「日米関係にとって靖国参拝より問題なのは?」(そもそも総研4/24)

オバマ大統領来日直前の「そもそも総研(4月24日)」のテーマは、「オバマ大統領来日!そもそも いまの日米関係っていいのだろうか?」でした。こどもの日の今頃?という感じですが、元外務大臣東郷氏とニューヨークタイムズ紙局長さんのお話を書き起こしてみました。お二人のお話を聞くと、アメリカが今の日本(安倍政権とそれを支持する)の何に不信感を持っているのかが良く分ります。


元外交官・京都産業大学世界問題研究所長/東郷和彦氏:私は靖国問題に関しては元々戦前亡くなっていかれた英霊を弔う場所として最適な場所は靖国神社だという意見の持ち主です。
[東郷氏の祖父は戦時下の外務大臣を務めた東郷茂徳です。茂徳氏は靖国神社に合祀されている。]
しかし、安倍総理靖国に行かれたことで一番喜んでいるのは中国です。なぜかというと、日本は尖閣で衝突になるかもしれないというのは本当の問題で、しかも中国が遣りすぎているからです。それはだいたい去年一年間の国際世論になってきていた。そのせっかく日本にとってすごく有利に展開していた国際世論を(安倍総理靖国に行かれたことによって)「日本が戦前に戻ろうとしているんですね」という中国のキャンペーンがそこから始まってきて、中国は今それを徹底的にやっているわけです。その口実を与えてしまった

[中国を利することになったという靖国参拝、日米関係にどう影響しているのか?]
玉川徹キャスター:今の日米関係は良いんでしょうか? あるいは、良くないんでしょうか?
東郷和彦氏:良くないと思います。

中国と言う本当に難しい国を相手にして日本もよくやって、アメリカもそれを評価しているという流れで来たと思う。ところが、(去年12月)靖国へ行ったことが、これが弟一発です。一体、日本は同盟の意味を本当に分っているんだろうかと、すごい疑問がアメリカに出ちゃったと。
玉川:同盟の意味と言うのは、どういう?

東郷:つまり同盟国というのは、お互いの国の国益の一番大事なところを相互に理解し合うということによって同盟は出来ているわけです。

靖国に行くということは中国を刺激することは間違いないんです。
玉川:誰にでも解ります。

東郷:今の段階でこの問題で中国を刺激しちゃいかんと言うことは、良く分るわけです。アメリカは,だから事前に今の段階でこの問題を揺さぶらないでと言うメッセージを事前に何度も出していたようです。ところが、そのメッセージにもかかわらず、安倍総理が行っちゃったと。一体その結果としてアメリカを戦争に巻き込むんですかと言う問題が出ちゃった。非常に同盟国として信頼に足る行為を取っていないということです。
[毎年ワシントンを訪問している東郷氏がワシントンで感じたこれまでと違う雰囲気とは?]
東郷:「本当に戦前に戻るんですか?」と言う疑問が日米関係に出てきたのは初めて。日本が戦争との関係で何処に行くんですか? 本当に戦前に戻るんですかと言う疑問が日米関係で出てきたのは今年の春が初めてだと思います。
 靖国の問題と言うのは、実はこれは安倍総理の考え方の一部であって、もっと深い所に何かアメリカ人がこれまで理解出来なかったものがあるんじゃないかと。それはアメリカが端的に言っている、「戦後レジームからの脱却」と言うそのこと自体、アメリカからは良く分らない。「戦後レジーム(の脱却)」と言えば、アメリカから見ると戦後の占領期間で、その期間と言うのは基本的に良いことをやってきたつもりなんです。日本を民主的、平和な日本にしていくと。そのレジームから脱却して、どこへ行くんですか?と。それで靖国問題で火がついて、それで深刻な問題として表に出てきた。靖国に行かれたことから端を発して実は戦前の日本に戻るんですかと言う疑問が出てしまった。

 ところが、アメリカ人にとっての戦前の日本は何かと言うと、1つは真珠湾奇襲攻撃です。アメリカ人の大体の国民的な記憶は、やっぱりあれは”騙し討ち”にあったということです。アメリカ人の記憶がそこから抜けていない。それから特攻隊、そして戦争捕虜の問題。こういう日本にお戻りになるんですか?と。それが安倍総理の言う戦後レジームからの脱却なんですか?と言う単純な疑問が、これは結構、アメリカの政界の上から普通の国民に至るまでジワっと出始めた。
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次に、ニューヨークタイムズ東京支局マーティン・ファクラー支局長に聞きます。
玉川:アメリカのメディアは安倍総理の発言やそういうものに対してある種危惧するような社説や記事を書いている背景には一体何があるんですか?
マーティン・ファクラー支局長:靖国参拝だけでは、あんまり、普通のアメリカ人はあんまり気にしないんです。正直言って、いいんじゃないかと。

ただ、あのNHK(経営委員)の百田尚樹さんとか、小説家がいますね。あの人が例えば”原爆は南京よりヒドイ虐殺だ”とかいうような発言をすると、やっぱり、こう、日本にとって有利ではない形で第2次世界大戦のことを又取り上げられるということです。
玉川:アメリカの中で? 
ファクラー:そう、アメリカで。つまり戦争の時はアメリカは日本の敵だったんです中国が同盟国だったんです。そこまで遡(さかのぼ)ると本当に……
戦後の70年間ずっと日本が同盟国であったし平和的な国であったことを無視して日本が一番悪い時代をなぜわざわざ取り上げるのか……

もっと、たとえば東京裁判が間違えていたとか、そうなると、まるでドイツがナチスは悪くなかったと言うように、受け止められるんですよ、アメリカでは。
玉川:そうすると、安倍総理靖国参拝は、単体の問題ではなくて、その周りにいるNHKの関係の人とかの発言とか側近の政治家の発言とかが、逆に不信を呼んでいるという感じですか?
ファクラー:そっちの方が危険ですよね。例えば百田さんやNHKの籾井会長とか、あの人たちが発言すると、最初安倍政権があんまり距離を開かなかったんです。あれはダメだとか、あれを否定して、安倍政権の立場は違うとか、あまり明確に距離を開かなかったんです、最初はね。
あの人たちの発言を否定しないというのは、やっぱり、それが安倍政権の本音ですか?と、そうなっちゃうんです。
[こういう不安感が続くと日本はどうなるとアメリカ側は見ているのか?]
ファクラー:日本がアジアの中で孤立するんじゃないかとか、余計に中国を刺激してしまうんじゃないかとか、韓国とどうしても仲良くできないのかとか、そういう心配が出てくるんです。

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玉川:今日の「むすび」はこれです。
日米関係は、日本に掛かっている。日本の考え方次第だということ。
リアリズムに徹して戦略的思考、日本は苦手だけど、戦略的思考で動いてほしい。
「孤立につながる道」は避けてほしい。