海も川も湖も…「知られざる放射能汚染」

15日(日)夜9時から放送された、NHKスペシャル シリーズ原発危機 知られざる放射能汚染〜海からの緊急報告」です。
日曜日は、毎日放送の沖縄密約を扱った山崎豊子原作のドラマ化「運命の人」の初回でしたので、こちらは録画していました。昨日やっと見終わりましたが、水の汚染が余り取り上げられないので記録しておこうと思います。
昨年の福島第一原発事故当初、国の原子力安全・保安院の見解では「海水中に放出された放射性物質は潮流に流されて拡散していくので実際に魚とか海草などの海洋生物に取り込まれるまでには相当程度薄まると考えられる」というものでした
本当に拡散して薄まっているのか? 番組では各大学の研究者や漁師、地元の漁協などの協力を得て放射能汚染の実態調査に乗り出します。その記録と結果の発表です。水の汚染というとすぐ海を思い浮かべますが、番組では湖沼や河川の汚染も調べて広く「水の汚染」を取り上げています。

福島原発20キロ圏内の海に入る国との3か月の交渉の末やっと11月、調査のため福島原発から南30キロいわき市久ノ浜漁港から第一原発直下の海の初調査に船を出した。コンクリート壁が吹っ飛ぶという相次ぐ爆発による大量の放射性物質の大気からの降下と高濃度の汚染水とで総量10京ベクレル超という世界が経験したことのない汚染だった。
20キロ圏内の32カ所で海底土を採取。その結果、原発の前、沿岸1キロの地点で2000ベクレルを超える汚染が集中。20キロ圏全体にまだら状に汚染。拡散せず、海底に溜まっていた。

次に、魚の汚染を検査。原発南西の魚がよくとれるポイントあたりに網を入れる。殆どの魚から暫定基準(500)を超えるセシウムが検出。メバル2300、アイナメ1400、コモンカスベ1700。漁師が言う、「見た目は全く変わらない。言いたかないけど、今じゃゴミだっぺ。猫も食わねぇ」。

<魚はこうして汚染される> アイナメのような底魚(そこうお)と呼ばれる魚は海の底で獲物を待つ。泥の中にはゴカイがいる。そこで見当をつけてゴカイを採取。調べると、海底土1kgあたり304ベクレル、ゴカイは130、ナメタカレイ316。食物連鎖によって、ナメタカレイの場合は泥の値がそのまま移行していることがわかった。東京海洋大学石丸教授は「今まで泥と魚を一緒に測ったことがなかった。今回、海底の泥を計れば近傍の魚の汚染レベルを推測できることは重要な結果だった」と。海底の泥の汚染が続く限り魚の汚染はつづく。

去年の暮、久ノ浜の漁師に発表。漁師からの質問、「最も聞きたかったのはこれからの見通し、落ち着くまでどれくらい?」「少なくともチェリノブイリでは2〜3年。ここも同じくらいか、あるいは出た量が多いので、もっとかかるかも知れない。2年半は調査しないと何とも言えない。」 漁師の一人が、「あと1年8か月か・・・なげぇ〜な〜」とうな垂れる。

<海の汚染は広がっているのか?>福島県の南隣茨城県の平潟漁港。暫定基準の500ベクレルを超える魚は出ていないが、4月から基準値が厳しくなり100ベクレルに変更される。汚染は広がっているのか?
放射能測定の第一人者岡野眞治博士と共に調査に入る。注目したのは「沿岸流」。川の水が海に出るとき、自転の影響で時計回りに回転する、その結果、太平洋の沿岸部には南へ流れる沿岸流が出来る。泥と結びついた放射性物質は沿岸流によって運ばれていくのではないか? 原発の南200kmにわたって調査。
岡野さんが開発した測定器はリアルタイムで測定が可能。原発から30km地点から投入。海底土は300ベクレル/kg。80kmの地点あたりでは28〜多くても38、で10分の1程度。ところが、120kmにあたるひたちなか市の沖合では380ベクレル/kg。海のホットスポットの存在が明らかに。
原発から180kmの千葉県銚子沖では、12月の測定値は、2か月前の38が、112ベクレルと3倍に。まさに汚染が進行中であることが分かる。
原発直下から銚子沖までの調査結果をどう見たらいいのか?>東京海洋大の神田教授は「同じ場所で1か月前と1か月後で全然違う結果が出ることはある。非常に局所的に集まる場所がある。そういう場所がいつも同じ場所であるとは限らないし、海流によって動くこともある。今後の推移を見ていく上では、海底の堆積物の推移が重要な判断材料になる」。
放射性物質は長距離を移動し、思わぬ場所で汚染を引き起こす。海の汚染地図は、陸と違って、常に書き直さなければならない。

「予想できなかった湖の汚染」
原発から200kmの群馬県中部、赤城大沼。湖の周辺の測定値0.17マイクロシーベルト/hは深刻なものではない(国の除染基準0.23)。ところが去年の8月、湖のワカサギから640ベクレル/kg(暫定基準値500/kg)の放射性セシウムが検出された。その後も基準値を超える値、ウグイ659(11月)、イワナ692(11月)、ワカサギ591(1月)、魚の汚染が続いている。

<なぜ魚の汚染がつづくのか?>これまで国の調査は行われていない。先月12月地元の研究者と共に調査。群馬県水産試験場の鈴木研究員がワカサギのエサのプランクトンを調べると296ベクレル/kg。プランクトンの寿命は数週間である。なぜ事故から9か月も経って生まれたプランクトンの値が高いのか? 原因を探るため湖底の泥を調べることに。検出されたセシウムは最大で950ベクレル/kg。原発20km圏内の海と同程度、しかもセシウムを含む層は深さ20cmもある。
ワカサギの汚染の原因は湖底に溜まった大量のセシウムだった。標高1340mにあるカルデラ湖、赤城大沼は山に囲まれた閉鎖的な地形に原因があると考えられる。事故直後、周囲の山々に降ったセシウムは、その多くが湖に流れ込んだ。しかし湖の水が流れ出る経路は一本の川しかない。水の動きがほとんどない湖にセシウムが閉じ込められてしまった。湖底に溜まったセシウムプランクトンから魚へと食物連鎖で移る。魚が死んで微生物に分解されると、再びセシウムは湖底に戻る、こうしてセシウムは湖の中で循環し汚染を引き起こし続ける。

<いつまで影響は続くのか?> 手がかりはウクライナに。1986年のチェリノブイリ原発事故から25年後の今も、事故による魚の汚染を調査し続けているウクライナを訪ねる。国立放射線監視センターは、淡水魚の汚染を継続的に検査している世界で唯一の場所。25年間の調査記録が保存され、今も毎週検査は続けられている。調査記録によるとセシウムの厄介な性質が分かってくる。5年間はセシウム濃度は下がるが、その後は高いレベルがそのまま続いている。影響は長引くのである。これこそが湖や沼に溜まる放射性物質の特徴である。国立水生物学研究所のドミトリー・グトコフ博士は言う、「セシウムは一度生態系に入り込むと実にややこしい。30年間という長い半減期を待つしかありません。私たちに出来ることはとにかく根気強く調査するしかない」。
ワカサギのシーズンが来ても赤城大沼に釣り人の姿はない。放射能汚染 調査の盲点となってきたこれまで手付かずの所がまだ各地に残されている。

東京湾、忍び寄る放射能
首都東京の足元でも放射性物質が思わぬ汚染を引き起こしている。8月、近畿大学の山崎教授の協力を得て、独自調査委開始。放射線測定が専門で、事故以来首都圏各地で測定を続けている山崎教授は言う、「福島第一の事故は世界で初めて大都市圏が放射能汚染を受けたという経験。首都圏、関東平野に降った放射性物質は最終的に東京湾に大部分が流れ込んでるはずです。」
東京湾放射性セシウムの汚染をどれくらいうけているのか?> 湾内26ヶ所の海底の土を採取して2か月の調査の結果、アクアラインから東京湾内ほとんどで検出されたが、それほど高い濃度ではない。しかし湾の奥、江戸川と荒川の河口付近は、872ベクレル/kgの高濃度。原発20km圏内と同じ程度の値です。河口に出現したホットスポット。上流は都市。市街地のコンクリートアスファルトに降ったセシウムは泥に付着し、少しづつ雨で流され川へ集められ、そして最終的に東京湾へ。

東京大学の鯉渕専任講師は、湾の汚染が更に悪化すると考えて、江戸川のセシウムを測定している。「もともと河口付近は潮の満ち引きで塩分があるが、江戸川は結構上流でも塩分があります。」この塩がセシウムに影響する。泥水と海水で「凝集」が起こる。海水の塩分がセシウムを含んだ泥の粒子を団子のように接着させ、しばらくすると沈殿する。
検査の結果、河口から8km地点で1623ベクレル、河口の872に対して2倍の濃度だ。東京湾に注ぐすべての河川にセシウムがたまり、大雨の度に少しづつ移動している。
<どのくらいの時間で移動するのか?> 京都大学防災研山敷研究室が気象や地形のデータでシミュレーションしたところ、降ったほぼ50%のセシウムが6か月の間に川に集められ、川底に沈んだセシウムはスピードを弱めゆっくりと海へと移動する。その速度は年に5キロメートルぐらい。計算では東京湾の汚染が最も深刻になるのは今から2年2か月後とされている。東京湾は入口が狭く閉鎖性が高いので汚染は10年以上にわたって続くと考えられている。河口のホットスポットは範囲が狭いため魚への影響は今のところ出ていない。時間差で現れる新たな汚染と向き合わなければならない。
新たな段階に入った放射能汚染について、山崎教授は言う、「環境の中に入った放射性物質が今動き始めた。これから先の動き・・・残念ながら目にも見えず、臭いもない、われわれの五感では感じることが出来ない怖さがある。きちんと調査して一つ一つ確認しながら一歩づつ進んで行くしかない。」
史上最悪レベルの事故が引き起こした大規模な水の放射能汚染。見えない放射能を捕まえることが出来るのか?私たちの暮らしがかかっています。