「小泉純一郎独白録」(文藝春秋)から「原発ゼロを争点に」


一月、行く、二月、逃げる、三月、去る、と年の初めの三カ月はあっという間。今日から如月の2月。その先月1月号と言っても実際には昨年の「文藝春秋」誌の新年特別号の目玉は「首相退任後初」という4時間半にわたるロングインタビューの「小泉純一郎 独白録」でした。父が読んだ後の月遅れの文春誌、私は、目次頁を開いて、先に自分の読みたい記事をつまみ読みして、最後に、そういえば、目玉はこっちなんだ〜と思って、この記事を読むことに。
ところで、小泉元首相というと、私にとっても、好悪相半ばするというか、「悪」の方がまだまだ強いです。新自由主義とか、イラク戦争、日本人人質に対して国家の役割を果たさず自己責任論で非難したこと、外国らの攻撃に対する反発だけで靖国参拝に行ったこと、ブッシュ大統領から与えられた米議会演説よりはプレスリーの墓参りを選んだこと、リベラル派も抱えていた自民党をぶっ壊してしまったことや、小泉チルドレンとか刺客とか、などなど・・・唯一私の中で評価できるのは、北朝鮮に乗り込んだことと、3・11後の脱原発です。と読む前に、これだけのことを思い出して、やおら、読み始めて・・・三つのテーマで話がまとめられています。原発推進からなぜ原発ゼロに至ったか、どうすれば原発ゼロにできるか…など語っていてブレないのはさすが。原発問題を中心に適当に端折りながら書き移してみます。
インタビュアーは、ノンフィクションライターの常井(とこい)健一という方です。

原発問題への提言
「私なら原発即ゼロを総選挙の争点にする」

(前略)
<「全部ウソってちゃんと見出しにして」>
(略)

どうして「原発ゼロ」を訴え続けているのですか。

小泉 原発推進論者が言っていることもやっていることも間違っているってわかったからよ。ひでえことを俺も信じてきたなという自分への悔しさ、不明の至りだな。
 11年3月11日以降、日本は実質原発ゼロでやってきた。12年7月に大飯原発の3,4号機が再稼働して、原発は二基動いていたけど、13年9月には止まったんだ。あれも形ばかりの二基だったでしょ。今やっと川内原発の二基が再稼働したけど、原発なくても大丈夫なんだ。ドイツはゼロ戦源しても、まだ原発八基ぐらい動いているだろう。日本は宣言せずに、四年半も実質ゼロでやれている。(15年11月末時点では、国内43基中2基が営業運転中)
原発は安全、安い、クリーン」って、推進の三大スローガンが、全部ウソだというのがわかってきた。朝日のインタビュー(2015年9月13日朝刊)でも「全部ウソってちゃんと見出しにして」と言ったんだ。新聞は全然書かないからね。あの記事が出た後、「小泉さん、ウソ言わないでください」という意見が一人ぐらい出てくるだろうと思ったけど、誰も出てこない。本当だから、誰も反論できないんだよ


 東日本大震災が起きた瞬間、すごく揺れたでしょう。あれだけすごい津波が来て、原発事故が起きたのを映像で見て、ひどいもんだ、これは絶対事故を起こしちゃいけないということに気づいた。それから原発導入の経緯や実態とかを勉強しだしたよ。反原発論者の本も読んだ。福島のメルトダウンは原爆じゃないから大した放射能じゃないと思っていたけど、広島、長崎の原爆より百倍以上強い放射能がまき散らされている。こういうのを調べれば調べるほど、ひでえウソがまかり通っているとわかった
 原発が戦後に導入されて五十年もたつ。これまで1979年に米国のスリーマイル島、86年にソ連チェルノブイリで大きな原発事故が起きた。その時も「日本は大丈夫だ」と言っていた。日本人は高レベルの技術水準を持っている。誠実で、律儀で規律正しい。だから日本の原発は安心だと言っていたんだよ。ところが、事故から4年半経ったけども、未だになぜ事故が起こったのかはっきりしたことはわからない福島ではいまだに十万人もの人々が避難先から故郷に帰れないんだ。


 映画『100,000年後の安全』(フィンランドに建設中の核廃棄物採集処分施設「オンカロ」を追ったドキュメンタリー)、あれも効いたな。13年8月にオンカロを見に行った。ヘルシンキからジェット機に乗って一時間、沿岸からまた船に乗って島に辿り着く。実際に見て、これを日本でやろうったって無理だと思った。地下400メートルに廃棄物を埋めて毒性が抜けるのは十万年後だっていうからね。ピラミッドができたのだって四千年前だぜ。日本で400メートルも掘ったら温泉が噴き出すだろうし、フィンランドのように強固な岩盤じゃないから、同じことは出来ないと思ったんだ
 オンカロを見に行った直後、あの毎日の記事が出た。私が確信をもって反原発運動をやっているおが知れ渡って、反原発の人から手紙や本がたくさん送られてくるようになったんだ。その中で良さそうなのを選んで、「これを総理になる前に読んでいれば…」と後悔した。



  総理の時、私は原発を推進していた。原発のいろんな技術的な問題はよくわからないから専門家に意見聞くとね、日本にとって必要だと思った。廃棄物の捨て場所も十年、二十年たてば見つかると言われた。「科学万能」「いずれ放射能は無害化できる」とも聞かされた。でも、俺は事故があってからできないとわかったんだ。仮にできたとしても五百年先、千年先。みんな死んでいるよ。
 日本では産廃業者は処分場を自分で見つけないと都道府県知事の許可を得て会社を作れない。原発業者は産廃より危ない核廃棄物の処分場一つもないのに認められるんだ。これ、わかりやすいのに新聞は書かないね。


 最近面白い新聞記事見たんだけどね、十六年四月から電力小売りが自由競争になる。風力、太陽光、地熱、小水力、ガス、バイオマス……。原発より安い電力が得られたら自由化で原発やっていけなくなる。国民だって経営者だって安い方使うよ。原発必要論者は「政府がもっと支援してくれないと原発は成り立たない」って言いだした。原発は税金投入しないと続かない産業なんだ。

原発から出るプルトニウム核兵器の材料にも転用できますが、その平和利用が国際的に認められている状況が「外交的には、潜在的な核抑止力として機能している」と読売新聞は社説で主張しています。

小泉 ああ。これもおかしな議論だよ。もし日本を混乱させようと思ったら、原発爆破してメルトダウンを起こせば、日本人が放射能を浴びてがん患者が凄く出る。日本は右往左往、もう駄目。こんな脆弱な国はないよ。日本人に向けた核兵器を日本が持っているのと同じことになる。核燃料を貯めている処だって、やられたらおしまい。米軍基地なんか叩く必要ないよ。

我が国のエネルギー安全保障の根幹とされる日米原子力協定の存在を理由に、日本政府の政治的判断だけで原発ゼロにシフトできないとも言われています。

小泉 言われている。話聞いてみると、野田佳彦総理の時に米国との原子力協定を持ち出されて、「原発ゼロ」と言えなくなっちゃったって。だけど、日本の総理大臣が決断すれば米国は文句言いませんよ。日本のことなんだもん。

(つづく)