『4年経っても「緊急事態宣言」を解除できない現状』(小出裕章氏)

人民新聞人民新聞オンラインの「小出裕章さんインタビュー」から(http://www.jimmin.com/htmldoc/154301.htm
65歳で定年を迎えられる小出さんの発言が紹介されています。小出氏について、「小出さんは、外側からの評論ではなく、”原発を止められなかった責任”を負う当事者として語ろうとする姿勢を堅持し続け、ことさら危機感を煽るようなことはなく、可能な限り推測を交えず、わかっている事実から判断する、という科学者としての姿勢が一貫」と書かれていますが、今も一番信頼できる方の発言です。

戦後70年 原発事故の戦後史的意味とは?
「科学技術立国」「原発先進国」という幻想

4年経っても「緊急事態宣言」を解除できない現状を自覚すべき


京都大学原子炉実験所 小出 裕章


原発事故から4年を経た総括を小出裕章さんに聞いた。小出さんは、3月末で京大原子炉実験所を退官されるので在職最後のインタビューとなった。

小出さんには、事故以前からくり返しインタビューを行ってきたが、その応答は言葉が的確で無駄がなく、論理も明快だった。これも、長年原発に向き合い、情報を集め、論理を組み立て続けてきた蓄積の賜なのだろう。

退官後は、「涼しいところに住み、山登りもしてみたい」と語るが、お金や社会的名声などからできるだけ身を遠ざけて生きていこうとする小出さんの生き方に多少なりとも触れさせて頂いたことは、私にとっても幸運なインタビューだった。この場を借りて謝意を表したい。(編集部・山田)

※ ※ ※

編集部:今年は、戦後70年となります。この70年を振り返った際、福島原発事故は、どんな意味を持つのでしょうか?また、どのような教訓を引き出すべきでしょうか?

小出日本は、「戦後復興」と言いながら遮二無二に突き進み、「高度成長」と言いながらエネルギーをたくさん消費するような社会を作り、挙げ句の果てに原子力にまで手を染めてしまいました。
日本は科学技術立国だなんて思っている人が多いようですが、たいへんな勘違いです。そもそも日本という国は、科学技術の先進国であろうはずがないのです。というのも日本は、200年以上鎖国をして、西洋型の科学技術と無縁なまま生きてきました。西洋と無縁であったことを私は悪いとは思いませんが、ペリーが浦賀に来て大砲を撃たれ、びっくり仰天して開国し、初めて西洋型の科学技術に触れたのです。西洋型科学技術に関して言うなら、猛烈な後進国だったのです。

原子力技術に関しても、同様です。戦争をやって徹底的に叩きのめされた日本は、米軍に占領されたのですが、占領軍が真っ先にやったのが、日本軍による原爆開発のための研究施設を破壊することでした。当時の日本の原子力研究は極めて初歩的で、製造にはほど遠い状態でしたが、その研究施設を完全に破壊しました。無論、占領期間において原爆研究は厳禁でした。

注:日本軍の原爆開発
第二次世界大戦中、軍部には二つの原子爆弾開発計画が存在していた。陸軍の「ニ号研究」と海軍のF研究である。

1938年からウラン鉱山の開発が行われ、1941年4月に陸軍航空本部は理化学研究所原子爆弾の開発を委託。研究には理化学研究所の他に東京帝国大学大阪帝国大学東北帝国大学の研究者が参加した。

一方米国は、第2次世界大戦の戦場にならず、圧倒的な資源がありましたから、原爆製造のためのマンハッタン計画に多大な金と人を投入し、原爆を製造したわけで、この時点で日本と米国の技術格差は、お話にならないほどでした。

世界で初めて商業用原子力発電所を稼働させたのは、ソ連(1954年)です。米国も1957年に初稼働しています。一方、日本の原子力技術は、ほぼゼロの状態なので、1966年にイギリスからプラント丸ごと買ったのです。それが東海原子力発電所です。次いで1970年に敦賀・美浜に米国から買った原発を建てますが、100%米国の技術で、日本はスイッチを入れただけでした。

事故を起こした福島第1原発も、GE(ジェネラルエレクトリック)社から買ったプラントです。冷却水ポンプが海側にあったのは、米国では原発を河沿いに建設するので津波の心配がないために、河側に冷却水ポンプを設置していたためです米国の設計そのままで福島に造ったために、地震津波で簡単に壊れてしまったわけです。

日本は、科学技術全般に関して後進国ですし、原子力に関しては圧倒的な後進国なのです。その後進性が福島の事故で明らかになったということです。急激な戦後復興や科学技術立国というスローガンも幻想として吹き飛んだのだ、と私は思います。

原発=他国の技術の借り物/日本の後進性が引き起こした事故

:日本は、「原子力技術に関して最も進んだ国だ」として原発を輸出しようとしていますが…。

小出…日本では、三菱・日立・東芝原発を建造していますが、全て米国の技術ですから、自力で輸出なんてできません。
東芝は加圧水型ですが、WH(ウエスティングハウス)社を丸ごと買収したからで、基本技術はWH社です。日立は、GE社と共同で沸騰水型軽水炉を輸出しようとしていますが、GEがいなければ不可能です。三菱は加圧水型でしたが、東芝がWH社を買収したので、どうしようもなくなってフランスのアレバ社と提携しました。アレバ社の技術がなければ輸出できないのです。

安倍首相は、「日本の原発は事故を経て、安全技術はより高まった」「原発事故の経験を踏まえた安全性の高い技術の提供」などと宣伝していますが…。

小出…皆さんこの言葉をどう思うのか?逆に聞いてみたいくらいですが、あまりにバカげた発言だと思います。日本の原子力技術は他国の技術の借り物でしかないということを、まず自覚しなければなりません福島原発事故は、日本の原子力技術の後進性ゆえに起こってしまいましたが、事故が起きて4年経った今に至ってすら、「原子力災害緊急事態宣言」を解除できないままなのです

「緊急事態だから」として、法律化されたさまざまな被曝基準を無視し、住民の被曝基準も労働者の被曝線量も違法状態を続けているのが、事実であり現状です。「世界一安全な技術」なんて、あまりに破廉恥な宣伝ですし、安倍首相らしいインチキだと私は思います。


東電の「情報公開」あり得ない/犯罪者がかばい合ってやりたい放題

:2号機から汚染水が港湾外に流出していた汚染水漏洩で、東電は、原則として情報を公開する方針を決めたと報道されています。「ようやく」という感はぬぐえませんが、信用できる方針転換ですか?また、これを実質化するための提案は?

小出東電が情報公開するなんてあり得ません。これまでも情報を隠してきましたし、これからも隠します。今回の不祥事で東電の姿勢が変わることはありません。これまで東電は、ずっと情報を隠して、「バレてしまったら「情報公開します」と言いながら公開しないでやってきました。今回の汚染水漏洩と情報隠しにしても、彼らは深刻に受け止めてなんていません。「大したことじゃないのにな…」くらいにしか思ってないでしょう。

私は、「東電の幹部は犯罪者であり刑務所に入れるべきだ」と言い続けています。誰も責任を取らないし、被害者の損害賠償にしても、加害者である東電が損害の査定をするというおかしな仕組みになっています。その結果、東電は2015年3月期決算の経常利益が2270億円の黒字になるというのです。被害者への責任を取らないで黒字を確保するという、とんでもない会社です。こんな仕組みは根本的に間違っているし、犯罪者である東電がやろうとすることは全て禁止すべきです

本来なら国家が東電に責任を取らせて、国家管理の下で事故処理をしなければなりませんが、政府も原子力マフィアの一員です政府・東電という犯罪者集団が、お互いにかばい合って、ぬくぬくと生き延び、やりたい放題やっているのが現実です。このような状態で、正確な情報が開示されるわけがありません

本来なら東電を倒産させて、情報についても東電が管理するのではなく、情報公開のための組織を作らねばなりませんが、そんな気配すらありません。

どんな過酷事故でも、電力会社は安泰

高浜原発再稼働について。

小出関西電力原発再稼働させたい理由は、動かない原発不良債権化し、決算が赤字になることを恐れているのでしょうが、次の点が重要です。関西電力福島原発事故から学んだ最大の教訓は、「どんな過酷な事故を起こして住民を苦境に陥れても、絶対に自分たちが責任を問われることはない」ということです。東電があれだけの事故を起こしても、誰も刑事責任を問われず会社は黒字になるのですから関西電力が高浜原発を再稼働させて事故を起こしたところで、彼らは安泰なのです。

政府の側にもさまざまな思惑があるのでしょうが、一つは原発輸出のために再稼働は必要だということです。自国で原発が動いていないのに他国には輸出しますという道理は、さすがに通りません。原発を輸出するためには、再稼働が絶対条件です。
ただし、高浜原発の再稼働は無理でしょう。3月内にも再稼働禁止の仮処分が決定されるでしょう。仮処分決定は出た時点で確定しますから、再稼働は不可能でしょう。

:3月で定年を迎えられます。今後、どのような活動をされる予定ですか?

小出…定年なんて所詮、社会的な制度でしかありませんから、私にとって重要な意味はありません。ただし、私も生き物なので、老いや死を避けることはできません。定年は、老いや死への一里塚だと思っていますので、残りの人生をどう生きるかを考える時だと思っています。

しかし、福島の事故から4年経って、事故そのものも収束できないし、たくさんの人々が苦難に落とされているのですから、そこに目をつぶることはできません。私は「仙人になる」と言っていますが、周囲の人たちは「そんなことはさせない」と怒っていますので、私しかやらない、私にしかできないことを引き受けながら、少しずつ退いていくしかないと思っています。私は暑さが苦手なので、涼しいところで山にも登ってみたいと思っています。

人民新聞パンフレット

小出裕章さんインタビュー 
原発に安全はない/フクイチの現実

人民新聞は、福島第1原発の事故発生以来、事故原発の実情を正確に知りたいとの思いで、小出裕章さんにインタビューをくり返してきた。第1回は3月15日。1・3号基に続いて2号基でも白煙が上がるという緊急事態で、事故の過酷さは誰の目にも明らかになったものの、何が起こっているのか?は、東電もわかっていなかった。小出さんは、「必要な情報が出てこない」と嘆きながらも、事故原発の破壊の様子を推理しており、今から読み返してもかなり正確な分析と言える。



その後、東電・政府の情報隠しと露骨な世論操作が目にあまるようになり、小出さんの分析と主張は、多くの人にとって真実を知る貴重な判断材料になり続けている


事故4周年を迎えて、これら小出裕章さんへのインタビューをまとめて小パフレットにした。インタビューに応じる小出さんは、外側からの評論ではなく、「原発を止められなかった責任」を負う当事者として語ろうとする姿勢を堅持し続けている事故収束作業についても、「最悪を想定して先手を打つ」という予防原則に立っているが、ことさら危機感を煽るようなことはなく、可能な限り推測を交えず、わかっている事実から判断する、という科学者としての姿勢も一貫している。

評価の基準も明確だ。小出さんにとっては、福島の子どもたちの被曝をどう減らすか、そして下請労働者の労働環境の改善が重要課題だ。フクイチについては、事故処理・福島の農業・除染など、問題は多面的だが、見逃されがちな先の評価基準に沿って思考している。

今年3月末で、小出さんは、京都大学原子炉実験所を定年退官する。その後の活動は、1面インタビューのとおりだが、電力会社・安倍内閣の再稼働への意志は強く、激しい攻防が続いている。この小パンフレットを通して、原発廃止に向けた論拠を獲得するだけでなく、原発がもつ差別性に抗議し続けた、小出さんの生き方も感じて頂ければ幸いである。(編集部・山田)

人民新聞社編/A5判・65㌻/定価・600円(税込)

※編集部に直接お申し込みの方については、発刊記念として、税込・送料込=600円で領布します。奮ってお申し込み下さい。

人民新聞 1部150円 購読料半年間3,000円 ┃郵便振替口座 00950-4-88555/ゆうちょ銀行〇九九店 当座 0088555┃購読申込・問合せ┃取り扱い書店┃人民新聞社┃TEL (06) 6572-9440 FAX (06) 6572-9441┃Mailto: people★jimmin.com (★をアットマークに) ┃twitter