「加藤典洋さんに聞く」から

日経の9日(土)の夕刊、■シニア記者がつくるこころのページ■に、文芸評論家の加藤典洋さんが取り上げられています。編集委員・浦田憲治という署名入りの記事です。
加藤典洋(かとう・のりひろ)1948年山形県生まれ。東大仏文科卒。85年「アメリカの影」でデビュー。私がずい分以前に読んだ「敗戦後論」は、98年伊東整文学賞を受賞。現在早稲田大学教授。>

加藤典洋さんに聞く」「震災・原発事故に思う『前進し、変えていく』発想を」「経済的にも生き方も」
見出しの最初は「外国で震災と原発事故のニュースを見て、せつなくて涙が出てきた」

引用して紹介したい箇所がたくさんありますが、長くなりますので、一部のみ「(地震が起きたとき、加藤氏は米国にいた)日本で入手しにくい安定ヨウ素剤を送ろうと奔走した。しかし、どこでも売り切れていた。放射能はDNAをきずつける。特に胎児や成長期の子どもは甚大な被害を受ける。安定ヨウ素剤は40歳以上にはほとんど意味がないことを、そのとき知った。要するに放射能と言うのは、年齢の若い人々、これから生まれてくる次代の人々を襲う。・・・・自分が十分に引き受けられない苦しみを未来の人間に負わせることの自責の念には、これまでに味わったことのない、未知の痛みがあったように思う。」

次の囲み見出しは原発は段階を踏んで順次停止し、代替エネルギーの開発に力を注ぐ」
ここで、「敗戦後論」の紹介があるので、引用します。

加藤さんの代表作は「敗戦後論」。日本の戦後は間違った戦争という原点の「よごれ」や、護憲派改憲派の対立の「ねじれ」を直視することを怠ったために空洞化した。そこから回復するために、まず日本の300万人にのぼる「戦争の死者」と向き合うことからはじめて、アジアの2000万の死者の哀悼や謝罪に向かうべきだと論じ、大きな反響を巻き起こした。
硬直したイデオロギーをかざすのではなく、現実に立脚して理想へとつなげる柔軟な志向で注目された。原発についても「すべてを即時停止」の強硬派と距離を置く。
代替再生可能エネルギーの開発は、私にとっては引き返すことではなく、前進することだ。経済的にもそれで新しい産業を興し、産業構造を変えていく。生き方も哲学も更新していく。「生活水準を下げよう」とか「電気は消しましょう」という主張には思想的に賛成できない。経済成長の「成長神話」を、後退ではなく、前進することで乗り越えていく脱「成長」の考え方、普通の人々の感覚に足場をおく考え方が良いと思う。
(略)
現在脱原発に転換した国がスイス以外では、ドイツ、イタリアと、旧枢軸国だということの意味を考えたい。第2次大戦で敗れ、核兵器をもてない軍事的デメリットがいま「代替エネルギーへの転換」の身軽さとなって表れている。他の旧連合国、旧ソ連の核保有国は、産業構造と国防方針からそれができない。なぜ同じ敗戦国で、原爆、ビキニ環礁の被害経験をもつ日本でこれほど反応が鈍いのか。メディアの社会的機能が麻痺していると言うほかない。

最後の見出しは原子力を考えるときにゴジラは過去に、アトムは未来に分かれる」
これは、著書の「さようなら、ゴジラたち」から。その著作の内容にもふれつつ、の箇所を引用してみます。

1954年に最初に作られた「ゴジラ」は、単なる娯楽用の怪獣映画ではなく、この年の3月に行われたビキニ環礁でのアメリカの水爆実験に抗議する映画とされてきた。でもそれではこの映画が50年も続いた理由は明かされない。そこで私は、第2次大戦の日本の戦死者たちへのわれわれの「後ろめたさ」がそこに投影されていると考えた。なぜいつもゴジラは日本にだけ来襲するのか。「還ってくる」のではないか。
でもゴジラには、戦争の死者からの逃避と「核」の未来への恐怖と、過去と未来の要素が2つともあると考えるべきだったと、今は思う。実は「鉄腕アトム」もほぼ同時期、50年代前半に始まっている。こちらは原子力で動く。同じニュークリアが「核」と「原子力」に訳し分けられ、分岐した。・・・・・
今後は両者の間にどういう対話が成り立つか、考えてみたい。
最後に一言、現在の政局は問題だ。菅首相が送発電分離、再生エネルギー促進を主張し、経産省、電力会社、政界守旧派と対立しているのが基本構造だろう。どんなに人間が悪くともよい(笑い)。菅首相にはぜひ、初心を貫徹してもらいたい。

最後の政局について。これは、昨夜、夫が話したことと全く同じでした。夜9時のニュースを見ていて、夫が「ストレステストはいいと思う。菅さんは延命でやっているのかもしれないが、それでもいいんじゃないか。再稼働やられることを考えたらずっとマシだ。」と。私も、「世論の動向を読んでいることは確かね〜」と。「支持率があがると思ってるんだろうけど、それでいいんじゃないか。枝野なんかもやっとまともな事を言い出してるし」と。菅さんの「初心」かは大いに疑問ですが、脱原発に道筋をつけることが一定のメドなら送電分離まで含めてキッチリやっていただきたいものです。
先ほどのNHKスペシャル「徹底討論どうする原発」、吉永さんがただ一人の女性ながら頑張っていました。
ニュースで原発事故の解説をやっていたNHKの方の問題提起ももっと深めて欲しい問題(放射性廃棄物の処理)でした。