4月のお茶のお稽古

表千家のお茶にとって4月は特別. 吊り釜を使ったお茶になります。
(裏では逆で、3月が吊り釜、4月が透き釜とか)

お部屋の設い(しつらい)が、天井から鎖が降りて鉄瓶を提げた吊り釜のせいで、いつもの雰囲気とは違って見えます。
お花は、緑の芽が出たニシキギ、白い踊り子草、赤い蕾の椿を丹波焼きの花瓶に。お軸は右読みで「柳は緑、花は紅(くれない)」と読めますが、これは扇面にお家元が書かれたもので花押のある地紙(じがみ)を掛け軸に表装したものです。香合の蓋にも桜。
吊り釜は天井に鍵をつける段階で天井裏に補強の板が必要です。家を建てる段階から大工さんに頼んで鎖を掛ける鍵の位置が炉の中心に来るように、叉鍵の向きが床の間に対して鎖が反対側から掛けられるよう取り付け方を注文してあるという先生のお話でした。
釜は冬から先月の羽釜、今月の吊り釜と、季節が春に近づいてくるにつれて段々小ぶりになってきます。
弦(つる)は表千家は真鍮(裏は鉄)製だそうです。釜の蓋の持ち手はクチナシの形。釜には観世水の模様が入っています。
少しずらした蓋からは湯気が立ちのぼり赤い炭火が見えます。長い鎖につるされた釜が微かにリズミカルに揺れています。
炭火が見えるのも4月ならでは・・・本当に今までと違って春を意識します。

雰囲気がいつもと違って見えるのはこの箱型の入れ物のせいでもあるようです。3人とも興味津々。
「芝点(しばだて)」というお茶の簡易携帯道具箱のようなもので、桑製の生地のままの色。白い桐製もあるとか。
これは利休さんの頃、陣中野点(のだて)に使われたお道具。野点そのものが暖かくなった春だからこそというわけです。
金具の鍵を外すと中に棚があって、上の棚板を外して地面に置くとその上に清めた棗(なつめ)や茶せんを置く事ができます。
曲げワッパに入れてある主菓子は牡丹を象った餡の入った美味しいものでした。お干菓子は2種類。筏(いかだ)をかたどった懐かしい味のハッタイ粉のお菓子と白い瓢(ひさご=ひょうたん)形のお菓子が黒い塗りのお盆に。
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今回は4月だけに使われる桜の絵を描いたお茶碗が沢山出されました。最初に紅葉と桜と金で雲錦が一緒に描かれているお茶碗で、春にも秋にも使えるもの。次はタンポポとワラビ、スミレなど春の野草を描いたお茶碗。次は大きな牡丹を描いた薩摩焼のお茶碗。牡丹は富貴花(草)とも呼ばれる春の花。次は同じく桜の絵柄の薩摩焼。同じ桜でも次の京焼きの桜は円山公園の枝垂桜のような華やかさで雅(みやび)。これを見ると先ほどの薩摩焼きの桜は鄙(ひな)びています。貫入(かんにゅう)が京焼の方が荒く入っている様子。最後に出されたのは黒の楽。よく見ると赤い色が見えます。これがお茶碗の正面になります。棗(なつめ)の絵も桜でした。

干菓子を乗せてあった塗りのお盆は牡丹の模様が線で彫ってあり赤い塗りが入っています。芝点の箱の下の段に入れてあった水差しはオーストリアで求められた器の見立て使い。元々は陶器の蓋がついた壷。それに黒い塗りの蓋をするだけで立派なお茶道具に見えるのが不思議。絵はフッソというタンポポに似た花の綿毛を描いたものなので春の器。六角形の蓋置きは雪洞(せつとう)と呼ばれ、桜が描かれた面と花びら形の透かしの入った面が隣り合っています。桜と春の花尽くしでした。(今回、近接写真のどれもピントが合っていません…残念)
4月限定の設いやお道具の数々。先生は「年に一度だからいいのよ」と仰って。
帰る頃には予報どおり雨が降って室内は一層暗く、でも今まで電気の灯りはつける事がありません。
玄関を出ると一本の枝垂れ桃が源平咲き。赤、白、斑と造花のような花が満開に咲き誇っています。春です。