野田首相「原発ゼロ」を目指す?(「提言」全文)

今朝の日経一面トップの見出しです。
社説は予想通り「国益を損なう『原発ゼロ』には異議がある」として、社名通り日本経済界の今まで原子力ムラと呼ばれた一角を占める人たちの反応です。「化石燃料依存に戻るのはいけない」「日米協力に影を落としかねず、国際関係への思慮を欠く」「原発ゼロで技術人材や国際的信頼などが回復でいないまでに失われないか心配」最後に「国益を損なう選択と言わざるを得ない。」
しかし、社会面での見出しは原発ゼロに賛否両論」となっています。記事の後半を引用してみると:

<東京・永田町の首相官邸前では14日夕も「反原発」を訴える恒例の抗議行動が繰り広げられ、『再稼動反対』『原発いらない』と連呼した初参加した埼玉県東松山市介護福祉士女性(64)は「政府が『原発ゼロ』と明記したことは良かったが、政権が代わったら方針が変わるのでは」と不安をもらした。 
 小中学生の娘3人を連れた東京都新宿区のアルバイト、鈴木幸二さん(41)は「再び大地震が起きたとき、原発が動いていたらどうなるか。子ども達が結婚して、孫を産むころまでに安全な社会にしてほしい」と話す。 
 「福島第1原発の1〜3号機は線量が高すぎて近づくこともできない。やっぱり放射能は怖い。中長期の原発ゼロは賛成」と話すのは、同原発で働く男性作業員(56)。警戒区域福島県浪江町で生まれ育ち、放射線管理士として第1原発で20年以上働く。累積で約20ミリシーベルト近く被曝しているという。

◎「国益」を口にする人たちは「安全」や「核廃棄物」については見て見ぬふり?かダンマリです。
思い出せば、8月末、政府が世論に原発依存度を問うた結果は、政府が予想(リード?)した中間の「30年までに依存度を15%に」という選択肢ではなくて、原発ゼロシナリオの選択が圧倒的多数でした。古川元久国家戦略担当相は以後「脱原発」を口にし始めました。

エネルギー・環境戦略:「脱原発、過半の国民希望」 政策議論、専門家検証 政府、新戦略反映へ

毎日新聞 2012年08月29日 東京朝刊


 東京電力福島第1原発事故を受けた新たな「エネルギー・環境戦略」策定に関する国民の意見を検証する政府の専門家会議は28日、「少なくとも過半の国民は原発に依存しない社会の実現を望んでいる」との検証結果をまとめた。一方で検証は脱原発の時期や実現可能性について「意見が分かれている」と分析。政府が2030年の原発比率で三つの選択肢(「0%」「15%」「20〜25%」)を示したことについて「国民は(原発など)各電源の割合よりも、どういう経済社会を築くかに関心が高い」と、国の将来像を示すよう注文した

 政府はこの検証も踏まえ、9月上旬にも脱原発依存の目標を盛り込んだ新戦略を決めたい考え。古川元久国家戦略担当相は会議後、「政治の責任で戦略を定める」と語ったが、脱原発の実現可能性などを判断できる材料が十分提供されない中、国民が納得できる内容になるかは不透明だ。


 検証結果は、政府が募集したパブリックコメント(意見公募)で原発ゼロを支持する意見が9割近くに達した要因として「原子力に関する政策決定のあり方への不信、原発への不安が極めて大きい」と分析。


 2030年までに原発ゼロを実現することについては「調査にもよるが半数程度の国民が何らかの懸念を有している」との見方を示した。その上で原発の安全性確保や核燃料サイクルの問題など論点を提示。「政府が(安全性や経済への影響など国民の)懸念に真摯(しんし)に向き合い、現実的な解を示していくことが必要だ」とした。

そして、13日(木)、野田首相が、民主党の代表選の大阪での立会い演説会の中で、ついに政府として「原発ゼロ」を目指す方針をとることを発表。『13日午後4時すぎ、大阪市で、野田首相は「党からは、原発ゼロを目指してという提言をいただいた。わたしはその方向で、政府の考え方をまとめたいと思っています。ご批判もあります。強烈なご批判もあります。だけども、わたしは、これは国民の覚悟だと思っています」と述べた。 (FNN9月13日)』
私はブログ仲間の方たちのパブコメの内容を2,3知っていますので、野田首相のこの発言で、甘いと言われるかもしれませんが、国民の脱原発の思いが通じたのでは、と思いました。少なくとも提言をまとめた方たちは読んでいると思いました。

ところで、6日にまとめられたという民主党エネルギー環境調査会の提言「「原発ゼロ社会」を目ざして〜国民とともに、大胆かつ現実的な改革を進める〜」の全文が、「日本がアブナイ!」さんの(資料)倉庫に入っていました。読んでみると、30年代までにという年数には問題がありますが、目的とする脱原発社会の未来図はかなりイメージが出来てきます。脱原発に至る問題点もあげられていますので、あとはこれをどれだけのスピードで現実のものとしていくかという問題だと思います(抜け道、矛盾点はいっぱいですが)。
先日国会に提出され継続審議となっている「脱原発基本法案」では、遅くとも20〜25年となっていますので、これでたたき台が2つ出されたことになります。昨日今日と自民党の総裁選に出る5人は全員「原発ゼロ」は無責任と発言していますので、次の選挙で自民党過半数を占めれば、「原発ゼロ」はひっくり返される可能性があります。
野田政権下で一応「原発ゼロ」を目指すと言わざるを得なくなったのは、(それが選挙目当てであろうとも期限が10年近く伸ばされてはいても)明らかに毎週金曜日官邸前はじめ全国80数カ所で続けられている再稼働反対デモと脱原発を願う国民の意志表示によるものだと思います。(昨夕の官邸前デモの様子は「特別な一日」さんのブログで:http://d.hatena.ne.jp/SPYBOY/20120914/1347633463
それでは、提言の全文を引用してみます。
(参考ブログ「日本がアブナイ!」  引用先はコチラ:http://mew-run7.jugem.jp/?eid=30)<太字・色字by蛙>
(字が小さくて読みにくいときは、拡大して読んでみてください。欄外上三つのマークの右端をクリックすると2つ目に「拡大」がでます。そこへマウスを置くと左に拡大幅が表示されるので、そのままマウスを左に移動させて拡大幅を選ぶと拡大されます)

2012 年9 月6 日

原発ゼロ社会」を目ざして
〜国民とともに、大胆かつ現実的な改革を進める〜

エネルギー環境調査会


1.基本的な認識


 東京電力福島第1原発事故は極めて深刻であり、一時は政府内で東京、神奈川を含めた首都圏3000 万人の避難さえ想定されていた。仮にこれが現実化した場合、国民生活、経済への影響は甚大であり、我が国がより危機的な状況に陥る可能性さえあった。私たちはこのようなリスクがあることを認識して、今後の社会のあり方、経済の仕組みとその根底をなすエネルギー構造を構築しなければならない。

3.11 を契機に我が国のエネルギー政策は根本的な見直しを迫られている原発は、安定供給、環境保全、コストなどの観点から我が国のベースロード電源に位置付けられてきたが、その前提は失われた。経済成長を優先して大電力を安定的、効率的に供給することに主眼に置いてきたこれまでの大規模集中型の供給体制を改め、原発のリスクから国民を解放し、環境に優しい地域分散型の新しいエネルギー社会に転換しなければならない。しかし、地域分散型で電力を安定的に生産・消費するためには、全国民の参加が必要である。一人一人の国民が電気の消費者であるという立場だけでなく、その生産にも責任を共有する立場であるという意識改革が必要となる。具体の生活でも、単なる電力の消費者ではなく、生産しながら消費する立場になる。日々、自宅や地域で生産者となって電力の発電量、消費量に注意を払うというライフスタイルに転換する必要がある。このように国民一人一人の意識やライフスタイルの転換なしに実現できないという意味で、このエネルギー政策の転換は、通常の政策転換と大きく異なる。しかし、これを乗り越えた時には、極めて安定かつ安全なエネルギー社会を享受できることになる。さらに世界に先駆けてエネルギー問題への解決の道筋をつけることで、経済成長へつなげていくことができるものと確信する。


2.「原発ゼロ社会」を目ざして


東京電力福島第一原発の事故は避難を強いられている方々や被災地の方々はもとより、日本全国に大きな負の影響を与え、多くの国民に不安をもたらした。東日本の復興、福島の再生へ向けて全力を挙げる中で、避難を強いられている方々が一日でも早く、一人でも多く地域、自宅へ帰れる環境を整えることは当然であるが、さらにすべての国民が、原発の不安から解放され、同時に良質で低廉な電力を安定的に供給されることで、安心して生活できるようにすることが政治の責任であることを深く認識しなければならない

 この認識に基づき、民主党は「原発ゼロ社会」を目ざす。「原発ゼロ社会」とは、まずは稼働している原発をゼロにすることであり、最終的には使用済み核燃料の最終処分を行い、国内に国民が不安を感じる放射能の無い社会を実現することである。「原発ゼロ社会」への道のりには様々な困難があるが、多くの国民が感じている原発に対する不安をできるだけ早く払拭し、そして二度とこのような大事故を起こさないため、大胆かつ現実的な改革を進めなければならない。
 しかし、これまで我が国のベースロード電源として、需要の3 割を支えてきた原発を即時に止めることは現実的ではない。稼働する原発が2 基であった今夏は、国民や企業の協力によって乗り越えることができたが、一部の地域の電力需給はひっ迫している。現時点で、過度に化石燃料に依存すれば、電力料金の値上げ、国富の流出、CO2 の大量発生となる可能性が高い。これまで電力の安定供給に多大な協力を頂いてきた原発立地地域、そして最終的な「原発ゼロ社会」を目ざす中で核燃料サイクル施設の多くを受け入れてもらった青森県の理解と協力を得るためには一定の時間を要する。 当分の間、これまで民主党政権の下で整備してきた、極めて独立性の高い原子力規制委員会が定める非常に厳しい安全基準を達成した、世界最高水準の安全な原発のみを稼働することとする。



 このような現実をしっかりと見据えつつ、「原発ゼロ社会」を目ざすために、
  ○40 年運転制限制を厳格に適用する
  ○原子力規制委員会の安全確認を得たもののみ、再稼働とする
  ○原発の新設・増設は行わない
 ことを原則とする。


 以上の3つ原則を厳格に適用する中で、2030 年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する。


 その第一歩として、H25 年度概算要求組替え基準に盛り込んだグリーンに関する4 倍要求を十分に活用すること、そして政府が年末までにまとめる「グリーン政策大綱」を「再エネロードマップ」と位置づけ、期限を区切った節電・省エネの目標、再生可能エネルギーの導入量、技術開発・普及などの目標とそれを実現するための予算、規制改革などの具体的な手段を盛り込むことが必要である。
 飛躍的な再生可能エネルギーの導入を確実に実現していくためには具体的な計画とこれに対する不断の検証が必要となる。まずは「グリーン政策大綱」を対象とし、その後も具体的な計画、実施、検証というPDCA サイクルを万全の態勢で実施し、移行のスピードを上げることが重要である。なお、検証にあたっては、「原発ゼロ社会」が国民生活、経済活動へ与える影響、原発関連の技術・人材の確保状況、青森県をはじめとする関連自治体の理解も十分に勘案すべきである。


3.「原発ゼロ社会」を目ざし、乗り越えるべき課題

 (1)省エネルギーへの大胆な取り組み 
企業活動や家庭生活のコスト増や国富流出の回避の観点からも、温暖化対策の観点からも「原発ゼロ社会」への対応として最も望ましいのは省エネ・節電である。豊田市で行っているスマートコミュニティの実験では約2割もの大幅な省エネ効果が確認されており、またドイツでは省エネを進めながら経済成長を実現しているとの指摘もある。現在政府が提案している2010 年度比22%削減の省エネ強化シナリオでは中心市街地へのガソリン車乗り入れ制限などの規制等が想定されているが、何が効果的な手段か検証しつつ、今国会に提出した省エネ法改正案の早期成立、建築物の断熱基準強化、ピーク対策(蓄電池活用、新たに創設された分散型・グリーン売電市場やネガワット取引の積極的な活用を含む)、火力発電の効率化などにより、出来るだけ早期にその実現を図ることとする。我慢の省エネではなく、使用電力量の「見える化」の推進、節電・省エネエコポイントの活用などによって、国民が前向きに取り組める環境を整備する中で、国全体で大胆な省エネ・節電にチャレンジすべきである。


 (2)再生可能エネルギーの飛躍的導入 
太陽光、風力、中小水力、地熱、バイオマスなどの再生可能エネルギーは枯渇することのない国産エネルギーであり、その拡大は新しいエネルギー社会の構築に向けた柱である。「原発ゼロ社会」の実現に向けて、1 割程度の節電を前提としても、再生可能エネルギーの発電電力量を現在の1000 億kWh(大規模水力を除くと600 億kWh)から3500 億kWh(同3000 億kWh)に拡大する必要がある。これを実現するために、税制、補助金規制緩和、技術革新、意識啓発などが不可欠であり、国の資源を集中的に投入していく必要がある。特に家庭における太陽光、蓄電池、燃料電池を、今後「創エネ三種の神器」と位置付け、新たなエネルギー社会の構築に向けた重要な要素として、その普及に向けた国民の理解・協力と政府の万全の支援が不可欠である。系統インフラ強化、再エネ事業者に対する原則接続の明確化は飛躍的な再生可能エネルギー導入に不可欠であり、早急に進める必要がある。太陽光や風力などの設置場所確保、洋上風力における漁業権調整の解決、地熱におけるさらなる規制改革なども同様である。これらによって、2020 年代の早い時期に電力の2 割以上、さらに2030年代の早い時期に電力の4 割程度を担えるよう、最大限努力する。


 (3)化石エネルギー
原発ゼロ社会」を目ざす中で、当面は化石エネルギーの重要性がこれまで以上に高まることになり、その安定かつ安価な調達は大きな課題である。特にCO2排出量が相対的に少ないLNG については、現行の契約形態の見直し、効果的なスポット調達、シェールガス革命の効果の取り込み、国内ガスパイプラインなどについて、民間企業を支援する。また、安定かつ低廉な調達に向けた一層の外交努力を強めるとともに、海外の資源権益確保、メタンハイドレードなどの日本近海の資源開発を進めることで、化石エネルギーの調達先の多様化を図る。化石エネルギーのストックの容易さ、系統から独立して運搬・保管が可能という特性を踏まえ、高効率の石炭・石油・天然ガス火力プラントの新増設を積極的に検討する。その際、電力の安定供給や原発立地地域の雇用維持の観点から、地元の理解やCO2 排出に配慮しながら、現在の原発立地地域その他適地での石炭火力、石油火力の新増設、リプレースを、規制緩和・資金調達の円滑化を図ることで促進する一方で、化石エネルギーの最大の課題であるCO2 排出抑制に向けて、プラントにかかわる技術革新の投資促進、CCS(二酸化炭素回収貯蔵)の早期の技術実用化、高効率発電技術等の開発を積極的に進める。


 (4)電気料金 
原発依存度低下や燃料費の高騰などにより電気料金が引き上げられる可能性は否定できない。また、原発由来電力は安価とされているが、現在示されている単価はあくまでも、これまでの廃炉・除染、賠償、福島県民の健康管理等に加え、事故リスクの費用を前提としている。これらが更に積みあがれば、電気料金に反映されることになる。電気料金の負担増に対しては、早期のデフレ脱却、グリーンを中心とする「日本再生戦略」の実現を通じて経済を再生し所得を向上させること、同時に家庭における省エネ・節電を強力に支援することで電力使用量を低減することが基本である。またスマートグリッドの普及等により中長期的な料金水準の安定化を図るべきである。十分な競争が働くまでの間は、家庭部門の需要家保護の観点から、電気料金規制を的確に実施していく必要がある。


 (5)電力システムの改革
「一人一人の国民が電気の消費者であると同時に生産者でもある」という新たなエネルギー社会を構築するためには電力システム改革が不可避である。消費者の選択により無理なく省エネに取組めるよう電力料金を多様化する。電力の安定供給体制を支えてきた発送配電一貫体制について行った検証の結果を踏まえて、発電分野、小売分野の自由化を実現するとともに、送配電部門の独立性・中立性を高める。電力会社も競争に積極的に参加し、コストダウンや顧客サービスに全力を尽くす仕組みを構築する。



 (6)経済・雇用への影響 
安定的な大電力の供給に対する不安、電力料金の引き上げなどが我が国の企業活動、設備投資、ひいては雇用に与える影響は否定できない。とりわけ電炉、窯業などの電力多消費産業、そして何より日々の経営に苦しんでいる中小企業への支援は不可欠である。「原発ゼロ社会」を目ざす過程で生まれるチャンスを生かして、我が国産業の国際競争力を高め、安定した経済成長を実現することで対応することを基本とするが、先に掲げた特に痛みの強い産業、負担の大きい中小を中心とする企業に対しては政策的に強力な支援を行う必要がある。


 (7)原発技術・人材の確保
原発ゼロ社会」を実現するまでには一定程度の期間を要し、その間、安全に原発を運転することが重要である。また、廃炉まで考えれば、事故原発の廃止措置を完了するには数十年かかることが想定され、これを安全に成し遂げるためには高度な知識や豊富な経験を持った人材が不可欠である。国際的信頼の維持、国際社会における我が国の担うべき役割、さらには原発ゼロを目指す中で蓄積される技術、ノウハウを通じて国際社会に貢献すること等も視野に入れ、原発関連の研究の継続、技術の継承・向上、人材の確実な確保のため国は責任を持って取り組んでいく必要がある。
 また、その前提として事故原発の廃止措置に携わる技術者はもとより、他の原発の事務職も含めたすべての原発従事者は貴重な人材であり、引き続き、原発の安全な運転が担保できるよう、労働環境等に配慮する必要がある。


 (8)国際機関、米国との関係 
我が国は核不拡散条約(NPT)を批准し、厳格な保障措置制度の下で原子力の平和利用を認められてきた。原子力技術を蓄積し、諸外国や国際機関と協力し、世界の原子力平和利用に積極的に貢献してきた。米国との関係においても日米原子力協定などにより核燃料サイクル施設の建設に理解を得てきた。「日米関係基軸・国連中心」という我が国の外交の基本方針を踏まえ、これらについて、国際機関や関係各国に丁寧に説明する必要がある。
また我が国は成長戦略の一環として、原子力発電所の海外建設に積極的に取り組んできたが、国内で原発ゼロを目指しながら、海外に輸出することについては国内外に批判があり、将来のあり方については内外の声を十分に聴いて、再検討することが必要である。


 (9)核燃料サイクル、最終処分 
核燃料サイクル、使用済み核燃料の最終処分の問題は1966 年日本で初めて原発の商業運転が開始されて以来、50 年近くにわたって放置されてきた極めて難しい問題であるが、原発をゼロにするかどうかにかかわらず、最早先送りすることのできない問題である
 まずは核燃料サイクル事業に対する国の責任を明らかにし、本質的な必要性、技術成立性、社会的受容性等を一から見直すべきである。全量再処理方式を全面的に見直し、最終処分のあり方を明確にするため、専門機関として原子力バックエンド機構(仮称)を設立し、国が主体的に使用済み核燃料の管理を行うことを明確にすべきであり、最終処分着手までの対応として日本全体の使用済み核燃料を中間貯蔵する施設の設置を進めなければならない。同時に、直接処分の研究を国が率先して進め、また減容化・無害化、超長期保管の研究も進めなければならない。使用済み核燃料の取り扱いに関する国際協力体制も検討すべきである。 
最終処分の問題のみならず、原発ゼロによる経済、雇用、財政への影響を含めて国が責任を持って提示し、青森県の理解を高めていかなければならない再生可能エネルギー基地への転換や地元の理解を前提とする最新鋭火力の設置など、これまでの電源地域の特性を生かした形で青森県への影響を最小化する必要がある。 福井県についても同様の配慮が必要である。高速増殖炉の実用化は前提とせず、「もんじゅ」は、成果のとりまとめに向け、年限を区切った研究収束計画を策定し、実行することとし、これによる福井県への影響に対応することが重要である。



 (10)原発立地地域 
原発立地を受け入れ、安定的なエネルギー供給に協力をしていただいてきた原発立地地域、すでに立地が確定している地域にも十分な配慮が必要である。国が原発の拡大を計画してきたことから、立地地域には原発の将来にわたっての安定的な運転を前提に生活を組み立て、将来を設計してきた人も少なくない。政府はこの点を十分に考慮し、国策転換に基づく地域への影響は国が責任を持つことを明らかにしつつ、地域の経済、雇用が安定的に維持できるよう措置を講じなければならない。
 なお併せて、原発廃炉福島県等の除染、福島の方々の健康管理についても国の責任で行うことを明らかにすべきである。廃炉、最終処分に関する国の責任を明らかにする際には9電力会社の経営形態にも留意しなければならない。


 (11)地球温暖化 
我が国は2009 年9 月に国際社会に対して、主要国の参加による意欲的な目標の合意を前提として2020年までに温室効果ガスの25%削減を約束した。しかし、国内原発が2 基を除き停止し、その代替として火力発電に大きく依存している現状では、約束の実現に向けたハードルは高い。一方で、ポスト京都議定書に関する議論が続けられており、2020年における国際約束はまだ確定していないことから「主要国の参加による意欲的な目標の合意」の成否は未定とは言え、安易に約束を放棄することで日本が失うものは大きい。このような点を十分に勘案し、国際社会に対する温室効果ガス削減計画については、再検討する必要がある。


4.新しいエネルギー社会へ
 原発ゼロを目指す道のりは決して安易なものではない。化石エネルギーにはシェールガスなどの可能性はあるが、国富流出、温暖化という地球全体、世界全体に影響が及びかねない課題がある。現時点で、再生可能エネルギーの飛躍的な導入には、かつてないほどの財政、規制改革などの政策資源を集中的に投入する必要がある。また、その過程で関連地域への影響はもとより、マクロ経済、雇用への影響、電気料金の引き上げなどの国民生活への影響も懸念される。それゆえ、政治は、その意義、必要性、そして手段などを丁寧に説明したうえで、国民に対して理解と協力、そして時には「覚悟」を求めていかなければならない。 
 しかし、その先には「夢」の社会を展望できる。太陽光発電燃料電池・蓄電池の効率化・低廉化が進めば家庭の電気料金の負担が大幅に軽減できる。電力システムと自動車、バスなどの地域交通システムを一体的に効率化するスマート・コミュニティの実現は省エネを進めながら、生活の利便性を高める。国産で、枯渇することなく、環境に優しいエネルギー社会を創ることは我が国のエネルギー安全保障を高め、国富の流出を抑制するだけでなく、国際社会への貢献に繋がる。原発の無い社会を創ることができれば、私たちが感じている不安から次世代を解放することができる。「原発ゼロ社会」を目ざす中に、将来世代への責任を果たしながら、バブル崩壊以降20 年にわたって低迷してきた経済を再生できる可能性がある。
 3.11 を契機に、私たちはこれまでの経済活動、便利な国民生活を支えてきた原発に大きなリスクがあることを目の当たりにし、新しいエネルギー社会への転換の必要性を共有した。今この時が決断し、実行する時であると考える。将来を見据えつつ、現実的な改革を、国民一人一人の理解と協力を得ながら、着実に進めていかなければならない。              以上

◎推進派の猛反発にどこまで後退するか・・・。
すでに、本日、<枝野経産相青森市で知事や市町村の首長と会談。建設中の電源開発大間原発青森県大間)と中国電力島根原発3号機(松江市)の建設再開・稼動を容認。「原発の新設・増設は行わない」という原則を盛り込んだが、建設中の原発には触れられていなかった。 枝野氏は会談で、核燃料サイクル政策に変更がない考えも改めて説明。青森県むつ市に建設中の使用済み核燃料の中間貯蔵施設を完成させる方針も表明する一方、青森県を使用済み核燃料の最終処分地にしない考えも明言。さらに、「原発ゼロは今、困難な状況だと充分認識している。(ゼロに向けて)スタートラインに立つのが戦略の意義だ」と述べ、原発ゼロ政策が今後見直される可能性も認めた>(讀賣夕刊一面トップ記事より)