小泉元総理の「独白録」(文藝春秋)より「安倍総理と息子進次郎について」


小泉純一郎独白録」、
「文藝春秋」新年特別号の目玉記事だけあって、
ボリュームもスゴイです。
94頁から121頁あって、その内108頁までが原発問題(1,2,3と1日、2日にそのダイジェストを)。
残りの2つのテーマ。
一つは、安倍総理について。
二つ目は、息子の小泉進次郎氏について。
少し、興味のあるところを移し出しておきます。
憲法辺野古の問題では、ちょっと一言…と言いたくなりますが、
小泉さん、脱原発とは言え、自民党でしたね。

安倍政権への危惧
安倍総理は 全部強引、先を急いでいる

安倍政権は15年、30年度時点の現現厚生の見通しで原発の割合を20〜22%程度にする方針を決めました。今後原発ゼロに変える可能性はありますか。

小泉 もうできないだろう。今変わったらブレたと言われて批判が出てくる。これで突き進むしかない。
 でも、困るよ再稼働しなければならないし、東電旧経営陣の(勝俣元東電会長ら三人が強制起訴された)刑事裁判も始まるし、四月には電力の自由競争が始まって自然エネルギーが増えてくるでしょう。原発がいかに高くつくか、カネもかかるのか、推進論者の言うことがウソだってことがどんどんわかってくる

安倍総理に持論を直接説いたことはありますか。

小泉 一回ね。総理経験者の会で(15年3月12日)。いや、それはもう何も言わないよ。苦笑いして聞いているだけ。「まあまあ」とか言って。

河野太郎行革相は大臣就任記者会見で「12年総裁選時に安倍候補は長期的には依存度を下げるとはっきり言っていた」と発言していました。ご存知ですか。

小泉 そうなの。ああ、そう。推進論者に洗脳されちゃたのか。もったいない。やっぱり側近がいるからね。いろんな側近の言葉を信じたんだろう。もったいないことしたな。ああだこうだといろんな理由をつけられると、そうかと思っちゃうんじゃないのかね。それは巧みですよ。榊原(経団連会長)さん始め、葛西さん(JR東海名誉会長)にしても、側近がみんな推進論者だからそれに引きずられちゃう経団連の中にだって、原発ゼロはやればできるんだという人もいるんだよ。ここで名前を言うと迷惑かかるけど、私の話に納得したんだよ。
(省略)

安保法制審議では多くの国民が「政府の説明は不十分」と感じていました進次郎さんは「自民党に権力のおごりがある」と訴えていましたが、小泉さんが総理だったらどうしましたか。

小泉 私だったら民主党を味方につけたよ。中には賛成する勢力もいるんだからさ、協力を求めればできたんだ。俺が総理の時、有事法制民主党は賛成したんだよ。一国会置いたよ。もめなかったじゃない。(02年の通常国会では政府答弁に不備が多いとして野党が反対したが、翌年、衆参九割の賛成で六月に成立した。)あと、学者が「違憲」と言った時点で一拍置くよ。自民党衆議院に呼んだ参考人が言っちゃったんだから、あれは無理よ。
 安倍総理の考えは、私とは違うからわからないけど、今国会でないといかんと思ったんでしょう。全部強引に押し切っちゃう。なんか先急いでいるね。ブレないところが俺を見習っているといわれるけど、わからんな。


 野党の反対も憲法を守れ、憲法を守れって、どうかしているんだよ。自衛隊を軍隊と言っちゃいけない、陸海空その他の戦力を保持しない。それで自衛隊をどうして認めているのか。とっくに憲法九条を解釈改憲しているから、自衛隊を作れたのでしょう。戦力があるから抑止力なんだ。それ、野党も賛成しているんだからさ。
 本来憲法九条は、自衛隊を軍隊と認めて戦力もあると認めて、武力行使はしないと改正するべき。そうやればいいのに、日本っていうのはあいまいなほうが好きなんだ。本質を議論しないで平気なんだよ。素直に憲法を読めば自衛隊違憲ですよ。「護憲」と呼ぶんだったら自衛隊を廃止、あるいは、改憲して自衛隊を軍隊にする。そうしないで、どうして野党を「護憲勢力」と呼ぶの。
 憲法改正だって、安倍さんは争点にするでしょう。国民投票やろうと言ったって、民主党を敵に回したら憲法改正できっこないよ。安全保障は野党第一党を味方につけなければいけない、争点にしちゃいけないんだ。「どう思うか」って聞かれたら、俺はそう言うよ。

普天間飛行場辺野古移設は小泉政権時に決まりました。あれから十年たとうとしていますが、安倍政権と沖縄県の溝が埋まりそうにありません。

小泉 あれは最初に総理が(翁長県知事)を門前払いしたのがいけないよ反対派が知事選で勝ったのに、応援した方が負けたから会わないとか、わからんね。今頃会ったって遅いよ。あれじゃ普天間が困っちゃう。実際普天間を返すには辺野古しかないよ。ある面では仕方がないということ。受け入れれば平和のためになる。(以下省略)


←最後のテーマ。

進次郎さんは原発を無くすという方向性を言外に匂わせ始めました。これも父の影響でしょうか。

小泉 原発の話をしたら、ユーチューブで私が講演やっているのを見ているって言うんだ。やっぱりだんだんわかってきたんだな。俺からは何も言ってないんだけど。
 ただ、進次郎は俺より配慮があるね。原発政策をどうするか。進次郎は「将来ゼロの方向」、俺は「ゼロにしろ」と答える。進次郎は私より慎重だよ、慎重。(以下略)

進次郎さんには総理になる資質がありますか

小泉 それは今見ればあるよね。他の議員に比べれば、勉強しているしね。私より慎重だしね。

小泉さんが政界でタブー視されていた郵政民営化を実現したように、進次郎さんには近い将来、原発ゼロを掲げて政権取りを目指してほしいですか

小泉 それは自分で考えるものだよ。他人が言うもんじゃない。福島の廃炉だって四十年かかるんだ。それまで進次郎も議員やってないよ。生きているかもわからない。親父は六十五で亡くなった。俺は六十四で引退した。元気で活躍できるのはせいぜいそのぐらいだよな。

<■取材を終えて>より:(4時間半に及ぶ単独会見は昨年10月に行われた)

・「原発ゼロ」に共鳴する人たちの交友関係:細川元総理、城南信用金庫相談役の吉原毅、脱原発弁護団全国連絡会共同代表(弁護士)の河合弘之、元官房長官中川秀直SBIエナジー社長(元金融相)の中塚一宏……。
・今回のインタビューで純一郎は「安倍政権は原発ゼロ宣言を行わない」と諦念をにじませたが、三か月間、七か所での講演を聞く限り、攻撃の手を緩める気配は微塵もなかった。
「どこかの人が『福島はコントロールされている』と言ったけど、全然コントロールされてないよ。」「総理が原発推進していても住民の反対で最終処分場候補地に手を挙げる自治体がないから、政府主導で決めようとしている。民主主義なのに、この発想はどうかしているね」
 一方、進次郎は十月、安倍を批判して政権から距離を置いた。今のところ一人称で態度を表明する素振りを見せないが、絶大な人気を誇る彼がいつ父と歩調を合わせるのか、多くの永田町関係者が固唾を呑んで見守っている。事実、純一郎の「頭のいい人がどうして……」「やればできる」という言い回しは、私が最近耳にした進次郎の口ぶりとそっくりだ。
 純一郎は私に「自民党を変えるのが一番早い」とも強調し、新党立ち上げや野党への選挙協力を暗に否定した。当座は、16年春の電力自由化を突破口に見定めている。高速増殖炉もんじゅ」を巡る核燃サイクル政策の見直し原発ゼロ運動の追い風となるに違いない。18年7月には日米原子力協定の満期が訪れ、同9月には安倍が総裁任期を終える。「東京五輪が終わった後、新しい国づくりを始めたい」としきりに唱える進次郎は、2020年の始動を前に大きな決断を迫られることになる。(文中敬称略)
(常井健一/とこい けんいち・ノンフィクションライター)