なでしこジャパンと「人種差別反対」宣言

12月も下旬、1年のまとめに入る時期。私も手帳の最後に箇条書きにして1年の出来事をまとめたりします。
今年は何と言っても、3・11の東日本大震災とその後の福島第一原発の事故、この天災と人災の二つです。でも、夏のなでしこジャパンのワールドカップ優勝も忘れられない大きな出来事でした。
そのFIFAワールドカップのベスト8以降の試合が始まる前に行うことになっているスピーチについてのお話です。日本では、スウエーデンとの試合前にキャプテンの澤穂希(ほまれ)選手が「差別にノーを”say no to racism"」という宣言文を読み上げたというのです。
ちょうど一月ほど前、チャイムが鳴って「入れておきますので読んでみてください」と「倫風」という小冊子がポストに入っていました。発行元は「実践倫理宏正会」。数か月に一度こういうことがあります。私は直接外に出てお話したことはありませんが、いつも「ありがとうございます。読んでみます」と返事します。実際、読んでみますと、なかなか良いお話や、会員の方の体験談・実践倫理のおかげで救われたという苦労話が載っています。その「倫風」10月号に「なでしこジャパン そしてワールドカップのもう一つの顔」と題した記事が載っていました。
私も女子サッカーは今年初めてテレビ観戦をして、俄か女子サッカーファンになってしまいました。でも、この宣言文を読み上げたということは知らなかったので興味を惹かれました。澤キャプテンが読み上げた宣言文です:

 日本代表チームは、人種、性別、種族的出身、宗教、性的指向、もしくはその他のいかなる理由による差別も認めないことを宣言します。
 私たちはサッカーの力を使ってスポーツからそして社会の他の人々から人種差別や女性への差別を撲滅することができます。
 この目標に向かって突き進むことを誓い、そしてみなさまも私たちと共に差別と闘ってくださるようお願いいたします。


どうしてこの宣言が読まれるようになったか、それは、前回の男子ワールドカップでフランスの主将だったジダン選手のあの決勝戦終了間際の頭突きから始まっています。あのシーンはよく覚えています。ジダンといえば世界的な超スーパースター。温厚で紳士、哲学者のような深い眼差し。それが、決勝戦の試合終了10分前になってなぜ名誉を棒に振るような暴行を行ったのか?

 試合後のテレビ放送でジダンは、「母親や姉を傷つける言葉をくり返され、耐えられなかった」と釈明し、「言葉はしばしば(暴力)行為よりきつい。それは、私を最も深く傷つける言葉だった」とも述べた。どんな言葉だったのか。「とても口には出せない」と言葉を伏せた。
 あるイギリスの新聞がマセラッティ選手の言葉は「テロリスト売春婦の息子」だったと報じたが、その発言の真偽を問われると「まあそうだ」と答えた。ジダン選手はアルジェリア系移民の二世なのだ。

これによってサッカーの世界に複雑な人種差別問題があることを認めたFIFA世界サッカー連盟は事態を重くみて、今回の女子世界選手権で、センターサークルに「SAY NO TO RACISM(人種差別にノーを)」のメッセージを掲げた。澤選手たちが読み上げたのは、こうしたFIFAの要請を受けてのことだった、というこの記事を書いた方は汐見稔幸(としゆき)さんという昭和22年生まれで白梅学園大学学長が現職の教育学の専門家です。
最後の見出し「スポーツの信条はフェアであること」から引用です。

 人種差別問題は、これからより深刻になっていく可能性がある。特にヨーロッパで人種差別問題が深刻になっているのは、欧州の多くの国が移民を受け入れているからである。
 国土の大きさに比べて人口の少ない国、人口が継続的に減少している国は、国家経営が税金で賄われる限り、経済的に困難を抱え続ける。そこで移民を認め、継続的で安定的な税収入を確保しようとしているのであるが、経済がうまく回らなくなると、安い賃金で働く移民に対して、もとからいた住民が仕事を奪われているという偏見をもちやすくなる。7月にノルウェーで起こった民族派の若者による銃乱射事件は、そうした偏見の生み出したものだった。フランスでイスラム教徒を中心にして起こった移民たちの暴動も記憶に新しい。
 
 サッカーなど、スポーツが政治的主張をするのはおかしいという考えもあろう。しかし、試合中に人種差別的発言を平気でして相手に屈辱感をあたえるというのは、スポーツのフェア精神にもとることになる。フェアであることがスポーツの信条であるのなら、その限り、フェアを忌避する人はスポーツをするに値しないということになろう。FIFAの決断はその限り、納得がいく。人種差別発言をする選手はスポーツを破壊する可能性があるからである。

 なでしこジャパンも、FIFAの反差別の要請を受け容れた。彼女たちも、ジダンの事件の背後の人種差別のこと、とくにアジア人差別のこと、女子差別のことなどを実感していたのだろう。私たちは、彼女たちの勇気ある発言、行為からも学ばねばならないのではないか。

ワールドカップ優勝後も人気者の選手たちがメディアの取材に精力的に応じながら、すこしでも女子サッカーの観客が増えるようにとアピールしていました。また、選手たちの中には男子プロ選手と比較して、はるかに劣悪で過酷な境遇で好きなサッカーのためにと懸命の努力している選手が少なくないことも知りました。
それにしても、澤選手が「人種差別、ノー」の宣言文を読んだことやFIFAが人種差別反対の取り組みをしていることは初耳です。とっても良いお話ですし意義あることと思います。
昨日は20日の第2次締切日に向けて、集まった「さようなら原発1000万人署名」の発送の準備をしました。
お陰様で101筆が集まりました。夫の山の仲間の方たちや、Nさん、Nさんのお友達のAさんが集めてくださった分も入っています。一人ひとり、喜んで書いてくださった方や、迷いながらやっぱり決めた!という一筆まで、脱原発への思いが101人分です。今日、郵便局へ持って行きます。