◎先日、「通販生活」の春号が届きました。
目次を見ると、『【新連載】「憲法」を実行する第1回』で『憲法25条「生存権」』。湯浅誠氏が書いています。肩書は「法政大学教授、社会活動家」とあります。
紹介したいのは「落合恵子の深呼吸対談」で、ゲストは小泉純一郎氏。タイトルは「原発を選挙の争点にすれば自民党は負けますよ」。
この部分を取り出して少し適当に端折りながら書き移してみます;
落合:はっきり申し上げると、憲法や安全保障などほかの点では小泉さんと考えが合わないところもたくさんあります。でも、原発という、私たちが今一番考えなければならない大きなテーマを小泉さんが出してくださって、心から敬意を表します。総理大臣だった方が「原発ゼロ」を口にするのには、かなり覚悟をお決めになったのではないですか。
小泉:私は総理の時に「原発は必要だ」といっていたでしょう。それが総理をやめたからといって、そんなことを言っていいのかとずいぶん考えました。でも、さまざまな書物を読んで「これはゼロにしなければ」と自信を持った。「総理の時に……」という批判は承知しながら、「過ちては改むるに憚ること勿れ」だと思ってね。過ぎてしまった過去は変えられないけど、未来は変えられるんだから。
落合:すばらしいことです。・・・
福島の原発事故から6年が経とうとしているいま、「40年で廃炉」という約束もいつの間にかうやむやにされました。日本全国で再稼働している原発は2基ですが(16年12月1日現在)、新規制基準審査で再稼働が許可されたものや審査中の原発もある。老朽化した原発も含めた再稼働に向けた動きが着々と進められています(地図参照)。再稼働のぜひこそ衆議院選挙で問われるべきではありませんか。
小泉:そうですね。どの世論調査を見ても、国民の過半数は原発に反対だから、野党がまとまって自民党に対抗する候補者をだして、「原発ゼロ」を争点にすれば自民党は衆院選で負けますよ。でも、野党共闘の動きはあっても、「原発ゼロ」を争点にするという発想がない。だから、自民党は助かっている。
落合:野党第一党の民進党が、はっきりと「原発反対」を打ち出すべきなのに、現実はそうなっていません。
小泉:民進党の支援団体の電力会社の労働組合が選挙の時に一生懸命運動をしてくれるから、「原発に反対すると選挙に影響がでるかもしれない」と躊躇しているのでしょう。でも、柏崎刈羽原発の再稼働が最大の争点となった新潟県知事選(16年10月)では、自民・公明と連合が応援した候補が負けた。普通、これだけの政治勢力が応援した候補は圧勝します。ところが、再稼働反対の米山隆一さんが6万票以上の差をつけて勝った。
落合:7月の鹿児島県知事選も、川内原発再稼働に反対した三反園訓(みたぞの・さとし)さんが当選しました。当選後に言動の変化はありますが……。
小泉:鹿児島も当然、自民・公明の支援を受けた原発推進派の現職が勝つと思われていたけど、三反園さんが突然立候補して勝った。新潟と鹿児島の知事選は、今までの政治的常識を覆したね。原発ゼロが争点になれは、自民党は選挙で負けるんです。
落合:原発の電源三法交付金を受け取る市区町村の選挙だとまだ推進派も強いかもしれませんが、そうでない選挙であれば、私も反対派が勝つと思います。民進党の方には、どうしてそこが解らないのでしょうか。
小泉:それは私のほうが聞きたいよ(笑)。政治家が決断すれば、多くの国民が協力してくれるのにね。
▽「加藤紘一(元自民党幹事長)さんのお別れの会のときに、安倍総理に「原発はやめたほうがいいよ」とおっしゃったそうですね。安倍総理の反応は?」
▲「苦笑いするだけだった。やっぱり、経産省や資源エネルギー庁など推進派の話を信じているんだろうな。かつての私が、そうだったように。」「しかし、政権内にも迷っている面が出てきて、『原発の依存度を下げよう』とか言い始めた。『下げよう』ではダメ。ゼロですよ。原発ゼロはやればできる壮大な事業だ。自然界にある無限のエネルギーを生活に生かしていくのは素晴らしいことだ。」
▽「小泉さんが原発ゼロに転じたのは(1)安全、(2)安い、(3)クリーンの3大スローガンがウソだと分かったからと仰いました。福島第一原発の事故によって、安全神話は崩壊しました。残りの2つも当然……」
▲「安いも大ウソ。いまだに経産省は「原発のコストは安い」と言ってるけど、それは電気を作る時だけ。原発を建設するには、様々な交付金を出さないと自治体が了承しないし、研究者の養成や廃棄物の処分場を造るにしても多額の税金が知るよう。それらの費用をコストとして計算せずに「安い」といっていうる。」「東京電力の損害賠償や除染作業も国の支援。その5兆円が9兆円に。最近では廃炉の追加支援を求めている。もんじゅも無駄使いの良い例。30年間に1兆円以上の税金を投入して役に立たず、いまだ維持するだけで毎日5000万円ぐらいかかっている。
▽「3つ目、原発はクリーンもウソですよね。」
▲「発電の際に出た蒸気を冷やすためのに海水が使われますが、その海水は温排水として再び海に放出します。この莫大な排熱を毎日出すこと一つとってみても、『原発は温暖化防止に貢献する』なんてウソだと分かる。原発はクリーンエネルギーどころか環境汚染産業だよ。」
元米軍兵士と福島の子どもへの支援
落合:16年7月に「トモダチ作戦被害者支援基金」(写真参照)を細川(護熙元首相)さんらと設立されましたが、きっかけは?」
小泉:16年3月に日系4世のジャーナリストが、城南信用金庫の吉原(毅相談役)さんを通じて私に話を聞いてほしいと言ってきたんです。東日本大震災の時、米軍が「トモダチ作戦」として約1ケ月間、被災地で救援活動をした。その兵士たちが被ばくによると思われる病気で苦しんでいる。被害者が『もし小泉さんがアメリカへ来て話を聞いてくれれば、マスコミももっと話題にしてくれるのでは』と言っていると。それで、5月にサンディエゴに行って10人ぐらいの元兵士たちに話を聞いたんです。
落合:どれぐらいの方が被ばくが原因と思われる病気になったのですか。
小泉:いま、400人を超えています。
落合:兵士は国に対して「どうにかしてほしい」と言えないんですよね。軍隊に入った時点ですでに。
小泉:言えない。だから、彼らは東電やアメリカの原発メーカーであるGE(ゼネラル・エレクトリック)などを相手に訴訟を起こしているんです。
20代、30代の兵士が正常な軍隊活動ができなくなって除隊せざるを得なくなったのですが、彼らはあまり裕福な家庭でない人が多い。除隊後は当然収入もない。アメリカは日本のような国民皆保険ではないので、病院や医者にかかる費用がすごく高く、彼らは治療にも行けないんです。
落合:ひどい話です。
小泉:みんな頑健な兵士だったんですよ。まさか日常の活動も思うようにならない体になるとは夢にも思っていなかったでしょう。でも、恨みつらみは言わないんだ。「日本に言いたいことはないか」と聞いても全然言わない。「病気になりましたが、それでも日本が大好きです」とだけ言って黙ってしまう……。これは、彼らのために何かやらなければいけないと思ったんです。
落合:それで基金を立ち上げようと。
小泉:アメリカでも仕事している日本の有力な財界人たちに「発起人になってください」「原発の賛否を越えて寄付してください」と頼んだけど、みんな会社に反対されてダメだった。それで、細川さんらと少人数で基金を立ち上げることになったんです。
17年の3月31日までに1億円を集めることを目標にして、それをお見舞金として渡そうと。ありがたいことに共感してくれる方が多く、すでに目標額に達しましたが、お金はいくらあっても足りないので、3月まで活動を続けます。
落合:小泉さんは原発事故で甲状腺がんになった日本の子どもたちを支援する「3・11甲状腺がん子ども基金」(写真参照)の呼びかけ人もなさっていますね。私もご一緒させていただいています。「トモダチ作戦」の被害者の方や甲状腺がんになった福島の子どもたちに対する支援については、「病気と放射線の因果関係が立証できていない」という批判がありますよね。
小泉:アメリカ海軍の医師も「放射線によるものと断定できない」と因果関係は認めない。
落合:でも、元兵士も福島の子どもも、異常な状態なのは事実。因果関係が証明されるまで待て、と言うのか、ということですよ。
小泉:目の前で苦しんでいる人を、見捨てるわけにはいかない。