◎昨日10日の日経新聞朝刊の一面囲みの写真と記事です。
福島第1,遠い廃炉 / 震災5年,爪痕なお
日本経済新聞は9日,東日本大震災に伴う事故から間もなく5年を迎える東京電力福島第1原子力発電所を取材した。敷地内の放射線量は下がり,廃炉作業の環境は改善しているが,津波や水素爆発など惨事の爪痕はいまも残る。今世紀半ばをみこむ廃炉の完了に向けた道は険しい。(関連記事を社会面に)
福島第1原発1〜3号機を西側の高台から望む。事故で炉心溶融を起こした原子炉建屋が人の立ち入りを拒むようにたたずんでいた。3号機の上部はがれきがむき出しになり,奥にはいまだ詳しい様子が分からない原子炉が残る。
◎さて、その「社会面の関連記事」です:
東京電力福島第1原子力発電所で9日,2014年6月から汚染水対策の柱としてとり組んできた「凍土壁」の設置工事が完了した。政府や東電は凍土壁で汚染水の発生を減らす計画だ。
一方,原子力規制委員会は凍土壁の効果や影響をみきわめ,認可するかを慎重に判断する方針。
2011年3月の事故後,廃炉作業を妨げてきた汚染水との闘いは終わりがみえない。(1面参照 )
規制委 認可 慎重に判断
9日午後1時ごろ,福島第1原発4号機の近くでは,真冬の太陽を浴びて銀色に光る配管が地面に張りめぐらされていた。セ氏マイナス30度の冷却液を地中に流しこみ,土壌を凍らせて「氷の壁」を築く設備だ。
1〜4号機の建屋を囲むように全長 1.5キロメートルにわたって造成する凍土壁は,建屋に流れこみ,汚染水の発生源となる地下水を遮断するのが目的だ。「地下水の流入量を現在の1日約150トンから50トンほどに減らせる」と東電は説明する。9日に計器の取付けなどを含む設置工事が終わり,凍結の準備が整った。
現時点で完成のメドは立っていない。実際に凍結を始めるには,原子力規制委の認可が必要だからだ。規制委は凍土壁が地下水の流れや水位に及ぼす影響を慎重にみきわめる姿勢を示す。水位が急に下がれば,建屋から汚染水が外に流れ出してしまう恐れがある。
規制委は15日の検討会で対応を話しあう。東電が明確な説明ができるかが焦点だ。敷地内には汚染水を浄化処理した約60万トンの水を保管しているが,トリチウムという放射性物質が残る。このため海にも流せず,最終的な処分方法は未定だ。
◎昨日10日の「社会科学者の随想」さんでは、一寸長いタイトル「いつになったら東電福島第1原発事故現場の汚染水対策:凍土壁問題は解決するのか,太平洋に永遠的に洩れつづける放射能の危険性」で、上記日経の記事と同時に朝日新聞の記事を載せておられます。朝日の記事には、「水位が下がれば建屋から汚染水が流れる」という詳しい図解が掲載されています。そして、「随想」さんは、その後、昨年のラジオフォーラムの小出裕章氏の発言を全文引用されていました。(全文はコチラで:http://blog.livedoor.jp/bbgmgt/archives/1051767382.html)
小出氏のお話は、相変わらず解りやすい。私も倣って、ラジオフォーラム第155回小出裕章ジャーナルをそっくり貼り付けてみます:
汚染水処理の現状「トリチウムという放射性物質については全くなすすべがないまま、いずれは海へ流すということになってしまうわけです」〜第155回小出裕章ジャーナル
2015年12月26日
矢野宏:
事故から5年近くになります。この東京電力福島第一原発が今どうなっているのか。この大阪にいても全く伝わってこないんですよねえ。小出さん:
そうですね。矢野:
はい。今、1号機から4号機までのプラントというのは、今どんな状態にあるという風に考えたらよろしいんでしょうか?小出さん:
はい。4号機というのは事故の当日、定期検査で動いていませんので、炉心が溶け落ちるということは、辛うじて避けれらたのです。ただし炉心にあった燃料も、全てが使用済み燃料プールというプールの底にあって、そのプールが崩れ落ちる。あるいは水が干上がるようなことになってしまえば、東京すらがもう人が住めないと言って、当時の原子力委員会の委員長だった近藤駿介さんという人が報告書を出したのです。
でもその4号機の使用済み燃料プールはかなり奇跡的な出来事もあって、辛うじて持ちこたえました。そしてプールの底にあった燃料も、すでに隣にある共用燃料プールというプールに移し終えましたので、4号機の危機は一応は去ったと考えて頂いていいと思います。
残りは1号機、2号機、3号機なのですが、いずれも当日運転中で原子炉が溶け落ちてしまいました。そして5年近く経った今も、溶け落ちた炉心がどこにどのような状態にあるかすらがわからないという状態が続いているのです。その場所には、人為的に炉心をこれ以上溶かさないということで水をかけ続けていますし、巨大な地震に襲われたがために、本来は外部と繋がっていてはいけないはずの原子炉建屋もおそらく至るところで破損してしまっていて、地下水がどんどんと原子炉建屋の中に流れ込んでくる、それら全てが放射能汚染水になってしまうという状態が、未だに続いているということなのです。
矢野:
なるほど。汚染水に対して、今どのような対策をとってるんでしょうか?小出さん:
当初はとにかくどんどんどんどん増えるに任せていたのですけれども、1年ほど経った段階から汚染水を浄化して、それを循環して炉心の冷却に使うというようなシステムができました。ただし浄化すると言っても、汚染水の中から取り除けた放射性物質はセシウムという物質ただひとつだけだった。
矢野:
ひとつだけですか?小出さん:
はい、だったのです。それでは、残りの放射性物質が全て汚染水の中に残った状態が続いていたわけですけれども。それを何とかしなければいけないということで、アルプスと私達が呼んでいる装置を東京電力が新たにつくりまして、それでセシウム以外の放射性物質、一番重要なのはストロンチウムという名前の放射性物質なのですが、それを捕まえようとしてきたのです。しかし、アルプスもつくったものの、まともに動かない。小出さん:
はい、という状態が続いていまして、つくってみては止まってしまう、つくってみては止まってしまうということを繰り返しながら、今日までやってきているのです。まあそんなことを繰り返しながら、何とか少しストロンチウムも捕まえることができるようになったというのが、今の状態です。ただしセシウムを捕まえた、ストロンチウムを捕まえたと言っても、トリチウムという名前の放射性物質もあるのですが、それは仮にアルプスが完璧に動いたとしても、完璧に取れない。矢野:
取れないわけですね。小出さん:
全く取れない。ですから今のような状態が続く限りは、トリチウムという放射性物質については全くなすすべがないまま、いずれは海へ流すということになってしまうわけです。
矢野:
なるほど。あと問題の1号機、2号機、3号機のこの使用済み核燃料、まず取り出さなければいけないわけですが、これは結構、至難の技ですよねえ。小出さん:
それは、私はできない。矢野:
できない。小出さん:
はい、と思って、ですからチェルノブイリ原子力発電所でやったように、石棺という形で封じ込めるしかないのですが、チェルノブイリ原子力発電所の場合には、地下の構造物はまだ壊れずに維持されていたので、地上だけに石棺を作れば済んだのですけれども、福島第一原子力発電所の場合には、もう地下が先程も聞いて頂いたように、ボロボロに壊れてしまっているわけですから、地下にも石棺をつくる、地上にも石棺をつくるということに結局はなるだろうと思います。
そのために10年では到底できませんし、何10年か経った時に、ようやくにして石棺というものができるということなんだろうなと、私は思います。
矢野:
なるほど。しかし今もこうした事故を起こしながら、東電の責任者は誰一人その責任を追及されてませんよね。小出さん:
これだけ酷いことをやっても、誰も責任を取ろうともしないし、処罰もされないという、こんなことが起こり得るんだろうかと思うようなことが、今起きているわけです。矢野:
そうですよねえ。だから平気で再稼働に動いていくんでしょうね。
小出さん:
はい。私が福島第一原子力発電所の事故から学んだ教訓というのは、万が一でも事故が起きてしまえば大変悲惨な被害が出るので、もう原子力発電というのはあきらめて止めるというのが私が得た教訓なのですが、原子力を進めてきた人達が得た教訓というのは、私が得た教訓とは全く違っていて、どんな酷い被害が出たとしても、誰一人責任をとらずに済むし、処罰もされないという教訓を彼らが得たので。
そうなれば何にも怖いものはないので、これからは原子力発電所を再稼働してまた金儲けをしたいという、そういう選択を彼らがするようになったのです。
矢野:
何ともほんとにもう悔しいし、今も福島の人達は10万人以上の方が家を追われてるわけですよねえ。
小出さん:
そうです。矢野:
そういった人達のことを考えれば、もう私達のとるべき道は、原発を再び動かさないということだと思うんですけれども。小出さん:
おっしゃる通りだと、私は思います。矢野:
小出さん、どうもありがとうございました。小出さん:
はい、ありがとうございました。
(引用元:「ラジオフォーラム」http://www.rafjp.org/koidejournal/no155/)
◎上3枚の写真は、今朝2月11日の日本経済新聞朝刊の特集「福島第1原発の今」から。「3号機 爪痕なお:事故の爪痕がいまだ残る3号機。原子炉の炉心溶融で水素爆発を起こした。溶け落ちた核燃料がどうなっているのか今も分からず。」
「原発を取り壊す廃炉作業には、30〜40年の年月がかかる。世界で誰も経験したことのない難作業が立ちはだかる。」