”憎悪による復讐は解決にならない”と「完全に失敗した『テロとの戦い』」(想田和弘)

◎映画監督の想田和弘氏のツィート欄を覗いていますが、今回、テロ以降のツィートをまとめたような内容を「マガジン9条」の「映画作家想田和弘の観察する日々」という頁で書いておられます。この中で、2012年に米軍の無人機による「誤爆」で家族を失い、自らも右手を負傷したパキスタン人のナビラ・レフマンさんのことにも触れておられますが、丁度19日の報道ステーションで女性キャスターがナビラさんにインタビューしていました。

ナビラ・レフマン(11歳)さんはアメリカのドローンによる空爆で祖母を亡くし、ナビラさんも負傷しました。年齢も、住んでいた場所も同じですが、アメリカの敵タリバンに撃たれたマララさんは、西洋社会で大きく取り上げられ、ノーベル平和賞まで与えれ、アメリカではオバマ大統領とも会っています。アメリカは、遠隔操作での空爆が安上がりで兵士が傷つかないということで、2004年頃からパキスタン北部でドローンによる空爆を開始。空爆で殺害された3989人のうち965人が民間人(「英非営利団体「調査報道局」調べ)。(Wikiより:マララさんがBBCの取材で世に知られたのが11歳、タリバンに銃撃されたのは15歳でした。2013年にオバマ大統領に会った時は、無人機を使ったアメリカのテロ掃討作戦をやめるよう伝えています。)
ナビラさんは、2013年に、アメリカの下院議員435人に呼びかけましたが、無人機の誤爆を訴える公聴会に集まった議員はたった5人だったとか。
マララさんの父親と同じように、ナビラさんの父(41)も教育者で、こう発言しています。「マララさんは治療を受け、教育機会も与えられた。だけど娘ナビラにはどの国も教育支援をしてくれなかった。不公平だ」。
ナビラさんは「戦争に大金を使うんだったら、そのお金を教育や学校に使うべきだ攻撃と復讐を繰り返しても解決に向かわない復讐より、話し合いで解決すべきです安易に戦争に向かっても平和は絶対やってきません。」
(☆毎日新聞が、15日の取材、16日のシンポジウム、広島訪問などフォローしていますので詳しくはコチラで:http://news.goo.ne.jp/article/mainichi/nation/mainichi-20151116k0000m040092000c.html


★ナビラさんの「復讐・戦争では解決しない」を、「イスラム国」に拘束されたことがあるジャーナリストがより具体的に話します。翌日20日報道ステーションでは、男性キャスターが今度はフランス人ジャーナリストのニコラ・エナン氏にインタビューしています。


イスラム国」は、西洋文化の国にイスラム教徒の居場所はないと主張している。
難民が避難した先で受け入れられと「イスラム国」のプロパガンダが崩れる

難民が受け入れられるのを防ぐために「イスラム国」は難民が厳しく非難され差別が増えるような行為をする。


住民を味方につければ「イスラム国」は内部崩壊する。

(「イスラム国」支配下の)住民を攻撃するのではなく、住民こそが解決のカギで、敵に回さず味方につければ「イスラム国」は崩壊する



★そして、一週間前のパリのテロで妻を失ったフランス人ジャーナリストは、「テロリストに憎しみを返さない」とフェイスブックで手紙です。
20日の読売新聞夕刊に、そのfacebookの記事が載っています。
アントワーヌ・レリス(34)さんの手紙から:
「君たちは憎しみを期待しているのだろうが、怒りで応じれば君たちと同じ無知に屈することになる。」私は息子と二人になった。しかし、世界中のどんな軍隊より強い。息子は普段と同じようにお菓子を食べ、私たちは一緒に遊ぶ。
幸せで自由に生きる彼を見て、恥じるがいい。君たちは、彼の憎悪を勝ち取ることも絶対にできない」。

☆レリス氏の手紙全文:http://www.asahi.com/articles/ASHCM5V6YHCMUHBI029.html?ref=nmail
(写真はすべて報道ステーションの画面をカメラで撮ったもの)

◎さて、前置きが2,3日の内にこんなに長くなってしまいましたが、「マガジン9条」の「映画作家想田和弘の観察する日々」から、ナビラさんのことも触れている前半は省略して、後半部分を引用してコピーしてみます。(引用元:http://www.magazine9.jp/article/soda/24081/


完全に失敗した「テロとの戦い



 パリで大規模な「テロ」が起き、世界中で大騒ぎになっている。ベイルートでもほぼ同時にそれに匹敵する大きな「テロ」事件が起きたが、こちらはそれほど大騒ぎになっていない。

 市民を無差別に殺傷する「テロ行為」が卑劣なものであり、強く非難しなければならないことは、言うまでもない。巻き込まれて亡くなった方々やご家族は、本当に本当に気の毒だと思う。心から哀悼の意を表したい。

 同時に、これをきっかけにさらに「テロとの戦い」が加熱し、報復合戦が激しくなるのかと思うと、悲しさと虚しさにやるせなくなる。


 いま確実に言えるのは、9・11事件以来米国が主導してきた「テロとの戦い」は、「テロ」を根絶するという意味では完全な失敗だったということである。


 9・11後、米国はアフガニスタンイラクを侵略した。そしてビンラディンフセインを殺害するという「成果」も得た。しかしそれで、「テロ」は減ったであろうか? 事態は全く逆であろう。米軍らによる一般市民の大量殺戮は、むしろISという怪物のような「テロ組織」を台頭させ、育ててしまった。今回の「テロ」事件は、その帰結といえるのではないだろうか。


<中略>


  僕はいま改めて、2001年9月11日の事件の際、最初にボタンをかけ間違ったことの負の影響の甚大さについて、考えている。

 当時のブッシュ政権は、アメリカに対する「テロ攻撃への報復」及び「テロリストの根絶」を目標に掲げ、アフガニスタンへの侵攻を開始した。日本の小泉政権も、すぐさまそれを支持した。

 僕は当時もニューヨークに住んでいたので、あの9・11事件にはとてつもない衝撃を受けた。炭疽菌事件もあったりして、街を歩くのにも現実的な身の危険を感じた。だから世論調査アメリカ国民の約90%がアフガニスタン攻撃を支持したと知ったときには、感情的にはその気持ちを理解した



 しかし、アフガニスタンに米軍を侵攻させてテロリストを撲滅するという発想には、原理的かつ根本的な落とし穴があると直感し、侵攻には当初から大反対だった。

 その「原理的かつ根本的な落とし穴」とは何か?

 テロリストとは「属性」ではない、ということだ。また、テロリズムとはアイデアである、ということだ。

 分かりにくいだろうか?

 つまりこういうことだ。


 生まれながらに「テロリスト」である人間はいない。テロリストと呼ばれる人たちは、最初は誰しも普通の赤ちゃんとして生まれるわけだが(当たり前だ)、その後育った環境や出会った人々や出来事、思想などの影響で、人生のどこかで「テロリスト(彼らの視点では正義の戦士)」になることを決断する。ということは、テロリズムというコンセプトが、現状を打破したり敵に報復したりする上で、魅力的かつ効果的なソリューションに見えるような社会的環境や条件が継続する限り、「テロリスト」は無限大に増殖しうるのである。


 これが例えば「この世からゴキブリを根絶する」というのであれば、実際には難しいだろうが、原理的には実現の可能性はある。ゴキブリを片っ端から殺していけばよいのだから。そしてゴキブリがこの世から一匹もいなくなれば、たぶんその後ゴキブリが再び復活することはない。なぜなら、カブトムシがいきなり何かに影響されてゴキブリになったりすることはないからである。


 しかし「テロリスト」は違う。たとえテロリストが皆殺しに合い、一時的にこの世から一人もいなくなったとしても、「テロリズム」というコンセプトが存在し、それに共感する人がいる限り、再びテロリストが生まれる可能性は残る。たぶん多くの人は、テロリストをゴキブリのような存在としてイメージし、徹底的に殺せばいなくなるものだと考えているのだろうが、そういうイメージそのものが致命的に誤っているのである。


 イラク戦争での死者の数をコツコツと数えているサイトがある。それによれば、この原稿を書いている時点で、推定146,062人から 166,410人の民間人の死者が出ているそうだ。
 また、別のサイトによれば、アフガニスタンでの民間人の死者は累計で約26000人パキスタンで殺された民間人の数は、最大で3800人に上る。


 それらを合計すれば、「テロとの戦い」で17万人から20万人の命が失われていることになる。気の遠くなるような数字だ。

 17万人から20万人と一口に言うが、その一人ひとりに人生があり、家族や友人がいたことを想像すると、めまいで倒れそうになる。


 米軍らは、人を殺した数だけ、街を破壊した分だけ、「テロリスト予備軍」を増やしているのではないだろうか。そして、肉親や友人を殺された人々が報復を誓い、あるいは同胞による報復行動に共感することで、ISが力を得てきているのではないだろうか



 安倍晋三政権の下、日本も「テロとの戦い」にますます傾斜していくことになるだろう。今後日本で「テロ」が起きれば、その傾向は決定的になり、自衛隊を「テロリスト掃討作戦」に参加させることになるかもしれない。

 しかしそれは、すでに血を流し膿んでいる大きな傷口に、塩や唐辛子をさらに塗りつける行為に他ならないことを、私たちはいまから肝に銘じておくべきである。


 すでに米軍らが17万人から20万人の民間人を殺戮している以上、いまストップしても、すぐには「テロ」は止まらないかもしれない。しかしこれ以上殺せば、さらに復讐の火が燃え盛るであろうことは、目に見えている。

 それはいたって単純な「物事の道理」ではないだろうか?

 最後に、@youji1224さんがツイートしていた強烈な皮肉を紹介する。

「テロ犯人がパリに潜伏してるなら、パリを空爆すればいいじゃん。いつもならそうするじゃん」

 ギョッとするツイートだが、問題の本質を鋭く突いている。イラクやシリアやアフガニスタンパキスタンなどで、米軍らは実際、そういう対応を平気で行っているのである。