2016.9.27
南スーダンの自衛隊を憂慮する皆様へ〜誰が彼らを追い詰めたのか?
ゼロからわかるPKOの今
伊勢崎 賢治
(東京外国語大学教授・紛争屋)
[
・内戦に対して国際社会はどうするか
・ルワンダのトラウマ
・PKO部隊は「紛争の当事者」になることも
・南スーダンPKOの筆頭任務は「住民の保護」
・自衛隊派遣の根拠は?
・誰が自衛隊を追い込んだのか?・「9条を護る」とはどういうことか
この時に派遣の根拠としたのは、PKO派遣5原則という日本の国内法で、1992年にできたものです。その条件とは、紛争当事者の同意があり停戦が守られていること。そして、その停戦が破られたら撤退できる、というものです。
これが、現在でも、南スーダンの自衛隊派遣の根拠になっているのです。
PKO派遣5原則はなりたっていないのだから自衛隊は今すぐ撤退させろ!と皆さんは思うでしょう。
できません。遅すぎます。
今、全世界が、南スーダンの情勢を憂い、住民を見放すなと言っている時に、日本が引いたら、どうなるか? ルワンダの時とは、まったく違うのです。日本は、危機に瀕した無垢な住民を見放す非人道的な国家として烙印を押されます。外交的な地位が失墜します。
だから、現場の自衛隊は、撤退しないのです。というか、できないのです。
誰が自衛隊を追い込んだのか?
これは、非常に奇妙な状況です。だから日本政府だけなのです。世界が重大な人道危機と憂いている南スーダンの今の状況を、「安定している」と言い続ける国は。
「安定している」と言い続けなれば、南スーダンに自衛隊を置き続ける法的な根拠が土台から崩れてしまうからです。
でも、その土台を根本的に見直す、という話にはならない。
だって、その土台を運用してきたのは、歴代の自民党政権だけでなく、旧社民党の面々も内閣にいた旧民主党政権の面々も、みんな同じ穴のムジナなのですから。
つまり、諸悪の根元であるPKO派遣5原則の見直しは、「政局」にならないのです。だから、ズルズルとここまできてしまったのです。
現場の自衛隊はたまったものではありません。全く意味をなさない日本の国内法と、国際人道主義の板挟みになって、世界で最も危険な戦場の一つに置かれ続けるのです。
自衛隊をこの状況に追い込んだのは誰の責任でしょうか?
1999年の国連によるPKOの劇的な変化を見誤ったのは、誰の責任でしょうか?
そのPKOに劇的な変化をさせたのは、現場で起こっている人道危機です。南スーダン、いや、アフリカのあの一帯の危機的状況を見誤ったのは、誰の責任でしょうか?
自民党だけですか? そもそも、常に批判の目を政策に注ぐのが、野党の役目じゃないのですか?
僕は、安倍政権の安保法制に反対の立場をとってきました。これは、現場、特に南スーダンの自衛隊の立場を、今まで以上に悪くするものと考えています。
しかし、以上の説明のように、諸悪の根元は、この安保法制ではありません。それ以前からあるPKO派遣5原則なのです。
言うまでもなく、PKO派遣5原則の見直しには、与党、野党、双方がまず懺悔することが必要です。これを政局にしてはいけません。与野党の協力が必要なのです。
残念ながら、それには、時間がかかります。
じゃあ、今、我々が直面する南スーダンの危機をどう乗り切るか?
◆NEXT ▶︎ 憲法9条を大切に思うなら…
神様に祈るしかありません。
国連がPKOの増員を決定したばかりですから、いつか必ず、現場は、小康状態になるはずです。それまで、自衛隊が、武力で住民を守らなければならないような状況に遭遇しないことを祈る。それしかありません。
そして、なんとか持ちこたえて、その小康状態が訪れたら(その時には国際人道主義も少しは余裕があるはずで)今度こそ、チャンスを逃さず、自衛隊を一旦、完全に撤退させましょう。
ここまでのプロセスを、懺悔と共に、与野党が合意するのです。
そして、PKO派遣5原則を見直す国民的議論をしましょう。
「9条を護る」とはどういうことか
繰り返しますが、今PKOに加わることは、「紛争の当事者」になることを前提としなければなりません。それは、つまり、「敵」を見据え、それと「交戦」することです。9条が許しますか?
これは9条の問題なのです。
二つしかオプションはありません。
1) 変貌したPKOに自衛隊を参加させるのだったら、9条を変える。
2) 9条を変えないのなら、自衛隊は絶対にPKOに行くべきでない。
これを国民が決めるのです。
これこそを、与野党は、政局とするべきなのです。
その際に、特に憲法9条を大切に思っている皆様に考えていただきたいことがあります。
南スーダンのあるアフリカのこの一帯は、すべて、原油、レアメタル、ダイヤモンドなどの資源国です。
内戦状態のこういう国から、資源がなぜか我々一般消費者の元に届くのです。密輸されたものです。そして、この利権が内戦の原因なのです。欧米では、こういうものを「紛争資源」「紛争レアメタル」「紛争ダイヤモンド」と呼んで、業界そして消費者自身の自主規制の運動を始めています。
(9月12日、ワシントンで記者会見を開き、南スーダン内戦に加担する銀行を強く非難したジョージ・クルーニー〔PHOTO〕gettyimages )
内戦の原因となる地下資源をマーケットから排除する取り組みがなされているのです。アメリカでは、それをすでに法令化し、EUでも同じ動きがあります。
日本はどうか。全く、悲劇的に、遅れているばかりでなく、日本のメディアは報道すらしません。
メディアの責任か? 我々視聴者が、それに興味を示さないかぎり、営利企業であるメディアは報道しません。
日本は、「紛争資源」を無批判に消費する、数少ない先進国の一つになってしまいました。日本国憲法の前文でいう「名誉ある地位を占めよ」とは、こういうことなのですか?
我々は、今度こそ、本気で、「9条を護る」とは、どういうことか、考えなければなりません。