◎今日の3・11を前に土日は13年前の東日本大震災と今年の能登半島の地震と津波の災害を取り上げた番組がありました。「災害は忘れたころにやってくる」とは私が子どもの頃に聞かされた言葉ですが、忘れる間もなくやってくるのが最近の頻繁な大地震や津波です。
🔲3・11を目前にした3月9日、「これでも原発推進を続けるのか」と題するアピールが「世界平和アピール七人委員会」によって発表されました:
これでも原発推進を続けるのか
2024年3月9日福島第一原発事故から13年、節電による電力需要の減少と再生可能エネルギー、特に太陽光発電の大幅な普及により、原発再稼働が進まない現状でも、日本は冷暖房を使わない季節を中心に電気が余るようになった。朝日新聞(2024年2月10日)の集計では、23年度に出力制御(発電量と使用量のバランス調整のために発電を一時的に止めること)により捨てられた電力量は19・2億キロワット時と急増し、これは約45万世帯分の年間消費電力量に相当する。
出力制御は、日本では最初に火力発電を止め、次に太陽光・風力発電を止め、原子力と水力・地熱には手をつけない。そのため電力自由化で全国に誕生した新電力事業者は、出力制御の急増により、せっかく発電した電気が売れなくなっている。また電力会社による再生可能エネルギーの23年度の買取り価格は、化石燃料価格の上昇が影響して22年度の価格の4割に急減している。これらによって経営が圧迫され、事業の存続が危ぶまれる業者が出てきている。これは脱炭素の世界の潮流に逆行する事態である。なお、フランスでは原発も出力制御の対象となっているのだから、日本でも原発の出力調整を行い、再生可能エネルギー育成を強化すべきである。
このように電気が余る時代に、安価になった再エネの普及拡大を犠牲にしてまで高価な原発を優先する合理的な理由はどこにもないが、それ以上に日本の原発はとても推進を掲げられる状況にない。たとえば、未だに廃炉の見通しもたたない福島第一原発では、今年2月にも汚染水浄化装置から高濃度の放射性物質を含む水漏れが発生し、この期に及んで作業手順や安全対策を定めた「実施計画」違反が指摘されている。
また、日本原燃の六ケ所再処理工場は今年1月、27回目となる完成延期を発表し、計画継続の合理性はなく、原発を稼働させても使用済み燃料の行き場がない状況がいつまで続くのか、もはや誰にも分からなくなっている。核燃料サイクルはとうの昔に破綻しているのである。さらに核廃棄物の最終処分場に至っては、名乗りを上げている候補地はあるものの、現時点で知事が受け入れ反対を表明している以上、概要調査にもこぎつけられないだろう。
そしてこの国で、原発の稼働をもっとも非合理なものにしているのが東日本大震災をはじめ各地で続く地震である。今年元旦、震度7を記録した能登半島地震では、土地の烈しい崩落や隆起により、半島のいたるところで道路が寸断され、自衛隊も他府県の消防隊もすぐには救援に入れなかった(中日新聞2024年3月5日)。発生から8日目で、なおも24地区3千人超が孤立状態だったとされる。被害が大きかった珠洲市に原発を設置する計画はかろうじて地元住民の反対で実現しなかったが、僥倖だったと言わざるをえない。
今回の地震のとき停止中だった北陸電力志賀原発で、外部電源5系統のうち2系統が失われるに留まったのも偶然にすぎない。もし放射能漏れ事故が起きていたら、唯一の避難路である県道も通行できず、30キロ圏内に住む15万人の住民の多くが逃げられなかっただろう。また多くの家屋が倒壊していたために屋内退避も出来なかった人たちがいたのだから、放射性物質が拡散するなかで住民はまったく為すすべがなかったことになる。
これは、原子力災害時の住民保護の大前提があっけなく崩れたことを意味する。能登半島と同様に地震で孤立する恐れのある地域は、内閣府(防災担当)の調査(2014年1月22日発表)では中山間地を中心に全国で2万カ所に上る。もしもの場合に避難も退避もできない究極の悪夢を幻視させた能登半島の経験を、地震国に住むわれわれ全員が共有しなければならない。
それでも原発依存・推進を続けるというのであれば、再生可能エネルギーの開発・利用について諸外国との差はますます拡大し、解消できなくなるだろう。原発の再稼働、新増設や40年までだったはずのものを60年超まで運転するなどという政策は直ちに撤回すべきである。
◎ところが、昨年12月『原発3倍』という目標を掲げる宣言に日本は賛同しています。
手元に朝日新聞の3月7日付「エコ&サイエンス」頁の切り抜きがあります。
左上の写真をコピーします。↓これは、昨年12月ドバイで開催された国連気候変動枠組み条約の締約国会議(COP28)です。
大書されているのは「2050年までに原子力エネルギーを3倍に」
この時、世界の原発の設備容量を2050年までに3倍に増やすという宣言が、米国主導で発表された。COP28で採択された成果文書には、原子力が化石燃料の代替手段の一つとして明記された。「原子力ルネサンス」が再びやってくるのか。長崎大の鈴木達治郎教授に聞いた。
◎記事の一部を書き移してみます:
―――原発3倍の目標に、日本など20カ国以上が賛同しました。
原子力が気候変動、CO2(二酸化炭素)の削減にある程度貢献しようと思えば、現行のシェアを最低限維持しなければいけないという前提なのだろう。
いま世界の発電電力量の約9%が原発で、電力需要が今後3倍ぐらいに増えると、そのシェアを維持するには50年に原発も3倍にする必要がある。世界の原発の発電能力は現在、3700キロワット程度で、ネットゼロ(CO2排出実質ゼロ)にするには900キロワットは必要という試算が国際エネルギー機関(IEA)などから出ていて、10年ぐらい前から変わっていない。だから、3倍と言う数字に私は驚かない。
―――原発推進の雰囲気はでてきていますか。
原発推進でも反対でもない、NTI(Nuclear Threat Initiative)という核セキュリティーを推進するシンクタンクがある。昨年12月、原子力は伸びる前提なら、どういうことをしなければいけないかという内容の報告書を出した。00年代前半にあった原子力ルネサンスと同じような状況がいま生まれていて、気候変動対策を真剣に考えるなら、原子力の選択肢は捨てられないだろうという現状認識が書かれていた。
かなり高い目標 中露印や中東の動きがカギ
―――実現には年20~30キロワット (100万キロワットの原発が20~30基)増やす計算になります。
要約:1970年代から1980年代前半にかけて急成長した時と同じくらいのペースで不可能とは言えない。当時は、米国と欧州と日本が貢献。それに代わるのが中国やロシア、インド、中東などだが、かなり難しい。
核不拡散の規範守られるか 米国の変容にも懸念
―――多くの国が原発を持つと、核不拡散の諫言から懸念はないでしょうか?
要約:核兵器を持つ中国、ロシア、インドが原発を自国で拡大することは極端に核拡散上問題なわけではない。が、ロシアと中国が原発の輸出市場で支配的になる可能性が高い。輸出市場で両国がどれだけ核不拡散の規範を守ってくれるかが心配。
―――心配は中国とロシアだけでしょうか?
国際核不拡散体制は、西側、とりわけ米国がリーダーシップをとって維持してきたが、その体制の軸を破ったのも、米国だ。
インドと原子力協定を結び、今までの規範を完全に破った。インドは核不拡散条約(NPT)に加盟せず、核実験した国だが、そんな国に核・原子力技術を平気で輸出しようとしている。しかも、濃縮も再処理もオーケーだと言ったから、とんでもない話だが、ほかの国もそれにならえとなった。これが一つ目の心配。
2番目がいま、サウジアラビアと米国が原子力協定を結ぼうとしているが、サウジは「イランが核武装したら我々も核武装する」と公言している。そんな国に濃縮・再処理も許可するような交渉をしている。これが実現したら、今までと全く違う話になる。
3番目が(米英豪の)AUKUS(オーカス)で、豪州が米国から原子力潜水艦を購入する問題だ。原子力潜水艦を取得した非核兵器国はなく、今までタブーだった。
―――なぜ米国は変容したのでしょうか?
何を優先したかというと、結局、自国の国益と安全保障。国や地域のいわゆる地政学的な対立、はっきり言うと中国だ。中国に対抗するためにインドと仲良くする。サウジとイランに対抗するため、地政学的なバランスを優先し、核不拡散の規範を緩めて来た。米国のリーダーシップに対して強い懸念が出てきている。
(聞き手・桜井林太郎)