「国会事故調」と政府事故調中間報告について

小出裕章氏の記事が載った「AERA」(12月26日号)に「国会事故調のキーマン」という記事があります。
昨日、中間報告を発表した政府の事故調査・検証委員会は、「管直人前政権の元で作ったもので、事故直後の政府の初期対応調査などを巡って徹底した究明が行われるか議員間で不信感が強い」と批判的。小出裕章氏も「メンバーにテクニカルな専門家がいないので、制度や連絡体制の不備のせいにしているし、個人の責任を問わないのでは、呆れる」と発言されています。
ところで、国会の福島原子力発電所事故調査委員会の委員長は黒川清・元日本学術会議会長、委員にはノーベル賞受賞者田中耕一氏や地震学者の石橋克彦氏らが顔をそろえた。「10人の委員リストの中には、原子力維持派にとっては目をむくような名前が含まれていた」とセンセーショナルな書き方で紹介されているのは田中三彦氏(68)。記事によりますと:

(リード)「原因は本当に想定外の津波なのか。それとも…。
     福島第一原発の事故原因を国会で究明する事故調査委員会がいよいよ動き始めた。
     キーマンはこの人だ。


田中三彦氏は)圧力容器の専門家としてメーカーで研鑽を積んでいたが、会社から離れて原子力発電所の安全性に疑問を抱き、警告を発し続けている。福島第一原発の事故では「津波が来る前に地震の揺れだけで配管が壊れ、大事故につながった可能性が強い」とする説を主張、東京電力の「津波原因説」と真っ向から対立している。


津波が原因であれば、定期検査中の原発は、浜岡原発のように防潮堤の建設などで運転再開が可能だが、地震の揺れが原因だったとすれば全国の原発すべての耐震基準、ストレステストの在り方を全面的に再検討しなければならない。
 このため、停止している原発の再稼働はきわめてむずかしくなる。東京電力などが田中氏の委員就任に目をむくのは、そのためだ。
 「全力で取り組みます。自らの理論の検証も含め、徹底的に調査します。」 決意の言葉を語る田中氏は、4,5人抱えることのできる調査スタッフとして、これまで一緒に調査してきた格納容器専門家、渡辺敦雄氏や後藤政志氏らに協力を求める考えを示唆している。これまでは東電などの公表資料を基に試算と推理を重ねてきたが、今後は強力な国政調査権を駆使して調査にあたる。事故原因を究明するうえで最強チームの誕生となる。



田中氏は東京工業大学生産機械工学科を卒業した1968年、バブコック日立に入社。福島第一原発4号機の原子炉詳細設計や日本原子力発電東海第二発電所原子炉の基本設計を担当した。「海外でもっと勉強したかった」という田中氏は77年に退社。科学書思想書などの翻訳をしていたが、86年のチェリノブイリ事故の後、事故の記録映画の未編集ビデオを見る機会があり、衝撃を受けた。遺体さえ出てこない原発技師。嘆く母親。家を追われる農家。涙と共に痛烈な疑問を持った。
「それまで私は現地をしらなかった。われわれが安全なものを造っているんだからいいだろう、というような安易な考えだった。そんな考えはまったく間違っていることを知った」
3・11後は田中氏の周囲が変わる番だった。事故原因を追究する講演の後、日立製作所石川島播磨重工業(現IHI)などの原子力関係OBから握手を求められた。
「3・11前はこういうことはまったくなかった。今は、がんばってくれとよく言われる」
 国会事故調査委員会が、脱原発側に立つ田中氏を起用した背景には、委員会を作った国会議員らの危機意識がある。<略>


 前首相サイドは国会に調査委員会をつくることに最後まで抵抗を見せた。委員選考で政府や東電との関係を完全に経つ人事を断行したのはそのためだ。
 調査機関はざっと半年間。来年のゴールデンウィーク明けには結論がでるだろう。

田中三彦氏は1943年生まれ。著書に「原発はなぜ危険か」(岩波新書)などがある。
政府事故調の詳細についてはブログ「☆句の無限遠点☆」さん(http://d.hatena.ne.jp/haigujin)が掲載されています。
昨夜のNHKスペシャル原発事故調緊急出演・謎は解明されたか?」政府事故調の畑村委員長と柳田さんを呼んで、「メルトダウン」で取材デスクを務めた根本さんが国民の疑問点を4点に絞って質問していました。1.メルトダウンはなぜ? 2.放射能汚染情報はなぜ出されなかったのか? 国の事故対応はなぜ混乱? 4.巨大津波の備えは何故なされなかったのか?
1.については原子炉の知識がなかった、運転技術に習熟していなかったという信じられないような基礎・本質部分で認識不足。
  (畑村)前提が違う、想定の範囲が違っていた。想定されて、準備があれば防ぐことはできた。
2.SPEEDIが活用されなかった。文科省原子力安全・保安院原子力安全委員会とも「無用の混乱を招く」「内部検討用」「仮定に基づくと総理に報告せず」。
  (柳田)無用な混乱とかパニックを恐れるというのは事前訓練でなくせる。どの当事者にも住民の健康と命を守る意識が全くなかった。
3.原発から5キロ地点にあるオフサイトセンターの機能不全で、遠く離れた官邸が対策本部になった。そこでも、地下の参集チームと5階の執務室に別れ、コミュニケーションが取れず、情報も充分把握できず(入手・伝達ルートなし)。オフサイトが機能発揮できなかったのは交通機関が寸断され、停電になり、放射能フィルターがなくて線量が上昇すると施設使用不可となった。(想定そのものが甘い?)畑村氏:形だけでは動かない。柳田氏:仏作って魂いれず。
4.東電は最初10mを超える津波は想定外としていたが、計算のやり直しで、今年に入って10.2mの津波を想定。しかし、防潮堤の修理に数百億円と4年かかる。地震時の副社長と吉田所長が「そういう津波は実際には来ない」と無視。保安院も見直しの報告を受けていたが具体的な指示をせず。
畑村委員長:人は見たくないものは見ない。考える範囲を決めると、範囲内は考えるが、外はかんがえない。内は防災、外は減災。減災の思想がなかった。これからは減災の思想でいかないといけない。事故調は100年先の評価と10万人以上の人の苦しみを頭に置いている。
柳田委員:組織事故なので、安全に対する文化・思想の在り方も問いたい。
NHKの根本氏から、「政治家はどうなんですか?」と質問があり、畑村氏から「事実の把握が先、そのうち、政治家のヒアリングもある」とのこと。なんとなく中途半端な印象なのは中間報告だからか、責任は問わないという姿勢からか?