紫の折り鶴と「分断する『世界の盟主・アメリカ』と、コロナ以後の日本の生存戦略とは」(内田樹氏)

横浜流星さんのファンの間で、紫色の折り鶴の写真をアップして回復を祈るという動きが。私もブログでエアー千羽鶴に参加です。共演者、スタッフの感染はなかったようで良かったです。感染した者が悪いという声もあまり上がらず、逆に「感染したことを責めるな」という声が上がったようで、ご本人のお人柄にもよるのでしょうが、本当に良かった。自分も責めないで。でも連休初日の昨日の東京は366人、全国980人超の感染者。これを第二波と呼ばずして・・・。

◎日本はここ8年で政治の世界も経済も教育も医療も文化も倫理まで破壊されてしまっています。今もコロナ禍のなか政治は機能していません。ところが、アメリカがオバマさんからトランプ大統領になって、日本から見てても同じように壊れていくアメリカが一体どこまで?と不安になりました。そして隣国中国の変化も気になります。内田樹氏がそのアメリカと中国の変化を読み解き、日本の針路について書いておられます。

 
 
@levinassien
7月21日 
月刊日本』のインタビューがハーバービジネスオンラインに転載されました。コロナ禍の中のアメリカと中国の話をしてます。どぞ。

◎読んでいくととても分かり易くて面白い。以下ダイジェストで:

1)アメリカの分断

◇日本は先の大戦の総括が出来ていないと言われますが、アメリカは歴史の総括、南北戦争の総括ができていない。最近のブラック・ライブズ・マター(Black Lives Matter=BLM)運動(「黒人の命は大事だ」運動)はその再燃だと。

アメリカ建国から250年が経ちますが、「建国の理念」はいまだ十全には実現していません。1776年の独立宣言で「すべての人間は生まれながらに平等である」と謳ってからも、1862年に奴隷解放宣言が発令されるまで奴隷制は存続しましたし、1964年に公民権法が成立するまで公然たる人種隔離・人種差別が存在しました。そして、2020年の現在、BLM運動が起きている

◇かといって最近のBLM運動が歴史上の人物を断罪するのはやり過ぎだとも。

 確かにBLM運動は政治的に正しいしかし人間は自分が正しいと確信した時に過剰に暴力的になることがある。正しさが分泌する過剰な暴力性については、「正しい人たち」はもう少し自制心を持つべきだと思います。人間はつねに正しくはいられないからです。攻撃性や暴力性や差別意識は程度の差はあれ、誰にでもある。それを自省し、抑制するためにはそれなりの手間暇がかかります

 2)中国の変化中華思想によるあいまいだった国境を明確化する方向へ=日本がかつてたどった道)

中国は一国二制度を廃止して香港の直接統治・実効支配に乗り出しましたが、これを見ると、中国は伝統的な華夷秩序コスモロジーを放棄した可能性があります。  中国人は伝統的に中華思想に基づく華夷秩序コスモロジーのうちにありました。世界の中心(中原)には皇帝がいて、そこから同心円的に「王化の光」が広がる。光は周縁部に行くほど暗くなり、そこから先は闇に包まれた「化外の地」になり、住人は禽獣に近づく。中華思想からすれば、帝国の周縁部は「中国であるような中国でないような」ぼんやりしたグレーゾーンが広がっている。つまり、近代的な意味での国境線という発想がないのです。

◇この中華思想は鄧小平の時代まで生きていた。
日中友好平和条約を結んで国交正常化が成った際には、尖閣諸島の帰属が問題になりましたが、鄧小平の提案で棚上げになった。中国の国内的にもあまり問題にならなかった。ということは、国境線の画定を急がない伝統的なコスモロジーが鄧小平の時代まではまだ生きていたということです。
◇ところが香港問題を見ていると、
今回の香港問題でわれわれが驚くべきなのは、明治の日本が琉球処分台湾出兵で使ったロジックを今度は中国が使い出したということです。いまの中国政府は国境線が画定していないことを「気持ちが悪い」と感じるようになった。自国の主権が及ぶ範囲はどこまでなのか、「白黒はっきりさせたい」と思うようになった
3)日本の進むべき道、「生存戦略は?
         日韓台香の「合従策」を実現せよ!
◇コロナ禍で分かったことがひとつ。空母も原子力潜水艦も一人の感染者が出ればつかいものにならないということ。
 つまり、どこもしばらくは通常兵器での戦争は始められない。
東アジアの安定のためには、僕がつねづね主張していることですけれど、日本は韓国、台湾、香港と手を結んで、この4つの政治単位の同盟として中国と向き合うことが必要ですアメリカが西太平洋から「撤退」した場合には、中国に香港、台湾、韓国、日本の順に各個撃破されることになる。今回はまず香港が潰された。次は台湾、そして韓国という順序で中国は外交的なプレッシャーをかけてくるでしょう。  いま日本が香港に対して効果的な支援をしなければ、アジア諸国からの信頼を失う。そうなれば、日本がアジア諸国と連携して中国に対応するという戦略そのものが失効する。
◇ここで『合従連衡』の話が出て来るとは思わなかった!!
安倍政権は「『自由で開かれたインド太平洋構想』を掲げて、アメリカ、オーストラリア、インドと連携して中国に対抗しようとしています」が。 内田氏は:
それは机上の空論。それぞれの国がめざす国家像・世界像がまったく異なる。アングロサクソンの米英豪カナダは簡単に同盟関係が結べます。言語も文化も同質的ですから。でも、アジア諸国やインドは理想とする社会の姿がアングロサクソン諸国とは違います。それらの国々と運命共同体を形成することなんかできません。 (略)中国は共同体家族ですが、日韓台香はいずれも直系制家族です。ということは、この四つの政治単位は目指す国家像に共通性があるということです。  戦国時代の中国では、強大化する秦に対抗して六国(韓・魏・趙・燕・楚・斉)が「合従」を組みました。この時代の秦は共同体家族でしたが、六国は直系家族でした。だから、「合従」と「連衡」では目指す国家のありかたが違っていたのです。
◇「合従」と「連衡」の違い。『合従連衡がっしょうれんこう)」と四文字熟語としてしか思い浮かばなかった言葉ですが、ここで「合従」と「連衡」の違いを。「合従」は弱いもの同士が同盟を結んで強いものにあたること。「連衡」は強いものが個別に弱いものと仲良くして強いものに従わせること。弱いモノからすると強いものと仲良くなれば生き残れると思う?(なんだか日米関係みたい)
 アメリカの東アジア戦略は植民地統治原理である「分断統治(divide and rule)」ですから、日本、韓国、台湾、香港の間に同盟関係ができることをアメリカは許さないアメリカの戦略もやはり連衡策なのです大国は必ず連衡策で小国を従わせようとする。小国が自国の運命を自己決定できるためには、合従策を採るしかないのです。
 
―― コロナ危機のいま、アメリカも中国も物凄い勢いで変わろうとしている。日本も変わらなければならない。
内田:不幸中の幸いと言うべきか、現在はコロナの影響で国際関係が停滞しています。各国は程度の差はあれ「鎖国状態」で、国内の感染対策で手一杯です。医療資源やワクチン開発が「外交カード」になる局面ですから、軍拡に金を使ったり、新しい外交戦略を展開する余裕がない。ですから、しばらくはドラスティックな変化は起きにくい。  この外交的停滞は半年から一年、あるいはもっと長く続く可能性があります。日本はいま与えられている時間的猶予を奇貨として新しい外交戦略を創り出すべきなのです。前代未聞の変化に適応できる構想力のある指導者がいまほど求められている時はありません。 (7月1日インタビュー、聞き手・構成 杉原悠人)
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