10月16日から始まったシリーズ「マネー・ワールド 資本主義の未来」。第1集は、5月にあった「欲望の資本主義」を思い出したので、そちらと一緒にザ〜と書き留めたのが18日のブログでした(http://d.hatena.ne.jp/cangael/20161018/1476775380)。第2集と第3週は資本主義のおさらい的になったところだけ書き留めるという形で(のつもりでしたが最初からかなりじっくり)・・・まずNHKのホームページの内容紹介を:
シリーズ マネー・ワールド 資本主義の未来
◆第1集 世界の成長は続くのか
豊かに幸せになるにはどうしたらいい? 格差ってどうして生まれるの? 商売を成功させる秘訣は? 人生につきまとうお金の悩み。その全てに関係するのが人類が生み出したシステム「資本主義」だ。その資本主義が今“500年に一度”とも言われる大きな岐路に立っている。無限に思われた成長の停滞、パナマ文書などで浮かび上がった富の偏在や巨大格差―。 社会に豊かさをもたらすと考えられてきたシステムが未知のひずみを引き起こし始めている。第1集のテーマは「経済成長」。
近年、世界の経済を牽引してきた先進国の成長が、急速に停滞し始めている。近代資本主義の発祥の地・イギリスでは、EUの離脱決定後にポンドが続落。先進各国もGDPの成長率を相次いで下方修正するなど未曾有の“超停滞経済”と向き合っている。なぜ成長は止まり始めたのか?今後も世界は成長を続けられるのか?フロンティアの消滅や、金融空間の限界など、その背景をひも解きながら、新時代での成長を模索する企業や経済学者の闘いを追う。
◆第2集 国家VS.超巨大企業 〜富をめぐる攻防〜
第2集は、成長のルールをめぐる国家と市場経済の攻防を追う。これまで市場経済を統御してきた国家が力を失い、資本主義をコントロールできなくなっている。ある南米国家は欧米の巨大企業の進出で成長を狙ったが逆に税収や失業率が悪化し国家破綻の危機にさらされている。経済が低迷する南太平洋の島国では、経済規制をゼロにすることで投資を呼び込む、「国内国家」の検討を始めている。背景にあるのは“国家のルールは少ない方が競争を促し成長できる”と考える「新自由主義」の広がりがある。今や北欧の福祉国家さえも社会保障の財源のため新自由主義の導入を検討し始めた。
そして法律や規制はいっさい要らないと国家不要論を主張するグループまで現れ、世界の国々と自治区設立を目指し、交渉を始めている。経済が行き詰まるなか、国のルールや規制を大きく変えてまで成長を求める資本主義は私たちに何をもたらすのかを考える。
△一企業の収益が国家予算をはるかに超える企業が世界にはたくさんある。巨大企業が考えるのは税金逃れ、租税回避。世界で回避された租税は2400億ドル(25兆円)、世界の法人税の一割。税金は行政サービスとして国民に還元される。国家に租税が入らなければ、国家の機能を揺るがすことに。
△アイルランドは法人税を12.5%にしている。これはヨーロッパでも群を抜いた引き下げ率。その結果アメリカから700社がアイルランドに、14万人の雇用を生んだ。この8月、アップル社とアイルランドは、EUから訴えられて130億ユーロの追徴課税を求められた。違法な優遇を受けたというが、その法人税率は何と0.005%。
◎ここで、資本主義経済のおさらいです。
もともと国家は企業があげる利益の中から税金を取って、所得の低い労働者に再分配することで社会が回っていた。
再分配の中身は、福祉や公共サービス、介護事業などで、この機能を働かせて資本主義の健全な発展をもたらした。
△ところがいま、巨大化した企業と国家の間に、巨額裁判の問題が。109か国で700件も。
エクアドル共和国では米大手石油企業との間で95億ドル(約1兆円)という国家予算の1/3にあたる金額の裁判を係争中。場所はコロンビアとの国境の油田地帯。石油会社が撤退した後も原油が漏れ続け、近隣住民に深刻なに深刻な健康被害が出ている。しかし企業が国家と撤退後の責任を負わないという約束をした。賠償責任で国家が訴えられている。決まれば史上最高の賠償額とか。これがISD条項。ネットで調べるとISD条項とは:「投資家対国家間の紛争解決条項」(Investor State Dispute Settlement)の略語であり、主に自由貿易協定(FTA)を結んだ国同士において、多国間における企業と政府との賠償を求める紛争の方法を定めた条項である、つまり「ある国の政府が外国企業、外国資本に対してのみ不当な差別を行った場合、当該企業がその差別によって受けた損害について相手国政府に対し賠償を求める際の手続き方法について定めた条約」。
△エクアドルでも賠償額は2000億、児童手当の不払いで子どもを手放して働く母親も。国が企業に訴えられる。日本も今国会で検討されるTPPにこの条項が入っている、今はないが、将来生じる可能性はある、と京大の先生が。
△企業に頼らざるを得ない小さな国、ホンジュラスでは、21か所にセデスと呼ばれる治外法権の経済特区を作った。ホンジュラス人を一定規模雇えばあとは自由。国土の身売り、切り売り。立ち退きを求められる国民(住民)らは、反対すれば投獄も。国家を飲み込む企業。国家のコントロールが効かなくなって、企業が国を選ぶ時代。「いったい、いつから?」「21世紀に入ってからですね」。「"底辺への競争"(安売り競争?)が始まり、犠牲は国民。」
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▲なぜ企業が国家を飲み込むほどに巨大化したのか? 国家と企業の変化を考えるために資本主義の歴史を振り返ってみることに。
250年前、18世紀、産業革命とともに資本主義はイギリスで生まれた。当初はアダム・スミスの唱えたように企業は自由な競争により経済的活動は成長した。ところが利益追求の結果、公害が起こり、国家は企業の管理や規制を始めた。一方で、大きな不況(大恐慌)になると、国は公共事業(ニューディール政策)で救済する。
△そして、第二次大戦後、復興期に入ると、国は先頭に立って自国の企業を支援、目指したのは国内市場の拡大である。そのため外国企業が入らないよう高めの関税を設け、一方自分の国の企業も外へ出ないよう、出資や投資の制限をする。その結果、戦後の経済成長が実現。ところが1970年代に入ったころ、各国の経済成長が伸び悩む。そこで、国のトップたちは方針を変えた。企業が海外で広く活動できるよう制限を緩めた。海外への出資や投資の制限を大幅に緩めた。ニクソン大統領、佐藤首相時代のころです。固定していた為替も変動相場制に。しかし、なかなか低成長の壁は破れず。
△こうした中、ミルトン・フリードマンが唱えた”新自由主義”が脚光を浴びる。国家による企業の統制をなくせば競争が加速し強い企業はより強くなる。
80年代、この理論の下、各国で一気に規制緩和が進み企業に大きな自由が与えられた。その結果、先進国のGDPは右肩上がりで伸び始める。
△さらに国は軍事技術を一般企業に広く開放。その代表例がインターネット。すでに国境を超える自由を与えれていた企業は猛烈な勢いで全世界に拡大、新しい企業が次々と登場、巨大なブローバル企業(マイクロソフト、グーグル、アマゾン、アップル……)が世界を席巻していく。
▲2008年リーマンショックという未曽有の経済危機に遭遇した国々は財政出動などで危機に対応。財政事情は一気に厳しさを増した。
そして今、危機の度に莫大な国費を投入して支えてきた国家はかつての力はない。拡大し続けるグローバル企業と行き詰まる国家。歴史上かつてない段階を迎えている。
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▲変わり続ける国家の役割
市場に任せていれば問題は解決するということに不信が広がっている。今までの資本主義の歴史を国家の統制の強弱で示すと左の図のようになる。
国家の統制はこの波のように推移してきた。新自由主義の規制緩和が行き過ぎた結果、見てきたように企業が巨大になって国家をしのぐまでになった。これから統制が強まるのか、今は大きな分岐点。これからどうなるのか、専門家の話を聞く。
ジャック・アタリ氏:「資本主義はグローバルになったが、国家はグローバルな形になっていない。
このままでは市場が破局するか内向きのリスクが高まる。そうなると”他人の利益は自分の利益につながらない”という考えが広がり、経済紛争、場合によっては政治的な紛争のリスクを生み出しかねない。
私の理想は次世代の利益を守る”世界的な法治国家”を作ることです。財政赤字の問題から環境問題まで世界共通の利益につながる対応策を打つべきです」
△諸富先生は、アタリ氏の世界政府構想に共感するが、最近のEUでの動きを見ると解決策になるのか心配でもある。イギリスやアメリカに内向きの動きが大きいし。こういう中、日本はOED(政府開発援助)のように途上国への援助や出資を通して、市場獲得や経済圏の拡大を目指すのではなく、その国の人材育成とか産業の発展の後押しをしてきたと言われている。新しいポジティブな国家関係を築く日本独自の貢献をすべきだと言える。
▲新しい時代の資本主義と国家の関係
今やこんな新しい動きも、と、二つの新しい動きが紹介されます。
一つは、アメリカ、サンフランシスコ。資本主義をコントロールできない現代の国家。国に代わるものを一から作る40歳のパトリ・フリードマン。あの新自由主義を唱えたのミルトン・フリードマンの孫です。海上に浮かぶ島。ビジネスをしたい人が集まるカリフォルニアで毎夏実験を。巨大な国家システムは脆弱で間違っている。より自由な経済活動ができる若い起業家が賛同。数千人が支持。成功した起業家が多額の寄付をしている。フランス領ポリネシアのタヒチの海で9月、本格稼働する。大統領・閣僚との交渉が合意。2020年に移住が開始される。
もう一つは競争の制限をして成功しているスペインの南にある人口3000のマリナレダ村。
30年も務める村長は、「人間が生きる上で大切な衣食住で儲けようとしてはならないと思います」と語る。村長が唱える新しいシステムとは、衣食住に資本主義の基本である競争を持ちこまない、つまりビジネスの対象にしないということ。個人の土地所有は認められない、つまり投機の対象としない。土地と家は村の所有で住民に貸し出される。食糧は村営の農場で生産され安い値段で配られる。最低限の生活にはお金がかからなくて安心して暮らせる。「ほかの村では出稼ぎをしないと生きていけないが、ここでは出稼ぎしないでも生きていける」と村人も。
衣食住以外では、村が経済活動を積極的に後押しして、最新鋭の設備で、残った作物を使って付加価値のある加工食品を作って売る。品質の高さが評判となり市場の1.5倍の高値で売れる。経営は好調。雇用も増えている。その結果、若者の移住が急増。若い労働力が増えて、ビジネスも生産性が上がる。村の収入もアップ。
競争を一部制限することで逆に成長を実現した小さな村。資本主義における国の在り方に一石を投じている。
村長さんの話:今の資本主義は残念ながら福祉を念頭に置いたものではない。資本主義がうまくいってないのなら新たなシステムを作り出すべきだと思います。
ナレーション「極限まで膨張する資本主義のシステム。今ギリギリの曲がり角に立つ国家と企業。そして私たちの資本主義。間違いなく新しい何かが必要とされています」
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◎マリナレダ村の話で、思い出したことがあります。大昔、ゼミのグループの遠足で奈良の女人高野・室生寺を訪ねました。駅からバスに乗って山深くまで行って辿り着きスッキリと美しい五重塔を見た後、帰りに、先生の計らいで天理市(だったと思う)のある生活共同体のグループを訪ねました。そこは私有物を持たない生活をしていました。下着に名前を書くだけで、あとは私有しない生活。稼いだお金も一つの財布に入れて必要な時取り出すという具合。今から考えると私有財産が生まれる前の社会の存在をよく見ておきなさいということだったのかもしれません。ニュースはソースが大事。その話はBBCかABCか、プラウダか人民日報か、よく確かめてから読みなさいと言われたのもこの先生でした。(第3集につづく)
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PS
◎「特別な1日」さんが第1集に続いて取り上げておられます。ジャック・アタリ氏について「ジャック・アタリ先生が『だからこそ、国家の枠を超えた世界的な統治機構を作らなければならない』と言っていました。ボクもそう思います。夢物語と思う人もいるかもしれませんが、夢見ることから新しいことが生まれるんです。欧州復興開発銀行元総裁のアタリ先生はEUの推進役の一人ですから、それを良くわかっている。本当は番組でEUで検討しているトービン税(金融取引税)についても触れてくれたら良かったんですが。これが金融資本主義にブレーキをかけるキーになるからです。」詳しくはコチラで:http://d.hatena.ne.jp/SPYBOY/20161024/1477265259
◎新自由主義は、資本主義の歴史から見ると過去への逆戻りで、結果が見えていた。弱肉強食の野放しでは社会が成り立たないから国家がいろいろ管理したり規制したりして福祉や保護で格差をカバーしてきた歴史を無視していますね。アタリ氏の世界政府は、現状から逆戻りするのではなく、現状を利用しつつ歴史を前に進める考えだと思います。アメリカで逆行した資本主義は、250年前の資本主義の初期の社会の混乱をグローバルに大規模にやり直したようなことになりましたが、その点、ヨーロッパの方が、資本主義の制御とか統制とかの点で、先を行っていると思います。