NHKスペシャル「”核のゴミ”はどこへ〜検証・使用済み核燃料〜」―その4(完)ー

続く再処理 その理由は

去年政府の主導で検討された再処理の見直し。これに対し、原子力委員会三村申吾青森県知事が強く異議を唱えた。「使用済み核燃料がそのまま青森県に放置されるのではないかと、要するに約束と違う事が起こってはいけない。資源として再利用されない場合にはそれぞれの発生元へお返しする。私どもはゴミ捨て場ではないんだと…」。結局、政府は再処理の方針を見直さなかった。
その背景に当事者たちの複雑な利害関係があることも分かってきた。私たちはその一端を示す映像と音声を入手した。原発事故の後、霞が関の庁舎で2,3回にわたって行われていた原子力委員会秘密会議。再処理の見直しが政府内で検討されていたさなか、日本原燃、東電、内閣府経産省原子力委員などが一堂に会していた。

以下録音(茶色字):
内閣府職員「六ケ所の再処理は動かさないといけない。」
日本原燃「ありがとうございます。」
内閣府「そこに尽きるのかなと思っている。それが潰れるようなシナリオは描けないので、六ケ所はつづけましょうねと


←この秘密会議で日本原燃が配布した資料。
再処理工場の稼働が遅れる中、日本原燃が抱えた借金は1兆円。
再処理が見直されれば銀行の融資が止まる。経営危機に陥ると訴えた。

日本原燃私企業としては大変困る。何らかの救済策が必要になってくる。(年間)3千億円ぐらいのキャッシュは必要になる。知っておいてほしいのは(日本原燃が)国立研究機関であればいつでも再処理を止められると思うけど」
原子力委員「仰る通り、民間企業だからね」

日本原燃「民間の場合、止めろと言われるとお金が回らなくなるので困る」
原子力委員「銀行が(原燃に)お金をかさなくなっちゃうってこと」
日本原燃「六ケ所も早く引き上げてとなっちゃうと、全然あちこちが通らなくなっちゃう」
日本原燃「そこを上手にうまく、なんていうか、そういうことにならないように

私たちはこの一連のやり取りについて日本原燃に問いました。
←その回答です。
「当社は国策に基づき、民間として業務を進めてきました。その国策を突然変更されることになれば影響が出るとともに対応が必要となる事実を一般論としてご説明したものです。」
「なお、仮に再処理事業が中止となれば、一般論として、電力会社や自治体の財政にも影響はあるものと考えられます。」



秘密会議に参加した原子力委委員の一人鈴木達治郎委員長代理が取材に応じた。
「中立性が求められる原子力委員が再処理を推進する関係者とだけ秘密に会合を持ったことは問題だった」と認めた。その上で再処理が見直されない理由を語った
鈴木代理「いわゆるその利害関係です。今の自分たちの属していない団体や組織の利害というものが今のサイクル施策にやはり直結しているということです。やはり事業に影響が出るから(見直しを)やめてほしいと。今のままでは再処理のあるべき姿を議論するのは難しいと感じています。「本来は政策を議論したうえでその政策のあるべき姿の中で六ヶ所事業をどうするのか、というのが筋でしょうと。原子力政策を50年間続けてきた制度とか組織をそのままにして政策変更の議論をすること自体どうしても制約があったのかなと。
(蛙の疑問:じゃぁ〜、その「制度とか組織」をどうしてそのままにしているの? 分ってるんだったらヤルのが仕事じゃないの?)


伊藤敏恵キャスター:「多くの関係者が再処理はメリットが無いと考えたにもかかわらず結局再処理は続けられることに…」
根元良弘キャスター:「はい、本来、再処理は資源の少ない日本が無尽蔵のエネルギーを手に入れたいというその手段だったはずですが、いつしか原発を動かし続けるため、そして事業に関係する企業の経営を守るため、そういった仕掛けに変わっていったんだ思います。
再処理を止められない背景には、青森県など立地地域への経済の影響や日本の技術力の低下を懸念するアメリカとの関係など複雑に絡み合っている。
ただ、こうした構造を変えないと、今後も同じような議論が繰り返されると思います。」
伊藤:「根本さん、今回の核のゴミの問題、今回事故で改めて放射能の怖さに気付いた私たちは、もう、この後の世代には残してはいけない、これ以上先送りしてはいけない問題ですね。」
根本:「その通りです。これまでは時間のかかる取り組みということに甘えて、たとえ10年以上最終処分場の候補地選びが全く進まなくても許してきた国や社会でもあったんだと思います。しかし、もう甘えは許されません。
原発事故から間もなく2年になります。
政府は安全性が確認された原発については運転の再開を認める方針です。
しかし、それだけでいいのでしょうか。
原発を動かすことは新たな使用済み核燃料を生み、核のゴミを増やすことになります。
原発の安全は勿論大切ですが、核のゴミ問題の解決に道筋をつけること、その両方が揃って初めて運転再開の議論が出来るのだと思います
もはや核のゴミ問題の解決から目を背けることは許されないのです。」(おわり)

◎この放送の一週間後の日曜日(17日)のNHKスペシャルは、メールで参加できる討論番組でした。しかし、この「核のゴミ」の番組で取り上げられた問題は議論されることなく素通りでした。文字で流されるメールの意見には同感、共感するのもたくさんありました。でも経済最優先や、福島の事故や被害者のことがすっぽ抜けた意見などには、原発放射性物質の危険や被害についての情報不足を感じました。、
この番組の結論・原発の再稼働の前提は2つ:一つは安全性の問題(安全対策と炉の安全)、もう一つは核のゴミの最終処分の問題の解決に筋道をつけること。この2つが解決できないで原発を動かし続けることは絶対あってはならないと改めて思います。それは、政治的な立場や、原発推進脱原発とも関係なく、福島原発事故以来、放出する放射能に今も海山川を汚染され続けている日本に住んでいる日本人なら、この2つを原発再稼動条件あるいは基準として心に刻んで、ウヤムヤにしようとする人たちに訴えていかなければならないと思いました。