「おお友よ、この声ではない」(「シラー、べートーベン、ヘッセの流れに立って」)

手元にある「第九条の会ヒロシマ」の会報77号に、2月16〜7日、大阪PLP会館で開催されたという[第16回許すな!憲法改悪・市民運動全国交流集会]の報告記事が載っています。以前、この会のストップ改憲の新聞意見広告に無記名で参加したことがあり、それから会報が送られるようになりました。大阪で2月にあったというこの集会のことも知らないでいましたが、その16日の記念講演が掲載されていて、その演題をブログのタイトルにしました。
韓国の親日家という方の講演です。東アジアの平和の問題について、隣国の方のご意見です。「日本と竹島は関係がない」という日本人歴史学者の名前が挙げられていますが、初めて知ることでした。長いお話なのでダイジェストにしてお伝えしたいと思いましたが上手くまとめられずソックリ移すことにしました。是非、読んでみてください。

おお友よ、この声ではない
金永縞(キム・ヨンホ)檀国大学硯座教授、金大中政権産業資源相

                                                植山耕平


 ベートーベンの9番に「おお友よ、この声ではない」という歌詞があります。民族主義的な、軍国主義的な声ではない。フリードリッヒ・フォン・シラーの、世界の人類が我々の兄弟だという歓喜唱歌を歌詞にするとき、ベートーベンが自ら書いた言葉です。ヘルマン・ヘッセが、ドイツのナチズムが登場したときに、「この声ではない」というエッセイを書いて、ドイツから追放されました。シラー、ベートーベン、ヘッセの流れに立って申し上げたい。


井戸の中の鯨
 私は朝日新聞に、日本は「井戸の中の鯨」と書きました。「井戸の中の蛙」と言いますが、日本は決して蛙ではない、世界の大きな鯨です。ただ、日本の発想の枠組み、または内なる国際化という面では、井戸の域を超えていない。その意味で「井戸の中の鯨」ではないかと思います。
 世界での日本の存在感は非常に大きいです。ただ、私は日本に来るたびに、日本の新聞を見るたびに、日本はまだ井戸の中の域を超えていないような気がします。日本の経済、ソニーPanasonic、世界一の企業がどうして競争力が低くなったのか。日本の国内市場に合わせて経営戦略をたてるから、結果的には国際競争力は低くなった。三星やデウは、世界市場を目標にして、戦略を立てるから競争力が高くなったという、私も同感です。日本は国内市場が大きいので、これを見て経済戦力を立てるから、井戸の中の鯨が、どんどん競争力が低くなったのではないでしょうか。
 私がハーバード大学に行って驚くのは、日本の学生が非常に少ないことです。韓国の学生の1/8だと聞きました。中国で日本人が8万人ぐらい、韓国人が80万ぐらいです。日本人は韓国人より人口が多いのに、世界の大学で日本人が非常に少ない。国内大学ばかりを見て、「井戸の中の鯨」になっている。その鯨は、井戸の中でどんどん体が小さくなる。「海の中の鯨」でなければならない。日本で今最も重要なのは、「井戸の中の鯨」を「海の中の鯨」に解放することです。


東アジア情勢

 冷戦が終わったら黄金の時代が来るという期待があったのですが、冷戦が終わって20年、今の東アジアは、道に迷っているように思います。私はパブロ・ネルーダさんの「飛ばないと道に迷う」という詩が大好きです。飛ぶことが出来ず道に迷っているのが、今の東アジアの状況ではなかろうか、道が失われた20年ではなかろうか。日本で安倍さん、韓国で朴さん、北朝鮮で金某、それから中国で習近平さん、4つの最高権力の関係が本当に怖いです。New York Timesで、この4人の歴史的恨みと戦いが、東アジアの危険性、非常に危険になるだろうと特集が出ました。東アジアは今、非常に危険な状態です。
 東アジアとは何でしょうか? 東アジアは、日本の侵略があったところだと私は思いますその侵略に対して、日本は歴史清算をしなかった。歴史和解が出来なかった地域です。ヨーロッパで今、EUが可能になった一番の理由はドイツがナチズムの歴史を解決したことです。ドイツのメルケル首相が、「我々は、ナチズムの責任から永遠に逃れることは出来ない。ナチズムの問題はヒトラーだけの責任であろうか。ヒトラーに全ての責任を押し付けて、我々に責任はないのか。この責任は、ドイツの市民と知識人の責任であろう」という講演をされましたこれは安倍さんとは正反対でドイツが歴史を清算したことが、ヨーロッパの和解につながって、それが今のEUになった。東アジアの危険な状態が今まで続く一番大きな理由は、日本が歴史を清算しなかったことだと私は思います。 

 私は日本に非常にお世話になりました。日本で博士号を取り、日本の国公立大学で正式な教授は、私が第一号だった。本当に立派な友人もたくさんいます。それで何か恩返しをしようと思って活動をすれば、日本の新聞で反日家という記事が出る。私は本当の意味で親日家です親日派ではなく、親日家です。日本は過去の歴史を清算する力があると私は思います。慰安婦の問題を解決しないのは、日本の指導者の罪だと思います。「強制性はなかった」では、通じない。ニューヨークの上院で、慰安婦の問題に対する決議案が通りました。これは日本の右翼が手紙をいっぱい送り、それに反発するために、満場一致で通過されました。日本は解決する力が随分あるのにそれを隠して、このような結果になったのだから、一般の日本市民が大きな損害を被る悪循環を、止めなければいけないと思います。

 東アジアの最高指導者を巡る恨みの悪循環。韓国人と中国人の恨みは、非常に深いものです。しかし、それは簡単に解決できると思います。韓国も中国も、そこから解放したいという気持ちでいっぱいです。それを全部清算して、「海の中の鯨」になってほしいんです。日本の市民は、日本の知識人は、私の日本の友人は、そういう力と自覚があると思います。どうしてそれが出来なかったのか、私は不思議に思います。その恨みによって、民族主義の悪循環に入って、軍拡の悪循環に入る。中国が軍備を拡大したから、日本もしなければならない、憲法九条を変えなければならない。軍拡の悪循環、そうすれば税金を取るしかない、生活水準は低くなる、平和は後退せざるを得ない。中国のこれからの軍拡、覇権主義を止めるには、昔の日本の覇権主義の伝統・陰を解消することが一番だと思います。信頼の好循環を拡大すべきであり、その主人公は市民です。


Voice democracy

 安倍さんを中心とした保守派は、慰安婦の強制性は無かった、歴史を清算することは何もない、憲法九条はもう変えるべきだ、普通の国になりたい。この声ではないと思います。原子力反対のデモが東京で10万人以上が集まったという韓国の新聞をテレビで見て、次の日に私が東京に来て、日本でも市民革命が行われるだろうと思っていました。日本の市民運動は主に、生活の問題、生活の改善を中心にして、政治権力の問題は割と比重が低いような気がします。韓国とは正反対です。韓国では市民運動が市民革命になって、それで政権が変わった。市民運動によって政権が変わったのは、アジアでは韓国しかない。日本で、10万人、15万人が集まった市民の集会が、政権にとって大きな危機になると思ったのに、いざ東京に来てみれば、そうではなかった。新聞の記事も、韓国の新聞の1/10にもなっていない。我々が色んな運動をしたんですが、日本の新聞には記事になったのはほとんどありません。日本の大きな新聞は何の声を代弁する新聞でしょうか? 

 私は、数年間に東京のホテルで開かれた憲法九条の会に参加しました。その時、1000名前後の人が集まり、「これなら憲法改正はありえない」、この集会の記事は明日の新聞の一面トップになるだろうと思い、その次の朝早く起きて新聞の一面を見たら、記事はありませんでした。三面の社会面で一番小さい記事が出ていました。何の声をを代弁する新聞であろうか。私は朝日新聞に勤務しました。朝日新聞の21世紀委員会の委員も務めました。そのおかげで朝日新聞が私の机に毎日来るんです。それを読むときに私が思うのは、竹島の問題など、こういう記事になれば日本の読者が「韓国人はけしからん」、そう反応するしかない。どうして真実を報道してくれないのか?日本の新聞は本当におかしいと私は思います。 

 皆さんご存知のように、voting, 投票が重要です。選挙の時の投票は、次に選挙までの間がかなり長くなることがありますし、この間にいろんなことが起きる。だから投票で、自分の意思を表すことには限界がある。また投票は、新聞の記事を見て、いろんなvoiceを聞いて、それで投票を決める。だから選挙の投票より、もっと重要なのはvoice、声です。市民の声が大きく報道される、そういう仕組みでなければならない。だから今の democracy は、voting democracyではなくて、voice democracy という人もいます。voiceの内容は重要ではありません。そのvoiceの聞ける仕組みを作るのが、非常に重要です。市民のvoiceがそのまま伝わるマスコミでなければならないアメリカの新聞・マスコミより、、日本のマスコミははるかに、一般市民のvoiceを反映していないと思います


平和国家と憲法九条
 日本の道路を歩くと、右翼のマイクでの大きな声ばかり、この声ではないんです憲法九条、私は世界の宝だと思います。世界のすべてが、日本の憲法九条のような平和国家をめざす、日本について来るように、世界のモデルにしなければならない。これは、普通以下のモデルではなくて、普通以上のモデルです。普通以上のモデルを、普通国家にするのは、名誉ではないと私は思います。

 世界でアメリカやイギリスやフランスの軍事産業が繁栄する理由は、中東問題もありますが、東アジアの緊張によって、中国が軍備拡大する、日本が軍備拡大する、北朝鮮がする、韓国がする、台湾がする、こういう悪循環が、東アジアを世界最大の武器市場にしているからです。この中で、日本が「いや、軍拡でなくて、平和国家の方向で行きましょう、日本と韓国で行きましょう」と言い、これに中国と北朝鮮がついて来るように、アメリカも同じ方向で来るようにしなければなりません。日本は非核国です、韓国も非核、モンゴルも非核。これで手を携えて、東アジアの非核地帯化を目指す。アフリカも、ヨーロッパも、東南アジアも非核地帯化されて、次は東アジアの非核地帯化です。日本が底で先頭に立てば、アメリカの政府もついてくる。そういう方向に行けば日本は、世界の平和で先頭に立つ国になります。どうして軍拡や核開発、憲法九条を改正する方向に行くのか。それは市民の声ではない。この地域の緊張が高まれば、ナショナリズムの悪循環が高まれば、最高権力者の国内での立場はどんどん強固になります。これは誰のための構造でしょう。


領土問題
  私は、日本と韓国の間に領土問題はないと思います。歴史問題があります。竹島の問題は領土問題ではないと、韓国人は思っています野田総理が昨年8月下旬に、竹島が日本の領土である3つの理由を挙げました。1つは17世紀に日本は領土権を確立した、2つは1905年に国際法に従って日本に編入した、3つはサンフランシスコ講和条約によって日本のものにした。このように首相が日本の国民に話してもいいのでしょうか。たとえば日本で竹島の本当の専門家は、5,6人しかいない。韓国でも5,6人しかいない。研究のほとんどは、勝手に書いたコラムです。
日本の大学教授で、歴史の専門家として本当に論文らしい論文を書いた方は、神奈川大学の梶村教授、島根大学内藤正中京都大学の堀和生、名古屋大学の池内敏。この方々の論文で、日本と竹島は関係ないとされています。歴史家では無くて法律家の中で、竹島は日本の物だという論文はあるのですが、梶村秀樹が「竹島は日本とは全然関係ない島だ」と書いている。それで彼の論文の一番最後に、自分の住所と電話番号が書かれていて、「疑問があったらここに電話<して下さい」と添えられていた。梶村さんが亡くなった時に、韓国の新聞に私が追悼文を書きました。「日本の名誉のために、学問の真実のために、先生がこういう論文を書いたので、もし韓国の史料を見て、この島は日本の島だと思わせる史料が出てくれば、私は必ずこの島は韓国とは関係ないと書きます。」と誓った追悼文を書きました。
 北海道で社会科の先生の組合が、竹島は日本と関係ない島だという声明を2008年に出しました。2011年に東京の社会科の先生の組合が、竹島は日本と関係ない島だと発表しました。去年(2012年)の末は東京の市民の2000名が、竹島は日本と関係ない島だという声明を出しました。


紛争の島から協力の島に 
  日露の北方四島、日韓の竹島、日中の尖閣諸島、この紛争の種になっている島が、これから東アジア共同体の協力の種になる方向しかないと、私は思いますアルザス・ロレーヌ地方で、鉄鋼と石炭をヨーロッパが共有することによって、EUが可能になった。今の紛争の島を、この地域の協力の助けにする、協力の島にしなければならない。日本と韓国と中国と台湾と、この東アジアの市民はそういう力が、私はあると思います。そういう力を発揮するのが、今の時代で何よりも期待する新しいリーダーシップだと思います。
 昨年の末に日本で日本市民のアピールが出た時に、私は韓国で相談して500人以上の知識人が、それを応援する声明に署名をした。もちろん台湾もそうです。そういう市民のアピールに対する、向こうの市民がそのまま支持する、こういうモデルが確立されつつある。もっと大きくしなければならない。アジア市民の連帯、この市民の声を、この声を引き出す。こういう協奏曲を、ベートーベンの9番、を練習しなければならない。その主人公は政治家ではなくて、一般市民だと思います