そして原子力村の慣わし、掟、村八分(「アメリカから見た福島原発事故」)

NHKアメリカでの取材番組を一緒に見た後で、20分ほどの対談番組があります。
NHKで解説をやっていた科学ジャーナリストの小出五郎さんと、原子力プラント設計技術者で工学博士、設計工学が専門で1989年から10数年、日本のメーカー(東芝)で原子炉格納容器の設計に携わっていた後藤正志さんの二人です。
後藤さんの真摯な姿勢と小出さんの明確な問題点の提示がとても分りやすい内容になっています。
そして、それを引き出すのに十分な衝撃的な取材内容でした。
見終わった専門家の後藤さんでさえ、素人の私が見た印象と同じ感想を語っておられるのも驚きでした。
それでは、昨日のつづきをフォローしてみます。

東電の非常用発電機の設置変更申請は平成5年、当時の通産省の許可を得ていました。
非常用発電機が津波でいっぺんに仕えなくなった事が全交流電源喪失という事態を招いた。
東電で福島第1原発が建設されていた頃から関わってきた元東電副社長の豊田正敏さん、この時一線を退いていたが非常用電源がなぜこんな設置のされ方をしていたのか驚きを隠せませんでした。図面を見せられて、「この図面、初めて見た…。ルーティーン(日常業務)として下の人がやっている。課長クラスかわかりませんが、設計ミスに相当する人為ミス。これはね、どうしても理解できない。あれだけの人がいてね… 東電だけじゃなくてメーカー、審査当局、なぜ気づかなかったのか、保安院だってね、わかるでしょう…、いずれにしてもね、わかりませんね〜」


「日本では重大事故は現実に起こることは考えられないほど発生の可能性が十分に小さい」という前提で、安全対策が考えられてきました。
しかし、現実には重大事故は発生したのです。
バジョロさん:「原子力業界が抱える最大の問題は想定の範囲を設定してしまうこと。線を引き『こちらの側の災害は想定しましょう、向こう側の危険は忘れましょう』と決めること。それは大きな過ちです。原発の安全性を脅かす最悪のものは想定をきめて想定外を無視すること。地震津波に対する安全設計も全く同じ。想定より大きな地震津波の安全対策をしない。それが過ちなのです。」


後藤:マークIに弱点があるのはある程度知っていましたが、80年代にこれほど明確に廃止すべきとまで米国で指摘されていたのには驚きました。
小出:しかし、アメリカでも圧力が掛かって有耶無耶に終わった。日本では、基本的な設計上の指摘された問題の情報はどのように扱われてきたのか?
後藤:一般的な海外の情報はアメリカに限らず入るが、クリアーに入ったか、受け止められたかというと…
小出:「日本は違うんだ」という言い方は思考停止につながるが、「日本は違う」という安全意識が現場に与えた影響は?
後藤:品質が良い、故障が少ない、壊れにくいということと、安全性は別物だと私は思う。壊れやすくても、壊れた時、安全な設計をとればよい。信頼性が高いために、安全の設定の思想が不十分だと思う。滅多にトラブルがないので、これでいいんだと、安全なんだと誤解している。
<重大事故を真面目に考えない土壌>
小出:最悪の事態は起こりえない、と過小評価する。データに基づかず、期待に基づいて判断してしまうという雰囲気が現場に満ちていたのでは?
後藤:うまく行けば当り前、うまくいかない場合を想定して設計、最悪の事態をどこまで取り込めるかが重要課題。一番罪なのは、確率論的安全評価 ー 確立が低いから無視するでは安全対策の思考停止。確率論は安全の哲学を欠く考え方。想定でき得る、シナリオが書ける事故は、起こり得る事故なので備えなければならない。

核兵器原発=秘密主義の体質>
後藤:情報が出てこない問題は、あれは、核技術と関連があると思う。設計情報が出せない→自然と秘密主義になる。それは安全の面から言っても情報共有がしにくくなり、非常に危険。私自身、現役の時にシビアアクシデントの設計状況を超えたメルトダウンの事故の対策として議論した場合、現場の技術者と素直に議論できるかというと、ナカナカそうはいかない、非常に難しい。
原子力技術ー分業と縦割り> 分業がハッキリしている。それぞれの分野が分かれていて、ふれると怒られる、越権行為と言われる風潮がある。他に踏み込むのは差し控え、互いに干渉しない。昔はそうでもなく、技術屋どうし踏み込んで交流したんだが、薄れてきた。
原子力村>
小出:私は原子力村のペンタゴン”と言っているのだが、官庁・政治家・企業・学者・メディアの五角形が線で結ばれて効率がいい。日本では他のプロジェクトでも同じ構造をしているが。村には慣わしとか掟があって、長いものには巻かれろ、議論はしないで阿吽の呼吸。さらに、批判すると村八分で外に出す。村構造自体が縦割りを徹底させる。
後藤:原子力とタブー> 格納容器が壊れる、「壊れる」と言ってはいけない、そういう表現は避ける、というのが常識。論文を出す場合でも、使わないように配慮する。危ない状態=格納容器が壊れる=を避けているうちに、本質的問題の情報を共有出来ない状態になる。その体質、秘密体質が、自ら最初は安全だと思っていないのに、その内、安全だと勘違いするようになった。
小出:メディアも村の構造に加担してなかったか? といえば、完全になかったとは言えない。問題点は指摘してきたつもりだけど・・・
(村の)中に入ってる方も同じような思い?
後藤:非常に責任がある。ものすごく責任がある。技術屋としては知っている事をハッキリものを言わなくっちゃいけないという思いがある。
小出:ベントの問題ですが、アメリカ側はベントをつけることで決着させた。日本も同じくマークIにつけたんですね。
<格納容器とベント>
後藤:マークIに限らず格納容器は基本的にはベントせざるを得ない、圧力が上がってしまうから・・・
実は、担当していてビックリした。格納容器は放射能を外に出さない為に設計した。それが、圧力が上がったからベントするということは放射能を外に出すということで、設計者としては自己矛盾。何のためにやってきたんだという。
 しかし、そういう事故シークェンスもあるということで(ベントを)付けるということは放射能を出します、だから当然フィルターをつけると思うんですね。実際どういうフィルターがあるのか検討した。メーカーの中ではそういう議論をしていた。しかし、実際にはフィルターはつけなかった。それが非常に残念です。つけるとするとフィルターが大型になり、目立つということもある。外から目立つ、金額がかかるということで電力会社はそれをつけないという方針をとった。
 しかも、安全委員会では、そういう事故は起こり得ないといっているのですから、義務化していない。だから、つけなくていい。電力会社は自主的にベントはつけたがフィルターは付けないという選択をした。その関係については、私もまさかこういうことになるとは思わなかったので、非常に心が痛い。もし、つけていたら若干緩和されますので。
小出:ベントを開くのに手間取ったのは?
後藤:2つ目がナカナカ開くのが大変だった。結果としてコンプレッサーか何かを持って行って開いた。普通のシステムなら多重化してバックアップを作る訳ですが・・・<信頼性の低い安全対策と設備> 起きないと思っているから信頼性の高いものになっていない。他のプラントの中にある設備とレベルが違う。だからベントが開かなくて爆発する可能性が高かった。そういう設計になっている。
小出:事故は進行中で、まだ大きくなる可能性もあるなかで環境汚染をどうするのか。放射能物質と環境汚染、除染をどうするのか?>
後藤:隔離して、これ以上出さないようにすることにつきる。除染は移るだけで、残りますから。(対談中断)



原子力発電の今後について聞いてみる:
1980年代、重大事故を想定したオークリッジ国立研究所原子炉研究部のシェル・グリーンさん:「推進すべき。マークIの原発の隣りにもすめますよ。建設費は高額だが燃料費は安いので電力生産コストはとても安い。10〜20年で建設費を払えばその後の原発の電気はとても安価。40〜60年或いはもっと長居合いだ安全操業できれば次世代に安価に電力を引き継げます。」
1970年代に、重大事故が起きた時のマークIの安全性に問題提起したデール・ブライデンボウさん:「何が起きるのかを正確に予想できれば原子力をコントロールする事も可能です。しかし原発は1つが故障すると全てがダメになってしまう。だから予想することが出来ない。原子力をやめて安全な代替エネルギーを使うようにしてほしい。」
元サンディア国立研究所で10年にわたって原子炉の安全性を研究してきた工学博士のケネス・バジョロさん:「米国とNRCはスりーマイル、チェリノブイリ、そして福島の事故のあとも『原発を廃止するな』という不文律に従っているのではないか。しかし、それは間違っている。効率の悪い原発を廃止して最新の原発に立て替えればよい方向にむかいます。原子力はより安全、よりコストをかけなければならない。我々はこれまでとは違った視点で原子力について考えなければならない。」



小出さんが技術者としての今後を後藤さんに訊ねます。後藤:「未来に向けて放射性物質を大量に残すことに向かってやる技術はよろしくない、選択すべきでない。ほかに選択肢がある。再生可能エネルギーとか、技術屋にとってチャレンジする絶好の機会、チャレンジする精神をみな持っていると思います。未来は決して暗くはない、明るいと思います。


ナレーション:日本には長く原発安全神話が語られてきました。その安全の本質が今問われています。
  

大体の内容を書いてみました。フォローしきれていない箇所もありますので、再放送があればそちらで。
お知らせ◎この番組はNHKで9月4日(日)午前0時20分〜(土曜深夜)一部訂正、修正して再放送を予定。
     ◎東電からこの放送内容について:(http://www.tepco.co.jp/cc/kanren/11081601-j.html