土曜ドラマ「遥かなる絆」

4月29日(水)「昭和の日」という祭日の昼間、外出から帰ってテレビをつけると、中国残留孤児の話。
新聞で確かめると、珍しく関西テレビの「ザ・ドキュメント」という番組で「父の国・母の国」というドキュメンタリー番組。
1時間番組の3分の1程を見逃して途中から。語りが優香さん。

取り上げられている男性は本名、不明の日本人残留孤児だった方。去年か今年、中国人妻を連れて中国を訪ねている映像。若いころの仲間だった中国人が、「70近くなってゴミ拾いしているとは・・・。彼は優秀で学級委員や生徒会長をやっていた。共産党の副書記長も。中国にいれば今頃は部長になっていたはず」と話している。仮名のこの日本人男性は66歳。87年、44歳で中国人妻を連れて日本に帰国。1966年から76年までの「文化大革命」、22歳からの10年間、中国では日本人故の迫害にあっている。

中国人の母親のお墓に向かって話しだす。「お母さんは怒っているでしょうね。日本人の私を大きく育ててくれた。その息子は母親を置き去りにした。日本政府は私を日本人とは認めてくれない。私は、解った。大切なのは有意義な生き方、誇りを持って、恥じない生き方をすること」と言いながら声をあげて泣き伏した。

NHKの土曜ドラマ、「遥かなる絆」の城戸幹さんと似た境遇で、どうしてもこのドラマが重なってしまう。
このドラマ、「大地の子」から14年後、同じ演出家の岡崎栄さんが城戸久枝原作「あの戦争から遠く離れて」をドラマにした。

あの戦争から遠く離れて―私につながる歴史をたどる旅

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同じ残留孤児の話なのですが、今回は原作者の残留孤児二世の視点で物語られるのが新しい。
中国の「文化大革命」の時代は、あの紅衛兵が毛語録をかざして乱暴狼藉を働いているのをニュースで見たくらいで、私自身、子育てに埋没していた時代。ずっと後になって「ワイルド・スワン」が世界的ベストセラーになって、その時、知りました。

父親の城戸幹さんは、政府が力を入れ始めるよりずっと以前に、自力で日本の赤十字に200通もの手紙を書いて父親捜しを訴え,心労で胃潰瘍になり、血を吐きながらも祖国日本への帰国を叶えようと,中国の親友たちの支えを得ながら努力を続ける。彼も北京大学に合格しながら、国籍欄に日本国と書いて、落ちる。それでも、日本人であることを捨てない。以後、牡丹江で肉体労働者として生きながら、育ての母を農村から引き取り、日本への帰国を願い努力し続ける。

1998年、中国に留学して父親の日記を読んで「解った」気になった久枝に、付き合っている中国人青年が「君にはお父さんの気持ちが解っていない」と言います。彼は「文革」の迫害にあって父を自殺で失っているという。青年の父親の中国人が受けた傷と久枝の父親が日本人として迫害された心の傷が重なる。城戸幹さんは迫害を受けたから日本に帰りたいと思ったわけではなくて、迫害を受けても日本に帰りたいと思った。

祖国とは何か。「叶わぬ夢だからこそ輝き続けるのかも」とドラマの中でも語られる。生まれた国は、自分がこの世にある故郷、自分がこの世にあるのは父、母の存在があってこそ。そして、血が呼び起こす郷愁。どんな仕打ちをうけても祖国に戻りたいという思いの強さ。
関西テレビの廃品回収をしている元残留孤児の男性も、育ての母の気持ちがわかっていても、祖国日本へ帰ってきたかったという。
ドラマもあと2回。この原作も、その後出版された城戸幹さんご自身の著作も読んでみたくなりました。

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