「強制連行の有無は問題の本質ではない」(報道ステーション「”吉田証言”検証」その2)

河野談話」(1993年)以後の慰安婦問題/"強制性”の日本と海外の差
<クマラスワミ報告と吉田証言>

古館キャスター「1966年、国連人権委員会のクマラスワミ報告の一部に吉田証言の一部が盛り込まれている。ここで軍用性奴隷という表現が使われた。どれくらい吉田証言が影響しているのか、重要ポイントです。」
○ナレーション「慰安婦問題が日韓の枠を越えて世界へと広がるきっかけとなった報告。書いたのはスリランカの女性法律家だった。
スイス・ジュネーブ、1996年。国連人権委員会に提出された調査報告。この中で慰安婦は軍性奴隷 ”sexual slaves"と表現された。そして強制連行のあった証拠の一つとして吉田氏の証言が取り上げられた。
報告「吉田清治は戦時中の体験を書いた中で、他の朝鮮人と共に1000人もの女性を”慰安婦”として連行した奴隷狩りに加わっていたことを告白している。」
報告書を書いたのはスリランカの法律家で国連人権委員会で特別報告者に任命されたラディカ・クマラスワミ氏。
そもそも、この報告は1990年代、人権意識が世界的に高まった中で戦時下にあった女性への深刻な人権侵害として慰安婦の問題を調査したものだった
20年近く前の報告が朝日新聞の記事取消をきっかけに再び注目を集めている。
西岡力教授東京基督教大学/日韓関係などを長年研究)「今セックススレイブ(慰安婦)20万人の強制連行があった。大部分が戦場で殺されたという根拠のない中傷が国際社会に広まっている根源はクマラスワミ報告なんですが、そこには吉田証言が使われている。」
菅義偉官房長官「クマラスワミ報告ですか、これがこれまで我が国の基本的立場や取り組みを踏まえていないことは遺憾に思います。そしてこの報告書の一部は先般朝日新聞が取り消した記事の内容(吉田証言)に影響を受けていることは間違いないと思います。」
○1995年7月、韓国・広州市
報告書を出す半年程前、クマラスワミ氏は元慰安婦が共同で暮らす「ナヌム(分かち合い)の家」を訪ねて彼女たちの声に耳を傾けた。聞き取った元慰安婦の証言は過酷な状況下で繰り返されたレイプなど、その実態を明らかにする理由で多く引用された。クマラスワミ氏は証言の重要性をこう強調した、「これらの証言によって軍による性奴隷制が日本帝国軍の指導部により、また指導部が承知の上で組織的かつ強制的に行われていたと信じるに至りました。」そして、クマラスワミ氏は日本政府に対して法的責任を認め元慰安婦に補償するよう勧告した。○今回朝日新聞が”吉田証言”は虚偽だったとし、記事を取り下げたことについて、現在クマラスワミ氏はどう考えているのか、われわれの取材に対し、こう答えた、「吉田証言はほんの一つの証言にすぎません。独自に行った聞き取り調査などに基づき慰安婦には逃げる自由が無く、性奴隷と定義したのは妥当です。報告書の修正は必要ありません。」

○2007年、米下院外交委員会でも直接元慰安婦を迎えて証言を聞いている。
国際社会に広がった「日本軍が組織的に女性を連行し慰安婦にした」という認識を日本は打ち消そうとしたことがある。第一次安倍政権は「軍や官憲による強制連行を直接示すような資料はなかった」という政府答弁書閣議決定した。
2007年3月、参院予算委員会安倍総理大臣「強制性という事については何をもって強制性ということを議論しているかという事ですが、官憲が家に押し入って人を人さらいのごとく連れていくという、そういう強制性はなかったということ・・・」

民主党小川敏夫参院議員「では、どういう強制はあったと総理は認識されているんですか」
安倍総理「ご本人が進んでそういう道に進もうと思った方はおそらくおられなかったんだろうと思う。又、間に入った業者が事実上強制していたというケースもあった、そういう意味において広義の解釈において強制性があったということではないでしょうか。」
★この、どのような強制があったかを、広い意味と狭い意味で分ける議論アメリカでも注目された。

○2007年5月、カリフォルニア大学サンタバーバラ校のシンポジウムで元外交官の東郷氏は日本の議論を丁寧に説明したという。しかし、会議の後こう言われたそうだ。
東郷和彦教授(元外交官/京都産業大学)「狭い意味での強制性、それがあるか、ないかにこだわっている日本が本当に世界と落差があってね。世界の世論とかけ離れたところにいることを貴方は理解していないのではないの、と。

それで、一番のポイントというのは、世界は、これをね、特にアメリカでは、今自分の娘が慰安所に送られていたらどう思うかという風にこの問題を見るんですよ、と。50年前、60年前に何が起きたという風に見ないんですよ、と。それは、貴方から見るとアンフェアかもしれないが、これが世界の現実であり、それで女性への戦時性暴力を人道に対する罪という、ナチスホロコーストと同じランクに上げてきている世界の大勢なんですよ、と言われたんですよ。
強制連行があったかなかったかという話は問題の本質では全くなくなっている、今、世界は。

○1992年当時の宮澤喜一総理「この慰安婦の方々の筆舌に尽くしがたい辛苦に対して衷心よりお詫びと反省の気持ちを申上げたいと思います。」
これまで繰り返してきた歴代総理による謝罪。戦後補償問題はすべて日韓基本条約で法的に解決しているため国家補償とは別の基金という形で償い金を支払うことにした。
1995年に設立されたアジア助成基金韓国だけでなくフィリピン、台湾、オランダにもいる元慰安婦一人ひとりに対して総理大臣のお詫びの手紙と共に償い品などを渡してきた。受け取った元慰安婦は韓国の61人を始め364人が受け取っている。しかし、韓国では基金からの償い金は政府の正式な補償ではないとして、元慰安婦まで非難される事態となった
アジア女性基金」の立ち上げから関わってきた元理事・大沼昭特任教授(明治大学法学部)「代表的な(慰安婦)支援団体の理解を得るために何度も韓国へ行って何度も話し合いを持つわけですが、自分たちの正義が50年かかろうが100年かかろうが実現しない限りは問題の解決はないと。50年〜100年かかったら元慰安婦のハルモニたちはみんな死んでしまう。そこでは自分たちの大文字の正義が個々の元慰安婦の方々の運命、境遇より上に置かれてしまっている。それはやっぱり違うだろうというのが私の正直な気持ちだった。」

そして、日韓の溝は広がっていった
2011年、韓国の憲法裁判所。慰安婦問題で韓国政府が日本側と解決に向けて努力しないのは違憲だと異例の判決を下した。
2012年8月、慰安婦問題での日本の消極的態度を理由の一つに当時の李明博大統領が竹島に上陸した。
2013年7月、アメリカでは韓国系住民の要求によって次々と慰安婦の碑や像が作られている。
そして今、朝日新聞の記事取消をきっかけに再び問い直される慰安婦問題。今後の問題をどう考えたらいいのか。(つづく)

◎参考:
第一次安倍内閣(2006年09月26日〜2007年8月27日)
第二次安倍内閣(2012年12月26日〜2014年9月03日)