国で始末できない原発には手を出してはいけない、という意見もあります。原子力そのものがまだ人間のコントロールの及ばない危険な道具であって、そのことを一番知っているのは原子力科学者であるはずです。「原発安全神話」を唱えてきた科学者たちの反省と正直な発言が待たれます。


さて、原発は安全で安価なエネルギーと言われていました。「安全」については、今回、「とんでもなく危険」であることが分りました。「安い」という計算についても、小出裕章氏が、テレ朝の「モーニングバード」の玉川徹さんのコーナーで、「イカサマ計算」と発言されたりしていますので、「安い」という計算方法がいい加減だという事が分ってきています。
週刊朝日」の広瀬隆氏の<「原発廃絶なら値上げ」は恫喝だ! 原発は低コストのウソ」>という記事でもその点が検証されています。ここでもテレビ番組と同じく、立命館大学の大島堅一教授の検証が取り上げられています。

2004年公表の政府試算値の発電価格(1キロワット時の発電量当たり、液化天然ガスが6.2円、石炭火力が5.7円、石油火力が10.7円、一般水力が11.9円に対して、原発が5.3円)が全くの間違いで、原発のコスト計算には、莫大な政府予算が投入されている研究開発費や立地対策の費用が入っていない。加えて、設備稼働率原発と火力は80%と仮定されているが、実際は原発稼働率はせいぜい60%、火力も30%しか動いていない。特に、夜間の原発余剰電力を利用するための揚水発電ダムの莫大な費用を計算すると、原発が最も高くつく。


一般会計のエネルギー対策費と、エネルギー対策特別会計(電願開発促進対策特別会計電源三法交付金)があり、この財政支出を加えた総合の発電コスト(1970〜2070年度平均)は、実際には一般水力が3.98円、火力が9.9円、原子力が10,68円で、揚水発電を加味した「原子力+揚水」は12.23円になる。


それに、とてつもない量の放射性廃棄物の処分不能危険物の処理(バックエンド)のコストは大島教授の計算ではプルトニウムを再利用するプルサーマル運転の六ヶ所再処理工場を40年動かすとして、建設・操業・廃止を含めた費用が11兆円、放射性廃棄物の処理・貯蔵・処分やMOX燃料(プルトニウム・ウラン混合燃料)の加工など、関連する費用を合わせて18兆8800億円。ただし、「週刊東洋経済」の試算では実際にはその4倍、74兆円に膨らむ可能性を指摘している。

広瀬隆氏のこの記事の核心はこれ以降の二つです。
まず、産業界の自家発電能力を利用すれば電力不足はなくなる。その為には送電線が自由に使えることが必要。
その為には発送電分離が必要だが、分離が実現するまでは、送電価格値下げを電力会社に要求せよということです。

電力会社の原発はほぼ5000万キロワットだが、今夏のピーク時には、福島第一の廃炉が決まり、福島第二、東通、女川、東海第二が全滅し、浜岡が停止、柏崎刈羽が3基再起不能で停止、さらに全土で定期検査中の原発が運転再開不能のため、事実上1300万キロワットしか稼動しない状況にある。
この頼りない原発より、資源エネルギー庁が公表している産業界の保有する自家発電6000万キロワット(昨年9月末現在・図参照)の方がはるかに大きなバックアップとしての発電能力を持っている。(また、この自家発電の特定規模電気事業者(PPS)の電気料金は、電力会社より2割前後も安いのだ。)


原発代替エネルギーとして自然エネルギーに転換せよ」という声が圧倒的に多いが、日本人が”快適な生活”をするために使っている電気の大半を生み出しているのは、現在は火力発電である。この火力発電は、日本においてきわめて優れた世界最高度のクリーンな新技術を導入しているので、何ら問題をおこしていない。決して、原発が、電力の大半をになっているのではない。原発は事故続きで、4分の1も発電していない。
自家発電をフルに活用すれば、この優れたクリーンな火力だけで、「まったく現在のライフスタイルを変えずに、節電もせずに、工場のラインを一瞬でも止めることなく」電気をまかなえる。


記事の最後は「ただちに必要な送電価格値下げ」というタイトルがついています。

全国で、電力会社が他社受電(=自家発電からの買い取り)の割合を隠そうとするのは、彼らが安い電気を民間企業から買い取って、高い電気料金でわれわれに売って利益を上げている暴利の構造があるからである。


それを知られたくないばかりか、もう一つ「電力会社が自家発電をフルに利用すれば電力不足が起こらない」、この事実を国民に知られると、産業界からも、一般消費者からも、「送電線を自家発電の民間企業に開放せよ!」という世論が生まれる。そして制度が改善されて、誰もが送電線を自由に使えるようになると、地域を独占してきた電力会社の収益源の牙城が崩れる。何としても電気事業連合会の総力をあげて死守する必要がある、と彼らは考えている。


九つの電力会社にとって、福島原発事故を起こした今となっては、原発の確保より、送電線の確保の方が、独占企業としての存立を脅かすもっと重大な生命線である。そのため、自家発電の電気を買い取らずに、「15%の節電」を要請するという行動にでたのである。


したがって日本人は、「自然エネルギーを利用しろ」と主張する前に、「送電線を全ての日本人に開放せよ!」という声をあげることが、即時の原発廃絶のために、まず第一に起こすべき国民世論である。


しかし、送電線事業の分離には時間が かかると予想されるので、それまで電力不足が起こらぬよう、国会は全産業が安い送電費用で電気を供給できるよう、ただちに電力会社に送電価格値下げの命令を下し、それによって国民生活と企業活動を守ることが至上命令である。

広瀬隆(ひろせ・たかし) 1943年生まれ。作家。早大理工学部応用化学科卒。『二酸化炭素温暖化説の崩壊』(集英社親書)、『原子炉時限爆弾ー大地震におびえる日本列島』(ダイヤモンド社)など著書多数。最新書は『FUKYSHIMA 福島原発メルトダウン』(朝日新書)」