NHKスペシャル「メルトダウン File.4 放射能”大量放出”の真相」(その3)

語り:ドーナツ型をした格納容器の下の部分にはベントの際、放射性物質の放出を抑える機能が備えられている。


サプチャンと呼ばれる圧力抑制室です。溜められた水がフィルターの役割を果たします。圧力を抜く際蒸気を水にくぐらせることで放射性物質の量を0.1%、1000分の1にまで減らすことが出来るとされてきました。
専門家と共にイタリアの巨大実験施設を訪ねた。
先ずサプチャンがどのような仕組みで放射性物質の放出を0.1%まで抑えるのか実験で確かめます。
サプチャンに見立てた高さ3mの水槽、上から伸びる配管が蒸気を送り込む。

ミラノ工科大学マルコリコッティ教授(原子力工学の専門家)「こうした実験は原発の安全性を考える上で非常に重要です」
サプチャンの水温は低く保たれている。格納容器から吹きこむ高温の蒸気は泡となり直ぐに消えてしまう。ハイスピードカメラで見ると蒸気は冷やされると一瞬で熱を奪われ水に変わる。そのため泡が消えたように見えるのです。
格納容器の蒸気が水に変わる瞬間、蒸気の中にあった放射性物質は水の中に捉えられます。
ところが事故当時、1号機のサプチャンでは異常事態が発生していたのではないかと専門家は指摘する。

エネルギー総合工学研究所/内藤政則部長(原発の事故分析の専門家)「上の部分の温度が上がって下の部分の音頭が上がらないという温度成層化が現れるでしょう。サプレッションプール(サプチャン)の温度はかなり上がっていたと考えられます」


事故の際、サプチャンには格納容器とは別のラインから高温の蒸気が流れ込んでいたとみられる。この結果温度成層化という現象が起き水の上の方が沸騰状態となっていた可能性が高いというのです。
成層化が起きるとサプチャンの放射性物質を取り除く効果にどのような変化が現れるのか、水を沸騰させて先ほどと同じ量の蒸気を吹き込んで実験してみます。

すると様相が一変、蒸気が大量の泡となって、そのまま水面まで上昇していって蒸気の中に含まれていた放射性物質も水に取り込まれることなく一瞬に放出されてしまいます。
解析の結果、水温が低い場合は放射性物質の放出量を0.1%にまで減らせていたものが、沸騰するとおよそ50%、半分も放出されてしまう可能性があることがわかった。今回の事故は大量放出を防ぐ最後の切り札とされてきたベントを検証する必要性をつきつけたのです。

事故の教訓は生かされるのか? 福島第1原発と同じ型の原発を持つ6社にアンケート調査を行った。東京電力など3社は新たに設置するフィルターの装置で対応できるとしている。残る3社も新たな装置を取り付けることにしているが詳しい性能については検討中または回答を差し控えるとしています。


しかし専門家は今回明らかになった高い放射線量はサプチャンの水温上昇だけでは説明しきれない可能性もあると指摘します。

エネルギー総合工学研究所/内田俊介特任研究員(水中の化学物質の挙動の専門家)「あれほど汚い水、実際にはいろんなもの(化学物質)が入っている水、こういう状態を想定して(放射性物質の)挙動を考えていたのだろうか」
 

語り:メルトダウンした原子炉は様々な化学物質が発生しています。その種類や量によっても放射性物質の放出量に違いがでるのではないかという。事故の検証は充分なのか、原発の安全対策を審査する原子力規制委員会に問いました。
 
原子力規制委員会/更田豊志委員「安全を考える上で一番怖いのは見落としがあること、”欠け”があること。ただし、どうしても”欠け”は必ずあって(事故の)想定にしても十全になるように出来るだけの努力をしたつもりでも、そこで終わりではなくて継続的な改善、それから”欠け”を探す努力は常に続けていかなければならない」

吉田キャスター:放射性物質の大量放出は様々な弱点を・(?)、事前の予想や対策を超える形で起きていました。放射性物質の封じ込めがいかに難しいか、事故が起きて初めて分かることがいかにたくさんあるかを示しています。さらに未だに解明されていない問題が多く残されているのも事実です

事故の後原子力施設の新しい規制基準が作られ、今、全国の48の原発のうち17の原発原子力規制委員会の安全審査を受けています。
福島第1原発の事故を二度と繰り返してはいけない、そのためには多くの課題を置き去りにしたまま検証を止めることが決してあってはなりません。事故の教訓が本当の意味で踏まえられているのか? これほどの影響を及ぼした事故の検証がまだ道半ばであることを忘れず問い続けていくことが求められていると思います

◎番組スタッフの皆さんに敬意を表し、シリーズ次回作を期待しています。
◎この番組視聴後の管直人元首相の感想:「NHK番組と原発政策に関する欧州視察 」(http://blogos.com/article/82474/