ETV特集「原発事故に立ち向かうコメ農家」

12月4日(日)夜10時から放送されたETV特集原発事故に立ち向かうコメ農家」。
原発事故さえなければ今年も消費者に喜ばれる「安心、安全、美味しいお米」を生産していただろう二つの村の農家の闘いを取材した番組。一つはグループで高価な薬剤を散布して土壌改造に挑み汚染を限りなくゼロにしようと挑む姿。もう一つは電力会社に土壌の放射能汚染被害を認めさせ損害賠償を求める独自の闘いに挑んだ鈴木さん。2つの村で放射能汚染に立ち向かう人々の8ヶ月の記録です。メモから番組の内容を:

福島第一原発事故現場から70km、標高300m、人口およそ6000人の天栄村は周りを森に囲まれミネラル豊富な源流水に恵まれた里山の農村。
21人の農家が集まって5年前、「天栄村米栽培研究会」を立ち上げた。土に水に作物に良かれと思うものは何でも試みてきた集団で、米の食味のコンクールで3年連続金賞を獲得、全国にその名を知られた。”安全で美味しい”という旗印を下ろすわけにはいかない。


4月。国は農地は5000ベクレル/kg以上で作付け制限、米は500ベクレル/kg以上は出荷制限すると決めた。県の調査では村の農地は作付け可能の数値、1128Bqだった。事務局長の吉成さんは、「自分の子どもに放射性物質の入ったものを食べさせたい親は一人もいない、だから限りなくゼロにしたい。食味か安全かーなら、安全をとるしかない」と仲間に訴えて除染に励みます。
まず、セシウムを吸収するという化学肥料のカリウムの散布を。しかし欠点が、塩化カリウムの大量散布は栄養過多で米の味を悪くします。味より安全と、10アール当たり通常の4倍の40kgを散布。
村役場の職員でもある吉成さんは、次に天然鉱物で土壌改良剤のゼオライトに注目。しかし、取り込む性質は栄養分まで取り込んで米の成長を阻害する恐れが。
豊かな土作りをやってきたグループは苦汁の選択を迫られます。散布自体が大変な仕事であり余計な出費でもある。無農薬で20〜30年とやってきて、2年前は最高得点で金賞を得た石井さんも「田圃が変わってしまうのでは? セシウムが取れたとしても米の味はどうなる?」と心配です。


4月下旬、5000Bq/kgを越える20km圏内は作付け禁止となった。原発事故現場から60km地点の大玉村では、最初の調査では7081Bqだったが、その後の再調査では4197Bqとなり、辛うじて作付け可能。
大規模農家の鈴木博之さんは10ヘクタールの農地と別に20ヘクタールを請負う農業法人の社長さんで米一筋に生きてきた。極力農薬や除草剤を減らし安全な米作りをしてきた。米の美味しさには自信をもっていて、20年以上全国200人に直接宅配便で届けている。

しかし、事故以来、資金繰りが苦しくなる。直販店では去年の米まで売れなくなり80%も落ち込む。自前で去年の米まで調査を依頼して分析結果を発表している。風評被害で売り上げが落ちれば、当然資金繰りが苦しくなり銀行に行く。しかし、売り上げの落ちた農家に銀行は貸さない。
銀行から罹災証明書、被災証明書がなければ融資できないと言われ、村に農地の放射能汚染を理由にして証明書の発行を依頼。しかし、村は原発事故を理由とした罹災証明書を「前例がないから」と発行しない。村が出したのは「罹災届出証明書(=罹災証明の発行を願い出たという証明)」だった。


鈴木さんは言う、「原発って事故でしょ。事故証明出ないんですよ。県も指導出来ない。罹災証明は市町村長の出すもので・・・と。県がダメなら国がーと農水省に電話すると、担当者は「わからない。内閣府原発事故の対策室がある」ということで、鈴木さんは4月25日東京へ。「たらい回しですね」と鈴木さん。「村の指導に当たるのは経済産業省原子力安全保安院だ」と言われ、ひとまず村へ戻り、田植えを済ませて一段落してから経産省に連絡。


 広報課への電話で鈴木さんは言います。「土壌汚染で被害が出ているので被害証明を出して欲しいと村→県→農水省→お宅を紹介された。証明書を出すのは地方自治体だってことは分ってるって。出すように指導できるのは? お宅の大臣だって言ってるでしょ、被害者救済だって。原子力事故だって前例がないんだから…。発行の道筋を何とか遣ってもらわないと困る。頼んで放射能をバラ蒔いてもらったワケじゃないから」。
その後ようやく(6月8日)村から原発事故を理由として被災証明書が出た。その理由は放射性物質が測定されたため去年の米が売れなかったことと、直売所の客が減り売り上げが減った事を理由にしたものだった。鈴木さんが求めている放射能土壌汚染による被災の証明ではない。


証明書を手に入れようと調べているうちに鈴木さんは奇妙なことに気づく。
放射能を汚染物質として規制する法律が見つからないのだ。例えば、「土壌汚染対策法(平成14.5.29)」を見ると、第2条「特定有害物質」項目には「放射性物質を除く」と書かれている。
また、「水質汚濁防止法(昭和45.12.25)」には「適用除外」という項目があり、「放射性物質による水質の汚濁には適用しない」と書かれている。
環境庁に問い合わせた鈴木さんは言う、「放射性物質は危険物質ではないそうです。土壌汚染防止法の中の26の有害物質の中に入ってない。だから、引っかからない」「事故なのに、警察は動かない。罹災証明も出さない」。
環境基本法」の第13条には、「放射性物質による土壌汚染は、原子力基本法などの法律で定める」と書かれている。
しかし、この時点で日本には原発事故により放出された放射性物質による土壌汚染にどう対処するのか具体的に定めた法律は存在しなかった。



さて、場面は変わって新白河駅ゼオライトより効果のある物質を求めてメーカーの責任者を出迎える天栄村のメンバーがいます。今度はインクの顔料プルシャンブルーがセシウムを取り除く強力な力があると言うのです。チェリノブイリでも牛の餌に混ぜて効果をあげているとか。放射能除染の専門家、川本徹さん(産業技術総合研究所)も初めて迎えることに。村の農家の手探りの除染の努力が続きます。今度は特効薬になるのか?
メーカー側の説明ではゼオライトより放射能を吸収し、何よりも選択性が高いのが特徴で、カリウムと一緒でもセシウムを取り込むと言う。吸着率は1万個あれば9999個取るという説明。プルシャンブルーを田圃にまくことにしたメンバー達は、土壌中のセシウムも取り除けるのではと期待がふくらむ。
しかし、1ヵ月半後の専門家との会合で、プルシャンブルーの効果は水に溶けたセシウムの除去に効果があって、土壌や粘土にくっ付いたものをはがすことはないという説明。


6月。大玉村の鈴木さんは新たな苦難を。牛の餌の雑草から基準値越えの数値がでた。この頃、東京電力風評被害が特定されれば賠償に応じる姿勢を明らかにしていた。しかし、鈴木さんは別の考えだった。風評被害などではなく、土壌汚染などの環境そのものが汚染された損害賠償を考えている。「先祖から受け継いだ農地をよそから毒まかれて我慢しろという態度がおかしい。事故の説明、謝って、それから賠償ならわかるけど、説明も謝罪もなくてでは・・・」。
6月30日、上京して東京地方検察庁へ。東電を訴えて告訴状を提出。一人で書き上げた告訴状の内容は、土壌汚染と農業用水を汚染されたことの二つの被害にしぼった。     (つづく)