昨日雨の中、例年より早くクレマチスとバラが開花しました
★12日の月曜日、NHKBSプレミアムで「スパイの妻」の放送があることを直前に知り、既に録画の予約は一杯だったので、二人でリアルタイムで急遽見ることに。戦争が始まる直前の神戸で貿易商を営む夫(高橋一生)と裕福な自宅の邸宅で夫の帰りを待つ妻(蒼井優)。国家総動員法が発せられたという世相に反して洋装で洋風の暮らしを続ける妻は、幼馴染の憲兵(東出昌大)に注意を受けるが意に介せず、夫妻は洋酒を呑み、趣味のフィルム映画の製作を続ける。
ある日夫が従弟の文雄と満州にでかけ、帰って来てからの様子がおかしい。夫は満州で関東軍が秘密裏に生体実験を行っているという国家機密の証拠を看護婦・草壁弘子の協力で入手、文雄とともに国際正義に訴える手はずを整えていたが・・・その内、草壁が殺されて、文雄も疑われて拷問を受ける。妻は二人が持ち帰った書類ですべてを知って、もし私の夫がスパイなら私は「スパイの妻」になると宣言する・・・
ここから、夫を愛する妻の常軌を逸した愛し方というか、最初は夫が連れ帰った弘子に対する猛烈な嫉妬から火が付いたような狂気をはらむ夫への愛を蒼井優が体現していきます。そこには、昭和初期、戦前の裕福な家庭の専業主婦の一見自由にみえるが、自己を開放する手段を持たない女性の立場、夫を通してしか社会とつながれない不自由な女性の地位という問題があります。有能で何かをなしたいと思う若い女性が夫のために自分も役立ちたい、役立っていると自覚できる喜びと輝きを、蒼井優さんが見事に演じています。その強烈な思いは、時にアブノーマルでさえあって、その企みは夫の先を行くほどに。
でも、スパイではないクールでクレバーな夫の方は、大陸の日本軍による戦争犯罪を告発するという社会正義の実現を目指しながら、やがて彼女のすべてが理解でき、2人のためなら文雄が犠牲になってもという過酷さも含め妻の奔放で危険な愛情をコントロールできるようになります。騙し騙され合う夫婦。敵(憲兵)を騙すにはまず味方から。映画を観終わって、そう思うようになりました。妻もそれに気づいて、夫の罠にはまる度に「お見事!」と言わざるを得なくなります。ラストシーン、空襲を受け、精神病院から自由になった妻は浜辺で声をあげて泣き伏します。それは戦争が終わったという歓喜の涙なのか、夫に対する呪詛の涙なのか。
映画はこの後、夫の偽の死亡通知書が届いて、その後妻はアメリカにという字幕が出ます。夫の大きな計らいに気づいて妻は喜んで出かけたことでしょう。人と人の縁よりも国家目標に殉じた暗い時代(東出昌大が体現)、一人の女性の狂おしい愛の炎の物語。聡子さんは言います「私は狂っていません」。
ネットで撮影中の写真を見つけました。
台本を見ている真ん中の人が監督さんかな。これは塩屋にあるグッゲンハイム邸ですね。次男が大阪にいた頃、よく音楽会(クラシックではないので何を聞きに行っていたのか?)に出かけていました。
旧グッゲンハイム邸 | 神戸市塩屋の洋館 (nedogu.com)
★なんと、昨年、グッゲンハイム邸で監督を迎えて映画を語る会が催されていました。
04/29 (木祝) 8Kで観る『スパイの妻』@旧グッゲンハイム邸 « 旧グッゲンハイム邸 (nedogu.com)
★★内容紹介(↓引用元を控えておくのを忘れてしまいましたが・・・)
製作[編集]
黒沢清の東京芸術大学での教え子であった野原位が、神戸を舞台とした8KカメラによるNHKドラマ製作の企画を黒沢に依頼し、同じく教え子であった濱口竜介と共同でプロットを制作し、3人の共同脚本作品となった。作中に登場する昭和初期の街並みは、大河ドラマ『いだてん』のオープンセットをそのまま使ったものである。黒沢清監督初の、現代劇ではない作品となる
あらすじ
太平洋戦争開戦を控えた1940年、福原聡子は、神戸で貿易会社を営む夫・優作と何不自由なく幸せに暮らしていた。国家総動員法下、貿易商という職業柄当局に目をつけられながらも、洋風の生活洋式で通し、舶来品を楽しみ、趣味の9.5mmフィルム撮影に興じたりと、時勢に頓着しない優作を、聡子の幼馴染である陸軍憲兵の泰治は快く思わない。
あるとき文雄を伴って満州に出かけ、予定よりも遅く帰国した優作の様子を、聡子はいぶかしみ、疑いを抱き始める。優作は、満洲で知った国家機密についてある計画を秘めていた。泰治が二人を追い詰めていく中、文雄の拘留をきっかけにすべてを知った聡子は、“スパイの妻”と罵られる覚悟で愛する夫と運命を共にする決意を固め、優作ですら予想もつかなかった変貌をとげていく。
キャスト
福原聡子:蒼井優
福原優作:高橋一生
津森泰治:東出昌大
竹下文雄:坂東龍汰
駒子(福原家の女中):恒松祐里
金村(福原家の執事):みのすけ
草壁弘子:玄理
野崎医師:笹野高史
露店商:佐藤佐吉
映画版
2020年にスクリーンサイズや色調を新たにした劇場版として公開。第77回ヴェネツィア国際映画祭に出品され、コンペティション部門銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞した。日本人の受賞は『座頭市』での北野武以来17年振りとなる。
受賞
第77回ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門銀獅子賞(最優秀監督賞)- 黒沢清
GQ Men of the Year2020 フィルム・ディレクター・オブ・ザ・イヤー賞/アウディ・モスト・プログレッシヴ・マン賞(2020年) - 黒沢清
2020年度新藤兼人賞・プロデューサー賞 - 岡本英之・高田聡・山本晃久
第42回ヨコハマ映画祭2020年度日本映画ベストテン 第5位
エル シネマアワード2020
エル ベストディレクター賞(黒沢清)
第33回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞 監督賞(黒沢清)
第45回エランドール賞 プロデューサー奨励賞(映画部門) - 岡本英之・高田聡(Incline)・山本晃久(C&I)・土橋圭介(NHKエンタープライズ)
第94回キネマ旬報ベスト・テン
日本映画ベスト・テン