NHKスペシャル「メルトダウン File.4 放射能”大量放出”の真相」(その2)


語り:今も帰還を阻む高濃度の放射能汚染. 格納容器に放射性物質を封じ込めることがいかに困難か2号機が突きつけた重い現実です。


吉田キャスター:深刻な汚染を決定づけた2号機からの放射性物質の大量放出. これまで目を向けてこなかった非常用の冷却装置がいわば落とし穴になってベントが出来なくなり格納容器から直接漏れ出していた事態を引き起こしていた恐れが出てきました。放射性物質を封じ込める最後の砦とされてきた格納容器. どこが破損して漏れたのか? 調査が行われていますが大量放出した2号機については具体的に分っていません。
調査で手がかりが得られているのは1号機. ベントには成功しましたが真っ先に冷却機能を失って一気にメルトダウン. 格納容器が壊れて放射性物質が大量に放出されました。最新の調査結果を専門家と解析すると格納容器の意外な弱点が浮かび上がってきました。
語り:放射性物質を封じ込める最後の砦である格納容器は
何処が壊れていたのか具体的な場所を探る調査が始まっています。
先ず調べるのは、最初にメルトダウンした1号機。
格納容器周辺は放射線量が高いため遠隔で操作するボートを使う。
このボートを汚染水が溜まっている格納容器のすぐ外側に投入、
装載したカメラが格納容器の損傷個所を探ります。

そして、カメラがとらえたのは、格納容器周辺の配管から漏れだす汚染水。この奥のどこかに損傷個所があることを示している。映像を見た専門家は流出する汚染水の量から、格納容器が予想よりも深刻な状況にあるのではないかと指摘した。



法政大学/宮野廣客員教授原発メーカー元幹部)「どこかに穴が開いている。コチラ側に漏れがないのであれば、ここではなくて、このどこかで」。

汚染水が漏れていた場所を辿るとコンクリートに覆われた格納容器の下の部分に行きつきます。そこは壊れにくいと考えられていた場所だった。専門家と共にさらに詳細な分析を行うことに。損傷が疑われる場所は、今、直接確かめることはできない。
入手した格納容器の図面とメルトダウンのシミュレーション結果を基に解析する。

エネルギー総合工学研究所/内藤正則部長(原発の事故分析の専門家)「口が開いている部分が一ヵ所. ここから溶けた核燃料が出てきている。それで我々の計算だと、この解けた物は壁にくっついていない。」


語り:シミュレーションではメルトダウンした核燃料は原子炉の下のコンクリート部分に噴き出した. あふれ出した核燃料は格納容器の壁に向かって流れて行くが、しかし、壁からおよそ1mのところで止まった。直接触れていないにもかかわらず壁が破壊されることがあるのか?

金属など構造物の耐久性を調査している専門家)「これ2000℃を超えるような高い温度ですからドライウェル(格納容器)の壁は、輻射熱で温度が上がる。温度が上がった時にドライウェルが構造的にもつかどうか・・・」。
  
鋼鉄製の格納容器の厚さは24ミリ. その周りを覆うコンクリートの形や材質などを踏まえ核燃料から出る熱の影響を探ると、最後の砦とされてきた格納容器の壁は600℃近くまで上昇. 赤で示した格納容器の金属部分は外側に向かって膨張する。外側のコンクリート部分に一部材質の異なる部分があり、継ぎ目の部分に大きな力がかかる。そこが耐え切れず破壊されるという結果がでた。



「元々温度がここまで高くなることは想定していない。こういった炭素鋼とかの金属ですと熱膨張が妨げられない」「従来、想定していなかった。あまりにもデブリ(溶けた核燃料)がドライウェルの壁近くまで出て来てしまったという今回の事故の事例では、持たない. という結論になりました、ということですね」

語り:これまで漏れやすいのは配管のつなぎ目や蓋の部分だとみられてきました。今回の結果は核燃料が壁に直接ふれなくても、その熱によって破壊されるという新たな弱点を示しています。

事故の当事者である東京電力はこの結果をどう受け止めるのか?

東京電力/姉川尚史常務(安全対策の責任者)「溶融炉心(溶けた燃料)が格納容器に出れば、いろんなところにひずみが生じて、その結果リークタイト(漏れが生じる)可能性があります。それはその通りだと思います。少なくともフクシマで大きな漏洩(ろうえい)が起こったところについては手だてをする、それ以外についても高温の溶融燃料が落ちてきたことによって劣化しそうなところに目配りして、それをどうやって防ぐかを考える、かなり高温に耐えるような材料でカバーするとか、やれることはまだまだあると思っていますので、そういう対策をする、と思ってます。」

語り:水素爆発を起こした3号機. そして最も大量の放射性物質を放出した2号機の格納容器の調査はこれからです。



吉田キャスター:原発の北西5キロあまり、福島県双葉町上羽鳥(かみはとり)に来ています。周辺に放射線量の高い場所があるため立入が厳しく制限されているため、このように防護服を着用します。今回私たちは原発の外でも放射性物質の放出の真相を知るうえで貴重な手がかかりを見つけました。放射線量を測定するモニタリングポストです。
実はここで記録されていたデータは気付かれないまま3年の間眠っていたんです。データを見ていくと1号機の水素爆発より前にかなりの放射性物質の放出があったことがわかりました。これは1号機のベントのタイミングと重なっています。浮かび上がってきたのは今の原発の安全対策に警鐘を鳴らす新たな事実です。
語り:3年間眠っていたモニタリンポストのデータ. そこには20秒おきの放射線量が地震発生から3日間にわたって記録されていた。データを解析すると、これまで明らかになっていなかった深刻な放射能汚染の実態が浮かび上がってきました。

地震発生から丸1日が経った3月12日午後2時40分. 急激に上昇した放射線量がピークに。およそ4.6msv/時。この状態が続けば一般の人の一年間の許容量をわずか15分で超えてしまう高い値です。


この放射線量が観測されたころ、福島第1原発で何が起きていたのか? 3月12日午後2時01分. 排気塔から出る白い煙. 格納容器の圧力を抜く1号機のベントです。その後原発の敷地内でも放射線量が上昇していたことが判りました。
東電元運転員「やっぱり異常に高い値だったのは覚えています。降り切れている所もあれば、指示計が。(建屋の)外の状況がどれだけ酷いものか推測できた」


事故による放射性物質の広がりを研究してきた茅野政道さんです。
ベントが行われた午後2時に放射性物質が放出された場合、どのように汚染が広がるか計算したシミュレーションの結果です。
放出された放射性物質は北西に向かって移動し上羽鳥を通過、午後2時40分の放射線量は上羽鳥で観測されたデータと一致しました。


日本原子力研究開発機構・茅野政道部門長(放射性物質の拡散の専門家)「今回の14時のベント開始からすぐに(セシウムが)放出されていることが判ってくる。セシウムとか粒子状の物質がどれくらいの割合かは分らないが、そういったものが出ていることは確か。」


しかし、1号機のベント前、東京電力放射性物質の放出は問題ないレベルだと説明していました。
東京電力/小森明生常務(当時)「原子炉の下に水がありまして、そこを通してベントをすると放射性物質が仮にあったとしてもかなり低いレベルに抑えられるという手順をとる。」
(つづく)