◎寮美千子さんの奈良少年刑務所詩集の「世界はもっと美しくなる」から詩を2編引用してみます。前回取り上げたのはこちら:
◎寮さんの詩の解説付きで書き移してみます:
あたたかい手
ねえ かあさん
あなたの手は
ときに 強く抱きしめてくれた
ときに やさしく涙をふいてくれた
ときに 怒られ 叩かれ 冷たい手だと感じたけれど
どんなときでも
あなたの手は あたたかい手
そんな手をもつあなたが 大好きです
(寮美千子さんによる解説)
「いいお母さんだと思いました」
「親への感謝をすなおに言えていいなあと思いました」
次々に声があがります。みんなが前向きの感想を述べる中、一人だけ「ぼくは、親に感謝するような話に、いつも反発を感じてきました」と言う子がいました。
その子は、すこし間を置いて、こう付け加えたのです。
「でも、いま気がつきました。ほんとうは、ぼく、うらやましかったんだなって」
さみしさを封印してきた彼が、自ら心の蓋を開いた瞬間でした。
最後に、作者のAくんの話を聞いて、声を失いました。
「自分は、親とは赤ん坊のころ、2年だけしかいっしょに過ごせませんでした。だから、顔も覚えていません。こんなおかあさんだったらいいなあ、という夢を書きました」
「反発を感じた」といった彼も、はっと顔を上げ、Aくんをじっと見つめていました。
その彼が、次の時間、こんな詩を書いてきてくれました。
愛について考える
愛って
もらうものではなくて 与えるもの
与えようとする気持ちこそが 愛
もらいたい気持ちは 欲
ぼくは 家族の愛を知らずに育った
だから 家族の話をきくと いらだちしか湧かなかった
でも それはうらやましかったからだ と
いまは 素直に思える
愛を欲しい自分
愛を与えたい自分に 気がついたから
これからは
「与えてもらえる人になるため 人に与えていきたい」って思う
(寮美千子さんの解説)
「世の中の人がみんなが、愛を与える人になれば、みんながもらえる人になると思いました」と、感想を言ってくれた子がいました。ほんとうに、そんな世の中になったらいいのにね。
◎寮美千子さんの少年刑務所での詩の授業を読んで思うのは、共感する力の偉大さです。わずか一行、数行の詩を書いたとしても、その作者が自ら声を出して朗読するその詩を聞いてそれぞれがそれぞれの感想を発表する。その感想を聞いて作者も寮さんも一緒に聞いていた仲間たちも別の次元の理解に進んでいける。心を開いて共感することが人を優しくもするし、また強くもします。そして、それは美しくもある。
政治の世界で、いま最も共感力が必要な立場にある人がこの能力を備えていないか、あるいは隠しています。先日電話で話した友人とも世の中がもっと優しくなればいいのに……と二人で話したことでした。
(トップのモニュメントの写真は唐池公園にある「愛 父母子像」)
◎「ハルメク」の寮さんの連載の最終回はコチラで:
奈良少年刑務所「人間の本質は、優しさでした」(寮美千子さん) - 四丁目でCan蛙~日々是好日~ (hatenablog.com)