藤井道人監督「ヤクザと家族 The Family」

◎先週の1月29日(金曜日)に「花束みたいな恋をした」や「名もなき世界のエンドロール」と一緒に公開日を迎えた「ヤクザと家族 The Family」を今週月曜日、見に行きました。往復とも徒歩ですし、映画館のコロナ対策は信頼できますし、ロビーとトイレを注意すれば、映画上映時間の2時間15分、ウィークデイの昼間、100人収容で4分の1以下の観客はマスクをして一言も喋らないので安心です。

1年以上使っていないポイントが貯まっているので受付で聞いたら、ご親切に発券機のところまで行ってポイントカードで操作をやってくれて、「エキュゼキュティブ席が空いてますが、どうします?」と言われ「じゃ、お願いします」と答えました。初「特等席」体験でした。(シアター前のポスターをカメラで)

監督は、昨年の日本アカデミー賞6冠の「新聞記者」の藤井道人さん。脚本も担当、綾野剛舘ひろし尾野真千子の3人はあて書きだそうです。

ネットで紹介されている内容を:

「変わりゆく時代の中で生きる男たちを【家族・ファミリー】の視点で描くヒューマンストーリー」

これは、ヤクザという生き方を選んだ男の3つの時代にわたる物語。荒れた少年期に地元の親分から手を差し伸べられ、父子の契りを結んだ男・山本。ヤクザの世界でのし上がる彼は、やがて愛する自分の≪家族≫とも出会う。ところが、暴対法*の施行はヤクザのあり方を一変させ、因縁の敵との戦いの中、生き方を貫いていくことは一方でかけがえのないものを失うことになっていくー。主人公・山本役に今回初のヤクザ役となる綾野剛。山本に“家族“という居場所を与えた柴咲組組長・柴咲を、ヤクザ役は43年ぶりとなる舘ひろし。その他、豪華キャスト共演のほか、主題歌には綾野自らオファーしたという常田大希がmillennium paradeとして加わり、書き下ろし楽曲で本作を彩る。現代ヤクザの実像を描き、今の世に問題を突きつける、全く新しいスタイリッシュ・エンタテインメントがここに誕生!!

暴力団対策法:1992年、2012年に施行。暴力団の無力化に大きく役立ち、企業や地域社会への影響力を減じる契機となった。

◎まだ公開されたばかりの映画なのであまり内容に触れないで感想を。

「新聞記者」より映画としてはるかに素晴らしい映画。河村光庸プロデューサーに見込まれて”新聞読んでないですから”と断るも説得されて撮った映画と、今回は河村Pとヤクザで一致、台本を読んで泣いたよと河村Pが言ったそうですが、のっぺりの新聞記者より陰影濃い画面と生き生きとした人間の描き方、藤井監督の本領発揮。でもこれだけの役者さんが揃ったのは「新聞記者」の成功のお陰ですね。

映像、音楽、脚本と構成によるドラマ性、俳優たちの演技、どれもこれも素晴らしい。出だしタイトルが出るまでの20数分、カメラ、ブレブレ、横になったりひっくり返ったり、ワクワクします。途中から余りの激しい暴力シーンに今年観る最初の映画に選んだのはまずかったかなと思ったりしましたが、とんでもない。

社会と組織、個人と家族。引き継がれる思いと断ち切られる絆。走り抜ける青春と空白の14年。悔恨と罪と罰。無力な家族の思いと立ちはだかる法律と世間。

19歳からの20年、ヤクザになってヤクザを辞める年月、人を愛し、愛しぬく山本賢治綾野剛が演じ切ります。トップシーンとラストシーンが同じ、深い藍色に包まれて・・・

慟哭の終盤を耐えて、最後のシーンは新しい世代にかすかな希望が託されて・・・

ヤクザの親分で山本の父親代わりを舘ひろし、ヤクザと堅気の区別なく愛し、娘を育てる由香に尾野真千子(朝ドラの「カーネーション」で綾野剛さんと共演した場面が今でも鮮やか)。娘を演じた中学生の小宮山莉渚。柴咲組元若頭の妻でオモニ食堂の女将を寺島しのぶ。その息子で山本に憧れ、成長して新時代の半グレとなる翼を磯村勇斗(撮影された沼津出身、生き生きキラキラ/「きみの瞳・・・」の塁と重なるシーンも)、柴咲組若頭の北村有起哉、山本の舎弟で最後の重要人物になる市原隼人、県警刑事に岩松了、対立する侠葉会の会長に豊原功輔(恐い)、若頭に駿河太郎(恐くて巧い!)。どの俳優さんもみんな映画の中の自分の役と時間をリアルに生きていて凄かった!!

(最後に主題歌が流れますが、珍しく歌詞が縦書きで記されています。これが映画の締めくくりで山本の心情と重なります。)

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昨年「きみの瞳が問いかけている」を見たときにもらってきたチラシの写真が内容をよく表していますので写真で紹介です。

2018年公開の藤井道人監督の映画「青の帰り道」は、前年撮り上げていたのを出演者の一人の不祥事で翌年の17年に7割を撮り直して公開に至っています。群馬県前橋市と東京を舞台に7人の高校生の2008年から東日本大震災を挟んだ10年間を描く青春群像です。公開に先立ってドイツの日本映画祭で上映され、藤井監督と横浜流星さんがフランクフルトで舞台挨拶をしています。私は横浜流星さんを知ってから、この映画をDVDで見ましたが「ヤクザと家族」はこの系譜に連なる映画です。藤井監督の言葉で言うなら『社会派というより、一人一人の人間をきちんと描けば自ずと社会を描いていることになる』という意味で。

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昨年の11月25日の試写会でこの映画を観た横浜さんはその日のインスタグラムにこんな書き込みを:「映画『ヤクザと家族 The Family』観てきました。魂をえぐられ、感情が訳分からなくなりました。これから先も自分の心に残る大好きな作品になりました。#映画 #ヤクザと家族thefamily #1月29日公開 #最高でした」

見終わってから、この流星さんの感想を読むとなかなか的確な表現だと感心しました。2019年の状況と今のコロナ禍や、SNSで何事も拡散される世の中や、排除される者と排除する者など・・・本当に今日的であり、何が正しく何が悪で善なのか・・・心の中が一度掻き立てられてぐちゃぐちゃになって・・・そして残るものはなんなのか。おススメです。

余談になりますが、藤井監督と横浜流星さん、二人で「売れないな~」「売れないよ~」と言い合っていた頃から10歳違いの兄弟のような関係だとか。今もラインで毎日やり取りしていると藤井監督。お二人ともデビューして10年ほど、ブレイクしたのが2年前。人間をシッカリ描きたいという藤井監督と、いずれ人間臭い役をやりたいという横浜さん、この二人が作る映画、いつか実現するときが来るのを楽しみにしています。 

 

・快作『ヤクザと家族 The Family』がヤグザという「令和のマイノリティ」を通して描いたもの (blogos.com) 

【綾野剛】綾野剛「ヤクザと家族」は菅政権への強烈なアンチテーゼ|日刊ゲンダイDIGITAL (nikkan-gendai.com)

『ヤクザと家族 The Family』藤井道人監督 インタビュー | インタビュー | CINEMA Life! シネマライフ|映画情報 (cinema-life.net)