「愚かで痛ましいわが祖国へー原発依存から脱却へ」

「文藝春秋」12月号から精神科医・久邇(くに)晃子氏の記事「愚かで痛ましいわが祖国へーどうか原子力政策を転換してくださいー旧皇族出身の女性が3・11に思うこと」を読みました。
同じ女性の立場ということもあるのかもしれませんが、とても共感して読みました。経歴は「東京都出身。旧皇族の家に生まれる。父の転勤に伴い、幼少時より南米、北欧、オーストラリア、イギリスなどで暮らし、現地校に通う。学習院大学大学院、オックスフォード大学で哲学を学ぶ。東京大学医学部医学科卒。精神科医」とあります。

「私達は、一体、なにを間違えたのでしょうか?」から、9頁にわたる長い記事ですが、「なぜ原子力に頼るのか」という最初の見出しの文章の中から:

 知的財産権の保護を目的に設立された国連の専門機関WIPOが発行した報告書によると、代替エネルギー関連の特許は、なんと日本が世界の55%を占めたとのことです対象とされた特許の分野は、太陽光発電風力発電、バイオエネルギー、地熱発電、CCS(二酸化炭素の回収、貯留)等です。
次点が米国の20%、更に欧州9%、韓国6%、中国3%と続きます。日本の突出には目を見張るものがあります。
一方で、世界のエネルギー関連投資を国別に分析すると日本は世界の5%に過ぎず、55%も占める特許を活かせているとは言い難い状況、とのことです。

 日本の技術開発力の素晴らしさと、それを社会化していく能力の貧困とのギャップは、何を意味するのでしょうか。
 明白なことは、自然エネルギーは実現性がないから、などとそれ自体根拠の薄いことを主張して、原子力発電の割合を含めて現状維持しか方法は無いのだ、と冷笑的な態度を取っている人が大勢を占めている間に、日本は世界に後れを取り、競争力が低下し、これから急速に成長していく可能性の高い有望な分野での(しかも日本が得意な分野での)またとないチャンスを逃していっている、ということです。

ここまで読んだだけで、旧皇族などという肩書からのイメージが払しょくされてしまいました。
「語られなかった不都合な真実」の中から、外国の日本の見方について適当に端折りながら:

産学複合体の原子力推進派は、おとなしくて言いなりになる日本国民、または、目先の利益と自らの生活の快適さを手放すことのできない日本国民に対しては、問題の本質から目をそらさせて議論を封じ込めることが出来るかもしれない。
しかし、外国人はそうはいきません。罪の文化を持つ彼等は、自覚的に選択した事柄により発生する結果についてのaccountability(説明責任)の追及の手を緩めることはありません。海や大気など、国境を越えて影響を及ぼす地点に汚染が広がったとたん、日本人に対する同情は一転して反感に変わる。事故から生じる有害事象を有効にコントロールして防止することが出来ないにもかかわらず、危険を承知で危険行為を継続した無責任な加害者として見られるようになる。


<略>


 無責任と不作為、逃避の心と目先の利益のためにふたたび大失敗をして放射能汚染を「輸出」するようなことがあった場合、この後者の(「国際関係における心理的なファクターの中で、相手の悪いところやきたないところを見つけて喜び合いたい、相手の不幸を喜ぶ心、ネガティブな相互作用」)力を呼び覚ますことになります。このようなことになった場合、日本は、さらなる災害と放射能汚染によって経済的にも精神的にもボロボロになるだけではなく、国際的信用は地に落ち、もちろん今度はどこにも助けてくれるところも無く、「嫌悪される」国となって、文字通り滅びてしまうと思います。

全文引用になってしまいそうですので、急いで最終見出しの「原発依存から脱却を」に進んで。
原発に関する不都合な真実から目をそらせて、その結果ずるずると大事故につながった状況(前段の最後)を受けて、この項の出だしは、「これは、『いつか来た道』ではないでしょうか」で始まります。

 これは、「いつか来た道」ではないでしょうか。他に取る道が無いからと突き進み、合理的に考えれば負けることが分かっている戦争に突入する。そのことを意識から締め出すことを「無意識に」選ぶ。結局、事態が極限まで悪化し、自分を破壊させる状況に至るまで、自分で自分を変えることが出来ない……。
 まったく同じ構造だと思います。


 日本は、呪われているのでしょうか?
 圧倒的な軍事力と経済力で迫ってきた西欧帝国主義列強の前で、人種差別と植民地化の恐怖におびえながら必死に富国強兵した私達の先祖。存亡の危機を乗り越え、自己嫌悪とその反動の自己礼賛的ナショナリズムの間の極端な振幅を行き来しながら、(一時、一種のコロニアルメンタリティーと白人に対する劣等感を内在化させて逆に東洋の国々を侵略するという暴挙に出た挙句)、やっと平和で安定した国(米国の軍事力に守られているからではありますが)になったかと思ったら、こうやってまた(良かれと思って始めたことだったかもしれませんが)、下手をすると自らを破滅させることになるかもしれないような綱渡りに乗り出し、硬直化してやめることが出来ない……。これは、集団自殺願望か? と疑いたくなる。
 愚かで、痛ましい我が祖国。
 美しい日本の野山を見ると、じっと耐えている東北の人々の姿を見ると、涙が止まりません。


 どうか、原発依存から徐々に脱却し、最終的には脱原発を実現する、という大きな目標に向かって方向転換する舵を切ってください。
 原子力そのものに、そして原子力発電に関わってきた多くの人々には、その労苦と、今まで私達にもたらしてくれた恩恵に心から感謝したいと思います。その上で、危険度が高いもの、止めやすいものからスピード感をもって順に止めて廃炉にしていく(福島第一原発では、5,6号機、また第二原発廃炉を東電において明言しておられないことには、強い違和感を覚えています……。どうか、借金を返すために新たな借金をする、ということにならないように、どうか、新しい希望のある方向に大きなシフトをしようとするときに、その足かせとならないように、と祈ります)。


 何ゆえ今回の震災で、これほど世界中の国々が日本をサポートしてくれたのか?

<略>

 日本が、戦争に負けて以来、自尊心の非存在に苦しみながら、なんとか世界の中の名誉ある地位を回復したいと努力してきた、そのために黙々と働き続けてきたこと、そのことを世界の人々、特に非西欧の人々(特に、日本が侵略して傷つけてきた国々以外の非西欧の人々)が、静かに、じっと見続けてきてくれたからだ。彼等はみな、苦労しているし、心の痛みを知っているからだ。たとえば、ヨーロッパの中でも、東欧の人たちや、ラテンアメリカの人たち。中近東のひとたちも。
 今、日本人が窮乏に耐え、必死に歯を食いしばって、自然エネルギーを基盤とした社会を築いていく道に一歩踏み出したら、そしてもしそれに少しずつ成功したら(必ず成功します、特許のことを、日本人の技術者魂と自由な心を見たら。「はやぶさ」が帰還した国ですから) これらの人たちは、心の底から喜んでくれる。そして、日本の経験知見は、日本にとっての最高の戦力となり、世界にとっての貴重な財産となる。このモデルが、他の国々、特に発展途上国にとって参考となり助けとなりうる。ひいてはこれが、新興国の経済発展による環境破壊、温暖化ガスの放出を減らせる(新興国が、環境破壊をできるだけせずに経済発展できる)。ひいてはこれが、先進国を含めた世界全体にとっての幸せとなるのですから……。 


「久邇家」とは
 久邇家は、昭和天皇の后であった香淳皇后の祖父・朝彦親王伏見宮家から分かれて作った系統である。終戦後の昭和22年10月14日、連合国軍総司令部GHQ)の意向により、皇籍離脱をおこなった11の宮家のひとつ。香淳皇后の長兄にあたる久邇宮朝融(あさあきら)王の長男である筆者の父は、4代目当主である。

幼少時の海外生活から来るものなのか、この方の時間と空間を少し離れて見る視線に、共感を覚えると共に納得がゆきます。
原発の事故に至る道程をたどると戦争への道に確かによく似ています。戦争から何を学んだのか・・・と問われるところですが、日本人の集団になったときの思考、組織と個人の問題はそう簡単には変わらないということですね。3・11以前はそうだとしても、以後にいる今は、変えて、変わっていかなければならないと強く思います。
三枚の写真は咲きだしたウインタークレマチスの花です。