「マイケル・サンデル特別講義」(日本人の当り前)


NHKの昨夜9時からの番組<マイケル・サンデル究極の選択「特別講義大震災後の世界をどう生きるのか」>を見ました。
新聞の番組欄には「日米中の若者とのグローバル白熱教室▽人間の美徳とは?勇気とは?希望と再生を探る」と書いてありました。評判のハーバード白熱教室マイケル・サンデルさんを初めてジックリ体験しました。大きな画面を通して東京・上海・ボストンの3元中継です。日本のみ熟年世代の参加あり。
最初から日本の今回の東日本大震災の被災者の耐え忍び助け合い暴動も買占めもなかったことに世界の人々が感銘を受けたという新聞が取り上げられます。テーマは「個人主義か共同体意識か」。(その後、震災詐欺や寄付金泥棒など悪い人たちも出てきてはいますが・・・)
また、原発の事故の際、決死の覚悟で任務に当たった消防隊長の記者会見の場面、「家族へお詫びとお礼を言いたい」という言葉も紹介して、2つ目のテーマ「危険な任務は誰が担うべきか」。
3番目は「原子力の将来とどう生きるかとの関わり」で、2つの道。1.安全性を高める為の努力をして原発をつくり続ける道。リスクを伴うしリスクを0にすることは不可能、それでもリスクを承知で原発に依存する道。2.依存を減らし、原発をなくしていく道。
挙手させて2が少数派、上海3人、日本6人、ボストン0でした。1を選んだアメリカの学生は飛行機と同じで危険でも乗る人はいるし、なくすという話にはならない。それに対して、2を選んだ中国人女性は人道上の問題は経済の問題より優先する、それに、原発のリスクが飛行機のリスクと同じだと考えている前提が問題。日本人で2を選んだ人は生活水準が下がる事と人間の幸福とは関係ないのでは。また、原発はリスクを受ける場所と恩恵を受ける場所が違っているので不正義だと言った日本人女子学生も。サンデルさんは、この二つは今、人類が直面していて、考えていかねばならない問題と。
最後のテーマは「支援の輪は世界を変えるか」。ここのまとめ方に唸ってしまいました。上手いですね〜。
女優の高畑敦子さんが涙目になっていましたが、私もウルウル状態でした。今回、日本の大震災に対して世界中から支援が寄せられた。なかにはアフガニスタンバングラデシュなどの貧しい国から、政治的に緊張関係にある中国からも支援があった。世界は変わるのか?という質問がサンデルさんから。
上海の一人と日本人男子学生は、個人的な問題と国家間の問題は別だから変わらない。もう一人の上海の女性は、ネット上で歴史的問題も「許せるのではないか?」とか色々議論が出て、過去と現在は切り離して考えるべきではないかとか、若い世代の間では変化が出てきたと。もう一人の女性は、国家とか民族とか人種を超えて世界を一つのコミュニティとして考えるべきではないかと。
サンデルさんは、この意見にフォローして、18世紀のルソーの言葉を紹介して問題提起。ルソーは「他者への共感は限られている(限定的)」と言い、その例として日本を取り上げて、「ヨーロッパの人間は日本で起こった災害に共感できない。国を越えたグローバルな共感はない」と言っているが・・・と。これは、当然、「ルソーが今の時代に生きていれば共感できると言っているはず」という反論が。コミュニケーションの発達を考慮すれば、コミュニティの広がり、境界が消える始まりの時代を生きている、グローバルな倫理道徳に向かっているというまとめになるのですが・・・
胸に応えたのは、ボストンのローラさんの言葉でした。「日本の被災者が、カトリーナの時のような暴動も買占めもなく、礼節を保ち冷静に助け合っている姿を見て私は同じ人間として誇りに思い、希望を感じました」。サンデルさんの今夜の教室の締めくくりも勿論ここにありました。
日本人の私が、今回、幸い被災することなく、テレビを通して大変な災害の現場を見ながら、報道される被災された方たちの姿に心を打たれるのも、ローラさんと同じ思いだと分りました。人間って本当に凄い、本当に弱くて強くて美しいと思います。そして、そういう日本人の姿が国家や民族や人種を超えて同じ感動を呼び起こしていること、被災者の姿に人間の誇りと希望を感じ取る人々がいるということが何とも素晴らしいと・・・じぃ〜〜〜んと来てしまいました。
「天災だから誰を恨む事もない」とか、「困った時はお互い様」とか、日本人なら当り前の受け止め方や考え方。自衛隊や、警察、消防隊の方たちや、マイクで避難を呼びかけながら津波にさらわれ行方不明になった役場の職員の方たち、日本人なら、その立場にあればそうするだろうという当り前のことが、尊い事として世界から称賛され、こういった犠牲的な仕事が中国や特にアメリカの学生には金銭に置き換えてしか理解できない様子を知ったり、個人主義か共同体意識かなんて議論されるのは不思議でもあり、改めて「当り前の日本人」の立派さを再認識できました。
ただ参加していた日本人学生の中にそれを言葉にできる人がいなかったのは残念でした。サンデルさんの目的は、日本人が行動で示した美徳や精神がこれからの人間や世界にとって大きな意味を持ち、再生する希望だと評価して日本を励ましたいという事でした。いい番組だったと思います。