彼岸花と黒沢明監督の「赤富士」

金曜日の夜、夫は今年スタッフとして関わった初級登山学校の終了山行で立山に月曜までの予定で出かけました。父には土曜日はお休みにするね、と言ってありましたので、母は用事で千里中央へ、私は水中歩行のプールへと出かけました。お彼岸で私の大好きな田圃彼岸花が咲いている頃ですので帰りは田圃の中の道を行くつもりです。
稲は”実るほど頭(こうべ)を垂れる稲穂かな”状態です。彼岸花は咲き終わったのもあれば満開の勢いあるのも咲き始めもツボミも、草刈り機で切り倒されたのもありました。西日が差す中で写真を撮りました。
鍋田川に掛かる平成4年に掛けられた竹下橋を渡って住宅街に入り、角を曲がったところで思いがけない人に出会いました。ここ何年も会っていなかったNさんです。ビックリして「お元気でしたか〜、お元気そう!」と。ここ数年体調不良と聞いていて連絡も取れなくなって、暮の集まりにもお誘い出来ないでいました。
「Nさんにいただいたクリーム色の彼岸花、今までず〜っと咲いたことが無かったのに、今年初めて咲いたんですよ〜!」と早速ご報告です。Nさんは、「これ、これ、咲いてるでしょ。ツボミのコチラは赤花みたいだけど」と、私が頂いた辺りの植え込みの彼岸花を指さして。
「お元気になられたんですね〜」「あなたも元気?」「はい、お陰様で何とか…、またお茶でも飲みに来てくださいね〜。じゃ、失礼しま〜す」と別れてきました。
彼岸花が咲いたのはこのことだったのね〜!ととっても嬉しい再会でした。これはお知らせしなきゃと夕食前、以前Nさんのご近所に住んでいて今は山口に引っ越した一人暮らしのWさんにお電話しました。

ところで、金曜日の夜、夜更かししたテレビの画面に黒沢明監督が!? 今年没後15年だそうですが、オムニバス映画「夢」の中で原子力発電所の爆発を描いている…という話はどこかネットの記事で読んだ覚えがあります。この番組(報道ステーションだったような)もそのことについてでした。
脚本家の橋本忍(95)さん(→)が取材に応えています。核の問題を初めて取り上げた映画がビキニの水爆実験のあった翌年の映画「生きものの記録」。私はこの映画を「七人の侍」の黒沢映画だからと池田の映画館へ見に行ったことがあります。三船敏郎のお爺さんが叫び狂ってる映画でビキニマグロが出ていたような。サッパリわからなくて、何が黒沢映画だ…なんて感想だったと思います。

Wikipediaで内容を調べて解りました。放射能の怖さに怯える老人は、周りの安全神話を信じ切った家族や他の人たちからすると「狂人」にみえたのですね。これは、当時中学生になったばかりの私には到底わからなかったはずです。原子力発電そのものが分っていなかった。原子力は平和の火というキャンペーンの方の記憶もありません。ところが、ビキニの水爆実験で久保山愛吉さんが亡くなったというニュースは覚えています。それとこの映画が関係があったというのはビキニのマグロで分ってはいたのですが、それだけでした。世間的にもそうだったのかもしれません。この映画の内容は、あれから半世紀以上も経って福島の原発事故があって初めて黒沢監督の描いた内容が鮮明になったというので、今また見直されているそうです。

評価:この映画のみどころは、三船敏郎演ずる老人が日本の状況に危機感を持ち行動を起こすが、日常の生活を優先する家族に締め上げられ次第に狂っていく綿密な描写にある。


『あらかじめ分かっている問題にどうして対処しようとしないのか』というのがテーマとなっている。映画監督の大島渚は鉄棒で頭を殴られたような衝撃を受けたとしており、徳川夢声は、黒澤に対して「この映画を撮ったんだから、君はもういつ死んでもいいよ」と激賞したという。また映画評論家の佐藤忠男は「黒澤作品の中でも問題作」と述べている。


しかし、脚本家の橋本忍の回想によると「生きる」「七人の侍」の大ヒットに続いた作品にもかかわらず、記録的な不入りで興行失敗に終わった。その原因を、脚本作りのミスと、原爆という扱いづらいテーマを取り扱ってしまったことによる、と橋本は分析している。


鈴木敏夫(スタジオジブリのプロデューサー)は本作について「震災後に改めて観ると、以前にくらべて「受け取る印象がこうも違うのか」と思いましたし、すごくリアリティがあった。黒澤っていう人は面白いなと、つくづく思いましたね。」「今観ると言いたいこともはっきりしているからすごくリアリティがあって。多くの人に、今観てほしい作品です。」「黒澤監督は、関東大震災を目の当たりにしているそうなんですね。たくさんの瓦礫と人の死が自分の記憶の底に残った、と著書に書いていて、そういう意味でも戦争や核の問題に対して敏感だったんでしょう。昔観たときは、『生きものの記録』はむしろ「喜劇映画かよ」っていう印象でしたが、震災を経ることによって、黒澤監督が作品に込めた考えが、やっと伝わってきたような気がしています。」と日本映画専門チャンネルでの岩井俊二との対談で述べている。

そして、8つのエピソードで出来ている映画「夢」の1つ、「赤富士」は、富士山の爆発ではなくて6つの原子力発電所の爆発を描いています。(←黒沢監督の絵コンテ)

「大勢の人々が逃げ惑っている。何があったのかわからない。目の前では赤く染まった富士山が大噴火を起こしている。原子力発電所が爆発したという。目の前に迫る色のついた霧は着色された放射性物質であった…。」
コチラは3・12の原発事故後、改めて話題になったそうで、僅か1か月後の11年4月13日の映画ニュースで取り上げられています。

黒澤明、映画『夢』の「赤富士」で原発事故を20年前に糾弾。
原発は、安全だ! 危険なのは操作のミスで、原発そのものに危険はない。絶対ミスを犯さないから問題はない、とぬかしたヤツラは、許せない!」と子連れの母親が絶叫するシーン が話題だ

(全文はコチラで:http://www.cinematoday.jp/page/N0031643

★1985〜86年の黒沢明監督直筆ノートに書かれた文章です。

猿は火を使わない。
火は自分たちの手に負えないことを知ってるからだ。
ところが、人間は核を使い出した。
それが自分達の手に負えないとは考えないらしい。
火山の爆発が手に負えないのがわかっているのに、原子力発電所の爆発ならなんとかなると思ってるのはどうかと思うね。
人間は猿より利巧かも知れないが、猿より思慮が足りないの・・・・