二つの新聞記事から:駐日大使やっと決まる

20日(水)日本経済新聞の夕刊一面の左上に「米駐日大使にルース氏」という見出しがありました。
オバマ政権は19日、次期駐日大使にカリフォルニア州で企業法務に携わる弁護士ジョン・ルース氏(54)を起用することを内定。20日にもオバマ大統領が指名する。」とあり、赴任は7月以降になる見込みとか。

読売新聞夕刊では2面、見出しの文言は同じ。「シリコンバレーの弁護士事務所最高経営責任者(CEO)で、オバマ氏の大統領選を資金集めの面から強力に支援したジョン・ルース氏(54歳)を駐日大使に指名する方針を決めた」とあり、また「ルース氏は、日本の経済や文化は知っているものの、安全保障関係の知識はないという。」「駐日大使ポストには、日米関係に造詣の深いジョセフ・ナイ元国防次官補が内定していたが、最終段階で差し替えられた。」とのこと。

日経には2面にも関連記事があり、予想外の人事として、もう少し詳しい記事が載っています。
クリントン長官ら国務省は著名な国際政治学者であるナイ・ハーバード大教授の起用を希望した。だが、経済再建を最優先課題に据えるオバマ大統領は大使人事でも経済重視で選考した。」小見出しに「想定外の人事ー日本政府に意外感」として「日米関係筋によると、次期米駐日大使に内定したジョン・ルース氏はカリフォルニア州で企業法務を手がける弁護士の間ではよく知られ、過去の大統領選でも民主党候補支援に積極的に関与してきた。ただ、外交手腕は未知数で、日本政府は「想定していた名前にはない人物だ」(外務省幹部)などと今回の人事を意外感をもって受け止めている

ところで、もう1,2ヶ月も前になるかもしれません、ジョセフ・ナイ氏が駐日大使にほぼ決まりというニュースが流れたことがありました。
関西の夕方の情報番組でよくコメンテーターで出演している、国定氏や青山氏の解説では、「ナイさんなら日本のことがようわかってる人やから安心」とか「この人なら大丈夫」と太鼓判でした。

私がナイ氏を知ったのは昨年の12月29日の新聞紙上でした。米戦略国際問題研究所(CSIS)と日本経済新聞社共催のシンポジウム「米新政権と日米同盟の課題」の基調講演をこのハーバード大教授で元国家情報会議(NIC)議長・国務次官代理(安全保障・科学技術問題担当)、国防次官補(国際安全保障問題担当)などを歴任、国連軍縮諮問委員会の米国代表を務めたこともあるジョセフ・ナイ氏が行いました。その基調講演で、氏はこう述べたのです「大統領選でのオバマ氏の勝利は米国の国としての魅力を示す「ソフトパワー」の回復に大きく役立った。オバマ氏は軍事力を中心とする「ハードパワー」と「ソフトパワー」を組み合わせた「スマートパワー(賢明な力)」の行使を目指すべきだ」と。

この時の新聞記事が気になって、そのまま残していました。その後、「スマートパワー」という言葉がクリントン氏によって使われたり、ナイ氏自身が駐日大使確実という話が出てきて心配していました。日米安保をスマートに日米同盟へ変質させて、日本がアメリカの世界戦略に運命共同体的に組み込まれていく道筋をつけた人ではないかと思っています。

前日に紹介した孫崎氏の新書「日米同盟の正体」でも「第7章 21世紀の核戦略」の「ジョセフ・ナイの論理」でふれています。著者の孫崎氏は1985年から1年間、ハーバード大学国際問題研究所の研究員だった時、学生に交じってナイ教授の授業を受けた。その第一日目の講義が日本への原爆投下は正当化できるかであったという。もちろん、「ナイは、自国兵の犠牲の問題は論じた。しかし、相手国の犠牲と戦争目的の相関関係は論じられていない。」


さて、もう一つの新聞記事は同じく20日朝刊の2面下段に小さく「共産に米政府から返信」という見出しで書かれたものです。

この新聞記事の前に、先月のことですが、4月5日、オバマ大統領は訪問先のチェコの首都プラハで演説を行いました。
私は、この演説の内容は小浜市民にとってだけではなく、広島、長崎市民はもちろん、日本人の皆にとってオバマ大統領が特別の大統領になったという画期的なものだと思うのですが、その割にはマスコミでの取り上げ方が少なかったような。

プラハの演説」というのは、オバマ大統領が「核のない世界」の実現に向けた新政策を打ち出して、包括的核実験禁止条約(CTBT)を米国が批准することをめざし、核兵器原料の生産を停止する新条約交渉など具体的な施策に取り組む意向を表明したものです。その中で、オバマ氏は広島・長崎への原爆投下を指す「核を使用した唯一の保有国としての道義的責任」にふれ、「核のない、平和で安全な世界を米国が追求していくことを明確に宣言する」と述べたものです。いままで、原爆の投下を「戦争を早く終わらせるために必要だった」としてきた米国が初めて「道義的責任」を認めたものです。


記事によると、日本共産党は、このプラハの「核なき世界」の追求を宣言したオバマ大統領の演説を評価した書簡をオバマ大統領に送っていたが19日、米政府から返書が来たことを志位和夫委員長が明らかにした。<5日付の返信は、「目標に向かって具体的に前進するため日本政府との協力を望んでいる」と強調。世界各国が核不拡散体制の強化に取り組むことなどを条件に「私たちは認識を変え、核兵器のない世界に向けて新たな機運をつくることができる」と結んでいる。>


たまたま同じ日のこれら二つの記事は、オバマ大統領のアメリカが、日本の政府、外務省やメディアの予想を超えて、新しい動きを始めていることを示すものではないでしょうか。良い変化への兆しならいいのですが。