「世界史の中の現在」(慰安婦問題)

今年はツボミが見当たらず花は無いものと思っていた沙羅双樹(夏椿)の花を見つけました。ことし唯一の花です。
橋下大阪市長日本維新の会共同代表)の慰安婦問題を巡る発言はご本人が中止した囲み取材も3日ももったかどうかで再開。その後も民放テレビで何回も発言を続け、挙句に、沖縄での発言については、「風俗業を活用したらという進言」を撤回し米軍とアメリカ国民にはお詫びすると発言しました。この記事、昨日の讀賣夕刊では一面でしたが、日経は3面、「米軍で性暴力深刻/女性議員ら罰則強化の法案」という見出しの記事の下に「橋下氏、風俗発言を撤回/『言葉、不適切だった』」という見出しで掲載されていました。

ところで、「shuueiのメモ」さんが5月の21日に面白い記事を掲載されていました。安倍氏自身が1年前に維新の会の橋下氏を「同志」と呼び、一致する点を挙げています。昨年の選挙前の産経新聞の記事(2012/08/28)でブログのタイトルは<安倍元首相「橋下氏は戦いの同志」>というものです。

 自民党安倍晋三元首相は27日、産経新聞のインタビューに応じ、次期衆院選について「政界再編の第一歩と位置づけなければならない。混乱を避けては再編はできない」と述べた。その上で再編のカギを握る大阪市橋下徹市長率いる大阪維新の会に関し、「違いはあるが、違いを見つけるよりも骨格が同じかどうか、貫く精神が共有できるかどうかだ。橋下氏は戦いにおける同志だと認識している」と表明した。 
 次期衆院選とその後の政界再編に向け、橋下氏との連携、協力を深めていく考えを示したとみられる。橋下氏と共有できる具体的な政策の柱については、(1)教育改革(2)憲法改正(3)慰安婦問題をはじめとする歴史認識分野−などを挙げた。
 
 特に慰安婦問題に関し、橋下氏が「強制連行を直接示すような資料はない」とした平成19年の安倍内閣閣議決定を引用し、慰安婦募集の強制性を認めた河野談話について「証拠に基づかない内容で最悪」と批判したことを「大変勇気ある発言だった」と評価した。 
 再び自民党が政権の座に就いた場合は「(教科書で周辺諸国への配慮を約束した)宮沢喜一官房長官談話、河野談話、(アジア諸国に心からのおわびを表明した)村山富市首相談話、全ての談話の見直しをする必要がある。新たな政府見解を出すべきだろう」との考えを明らかにした。(産経新聞 2012/08/28 00:57)

◎さて、橋下氏を同志として大変評価していた安倍さんですが、アメリカからの安倍政権の歴史認識についての心配が伝えられて、菅官房長官が「河野談話村山談話を踏襲する」と何回か答えています。ただし、安倍総理自身の口からは未だはっきりとした意見の表明はありません。昨日25日(土曜)の日経朝刊には、またまたアメリカの前大統領補佐官のコメントで、歴史認識問題についての安倍政権に向けての「警告」を載せています(写真の記事)。安倍さんは1年前のこの考えを変えなければ政権は持たないでしょう。

歴史認識問題で必ず出てくる2つの談話の原文は「日本がアブナイ!」さんのコチラで:「93年の河野談話と95年の村山談話・原文http://mewrun7.exblog.jp/20517160/

◎橋下氏と安倍さんはじめ自民党の方たちの慰安婦問題での違いは、片付いた過去の問題とするのが自民党で、橋下氏は河野談話は間違いだけど、片付いていないという所が大きな違いだと思います。橋下さんの言い分を聞いていると、「日本だけが不当に責(攻)められる」ことに反発して、「言うべきことは言う」とムキになっておられるようですが、どうも、「国際的には、じゃ〜どうなの?」というところ、橋下さんは解って言っておられるのか? どうもケンカ?に負けたくないという性格が災いしてるような気もして、気になっていました。
この私の疑問について、詳しく書かれたブログを見つけました。「Various Topics」さんのブログ5月20日の<従軍慰安婦』の罪を認めることは世界の戦時性暴力根絶の一歩>(http://afternoon-tea-club.blog.ocn.ne.jp/blog/2013/05/post_d362.html)で紹介されている”歴史学者林博史氏のレポート”「世界史の中の現在」です。
まず、林博史さんの論旨の全体が分りますので9つの項目のタイトルを並べてみます。

「世界史の中の現在」           林 博史


1、ダーバン会議
2、自国の歴史への自己批判と反省が求められていたのは、
   けっして日本だけの問題ではなかった
3、「日本」が抱えている問題と、世界史的な認識の転換
4、日本の「慰安婦」問題をどうとらえなおすのか
5、韓国における「過去の克服」への努力
6、日本と韓国とアメリ
7、自らの社会のあり方を問い直そうとしている韓国
8、オーストラリアとスペイン
9、歴史認識と現状認識はメダルの裏表     <全文はコチラで:http://www.geocities.jp/hhhirofumi/paper106.htm

◎どの項目も大事なのですが、ここでは日本に関するところを引用してみます。

世界史の中の現在                 林 博史


3、「日本」が抱えている問題と、世界史的な認識の転換



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戦時性暴力を国家間の問題としてしか見てこなかった国際社会の認識を批判し女性の人権問題、人間の尊厳を 蹂躙 ( じゅうりん ) した問題であり、そこから被害者ひとりひとりの尊厳を回復する問題であるという、世界史的な認識の転換がなされたのである。国連の人権委員会(現在は人権理事会)での議論はそうしたものだった。国家間の賠償で問題を終らせようとする、被害者を無視した国家間の談合への痛烈な批判でもあった。


 2000年10月に採択された安保理決議1325号「女性・平和・安全保障」は、90年代の議論の一つの成果と言える内容を含んでいる。その一項目として、「すべての国家には、ジェノサイド、人道に対する罪、性的その他の女性・少女に対する暴力を含む戦争犯罪の責任者への不処罰を断ち切り、訴追する責任があることを強調する」とされた。2008年と2009年と二度にわたって、同趣旨の安保理決議が採択されている。戦時性暴力に対する不処罰の負の連鎖を断ち切ろうとする決議であり、2000年12月に東京で、アジア各国の市民団体が共同で開催した、「日本軍性奴隷制を裁く2000年女性国際戦犯法廷」も同じ意図が込められたものだった。


 米下院決議を推進したハイド元下院国際関係委員会(現在の外交委員会)議長は、「慰安婦」決議採択にあたって声明を出しているが、そのなかで、「女性や子供を戦場での搾取から守ることは、単に遠い昔の第二次大戦時の問題ではありません。それはダルフールで今まさに起こっているような悲劇的状況に関る問題です。『慰安婦』は、戦場で傷つく全ての女性を象徴するようになったのです」と語っている。


また決議の提案者であるマイク・ホンダ議員を支えたアメリカのNGO団体「アジア・ポリシー・ポイント」のミンディ・カトラー代表は、2007年2月におこなわれた下院公聴会において、「日本軍の慰安所は、ボスニアルワンダニカラグアシエラレオネダルフールビルマなど、今日の戦争や市民紛争の議論で頻繁に取り上げられる性奴隷制・戦時性暴力・人身売買など全ての問題の前身ともいうべきものでした」と証言した。


こうした認識は、1990年代以来積み重ねられてきた国連人権委員会での議論とつながるものであり、今日の戦時性暴力を解決するためにも日本軍「慰安婦」問題を国際社会として取り上げ、その解決をはかるべきだという姿勢である。




4、日本の「慰安婦」問題をどうとらえなおすのか




 決議が採択された時の下院外交委員会議長のラントス氏は、あるインタビューに答えて(徳留絹枝「米議会と日本の歴史問題」)「この決議は、日本の過去の政府の行為を罰しようというものではありません。そうではなく、日本の真の友人として、米議会は決議案121を通じて、これらの女性と日本の国が癒され未来に向かうために、日本が過去の困難な時期の出来事を全て公式に認めるよう、頼んでいるのです。そのような癒しの過程は、日本の人権擁護への取り組みを再確認するだけではなく、日本の隣国との関係を改善し、アジアと世界におけるリーダーとしての地位を強固にするでしょう」と語っている。


戦時性暴力は、戦争にはつきものだとして長年にわたって放置されてきた。組織的な性暴力制度である日本軍「慰安婦」制度も放置されてきた。そのことへの国際社会としての反省が背景にはある。日本がこの問題をきちんと解決できれば、日本はこの問題解決のリーダーとしての役割を果たせるだろうという期待が込められている。


さらにEU議会決議を見ると、その中には「“慰安婦”制度は輪姦、強制堕胎、屈辱及び性暴力を含み、障害、死や自殺を結果し、20世紀の人身売買の最も大きなケースのひとつであり」という表現が見られる。戦時にとどまらず、日常の性暴力・人身売買という視点が含まれている日本軍が女性を「慰安婦」として動員していく際の主要な方法の一つが人身売買だった。政府首脳を含めて日本では、直接の暴力で無理やり連れて行くことだけが問題であり、人身売買や詐欺で連れて行かれても問題ではないかのような暴論を平気で口にする。このような日本社会が、今日においても人身売買された女性の主要な送り込み先の一つになっているのは必然だろう。


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女性や子どもの国際的な人身売買は、19世紀後半にヨーロッパにおいて「白奴隷White Slave」として問題になり、そこから国家が売春制度を公認する公娼制を廃止しようとする運動が広がっていく日本軍「慰安婦」制度の重要な特徴の一つが、国家による国際的な人身売買であったことである。日本軍「慰安婦」制度が国際社会でくりかえし取り上げられているのは、近代以来の、あるいは20世紀における世界が抱える大きな問題の一つであり、その解決は国際社会が抱える大きな問題解決につながるという認識と、その解決に果たす日本への期待であると言えるしかしながら、日本政府も日本社会も、こうした世界史的な取り組みと認識が理解できず、国家間の賠償で決着済みの、過ぎ去った昔のことでしかないと考えること自体を拒否しているのだ。 




9、歴史認識と現状認識はメダルの裏表
 


歴史認識と現状認識はメダルの裏表である。今生きている社会と格闘するとき、なぜこうなっているのか、どのようにすれば変えられるのか、と真剣に考えようとするとき、歴史を振り返る必要がある。歴史学とは、過去を振り返ることを通じて未来を見ることである日本では過去にこだわらず、振り返らないことが「未来志向」だなどと言う人々がいるが、とんでもない暴論である。この間、日本では、人々の歴史意識の衰退が重要な問題として、指摘されてきている。自分たちにとって都合の悪いことに対しては、いつまでも過去にこだわるなと言って切り捨てようとしながら、都合のいいものには、「伝統」だとか「日本」などというものを持ち出して喜ぶ。このような態度は、あまりにもご都合主義だろう。


さらにいえば、歴史意識の衰退は、一方では自己に都合のよい 恣意的 ( しいてき ) な観念との一体化、(しばしばナショナリズムと結びつく)、によって安堵感を得るか、内向化して自分の心に閉じこもるか、時には他者への排他的な攻撃性となって現われることもある


今日の東アジアを見ると、人々の交流がこれほど進んでいる時期はない。それはグローバリゼーションという経済の話だけでなく、自らの過去を克服し、国家を越えた連帯と共同の輪を広げようとしている人々の交流という意味である。「戦争」という手段を使わずに問題を解決しようとする国際的な枠組みが、EU、ASEAN、南米や各地でこれほどまでに広がっている時代はこれまでなかった
自分の国は「いつも正しいのだ」「最も優れた国だ」「優れた民族だ」などという独善的なナショナリズムが時代遅れになりつつある。


さきに韓国の「強制動員被害真相究明委員会」のことを紹介したが、その委員会の初代事務局長の崔鳳泰さんと話したとき、彼は、「この委員会は韓国政府の機関だが、韓国や日本の良心的な人々に支えられて出来たものだ」「だから、みんなで利用してほしいし、日本のみなさんもぜひこの機関を利用してほしい」と言っていた。彼は長年民主化運動を闘ってきた人物だが、韓国民主化の過程のなかで国家機関の役職につき、その国家機関をアジアの人々が共有して活用していこうという姿勢を持っていた。


こうした動きに対する反発、攻撃も強いので楽観することはできないが、東アジアの人々が連帯し、共同して未来を作っていく条件が、あちこちで、出来つつある。


ようやく私たちは“東アジアの民衆の連帯”を展望することができる時代を迎えつつあるのだ。主権国家が最高の存在であった近代を、国家を超えた民衆の連帯によって乗り越える手掛かりを、私たちは、ようやく得つつあると言えるだろう
そのなかで、そうした開かれた認識を持てずに、世界史の流れの足を引っ張っている日本社会を変えることは、日本に生きている私たちの責任である。

◎全文はコチラで:http://www.geocities.jp/hhhirofumi/paper106.htm
このレポートを読むと、「慰安婦問題」が日韓両国だけの問題にはとどまらず、また、戦時性暴力にとどまらず日常の性暴力・人身売買の問題をも含めた国際的な人権問題として国連で近年特に注目されてきたことが分りますし、その解決も、世界的に注目されているということです。
また、省略した韓国に関する5,6,7項もとても興味深い内容でした。韓国における過去の清算問題には、親日(派)や親米(派)の克服という問題があったということ。<韓国での、「慰安婦問題」における日本批判は、同時に、韓国国家や社会への批判とつながっている。><韓国の真の民主化を実現するためには、戦後の軍事政権の清算にとどまらず、植民地支配の清算をしなければならないという問題意識>がある。

ともかく、すでに、こういう世界の人権問題の中で克服すべき努力目標となっている「慰安婦問題」ということを橋下氏(や安倍政権)がどこまで解って仰っているのか・・・明日27日の外国人特派員協会での記者会見が怖いような・・・

花の写真は上からアルストロメリアアナベルクレマチス(テッセン)、ドクダミ(十薬)、ミニバラ。