「スクラップにされた老朽電発の耐震テスト施設」(AERAより)

昨日取り上げた「提言」は「私たちはどう生きていけばいいのか」と表紙に書いてあるAERA緊急増刊号の27人の提言の中からでした。
「3・11 ひとびとは何を見たのか/100人の証言」というのもあります。香山リカさんの「絶望の中で生まれる希望」、高村薫さんの「悲しみと生きる」という文章、藤原新也さんの「被災地で見た破壊と孤独」という写真も掲載されています。また「原発危機」という項目があり、”福島第一原発で何が起こったか”というドキュメントと”原子力のメカニズム”、”対論 原発は止めるべきか”で推進派と反対派の両論併記、”東京消防庁「特殊部隊」の全容”、”東電を庇護する経産省の責任”という記事もあります。
その中の世界最大級の原発の耐震テスト設備 売却され「スクラップ」”(2頁)をダイジェストしてみます。
「想定外」ではなくて「想定されていた事故を防ぐ為のテスト施設が日本にあった」というのは初耳です。

もしかしたら、福島第一原発の事態は回避できていたかもしれない。
そのカギを握る原発の耐震テスト施設が小泉政権下、二束三文で売り払われていた。


 日本には、40年、30年を経過した「老朽原発」が多い。この老朽原発の設備の耐震性の「実地テスト」が日本で唯一可能な施設が、6年前まで、瀬戸内海に面した香川県多度津町にあった。1976年に発足した財団法人原子力試験工学センター(当時)の多度津工学試験所であった。現在この建物のなかでは、所有者である今治造船が船体をつくっている。
 多度津工学試験所が完成したのは82年。阪神大震災の7倍の6000ガルの揺れを作り出せる15メートル四方の世界最大級の巨大な振動台設備を備え、この上に原発のさまざまな設備部分を乗せて地震と同様の振動でその耐震性を調べるのが目的で、最大重量1000トンまでの設備の振動テストができた。
 最初のテストは82年から83年にかけて。福島第一原発と同じ沸騰水型炉は、86年から87年にかけて3・2分の1の縮尺の格納容器を実験している。以後2004年まで、国から委託され、原発の中の枢要な設備25個の実物と同じ耐性の「模型」が次々に振動台に載ってきた。
「無駄遣い」と… ところが、05年、当時の小泉政権下で施設を引き継いだ独立行政法人原子力安全基盤機構(JNES)が効率化と維持費削減のため試験所の閉鎖を決定し、建物・敷地ごと、競争入札今治造船に払い下げた。建設費310億円に対し、売却価格は2憶7700万円。造船会社に振動台は使い道がない。同社はすぐにスクラップ廃棄した。
 閉鎖の理由は今後はコンピューター解析だけで耐震性分析は十分というのと、05年に文部科学省兵庫県三木市に振動台施設を建設した事も背景にあった。小泉行革のさなか、「同じような施設は不要。年間10億円の維持費が無駄遣い」というわけだ。
 だが、多度津原発専用なのに対し、文科省の振動台は一般建築物が対象。最大加速度も多度津より小さい。
 本当に閉鎖していいのか。当時原子力安全委員会の専門委員だった柴田碧・東大名誉教授は「この時期に試験所がなくなるのは大きなマイナス」と訴える意見書を委員会に提出、国会でも日本共産党の吉井英勝議員が05年10月から06年5月まで3回、衆議院内閣委員会や予算委員会の部会で質問した。
小泉首相名の答弁書、「多度津振動台を用いた実物大の試験体による試験を行わなくても、他の研究機関の試験及びその試験結果のコンピューター解析によって十分可能であり、今後、多度津振動台を用いた試験を行う考えはない」。
電源も想定できていた  現政権下の昨年5月26日の衆議院経済産業委員会でやはり吉井議員が、「通常の外部電源に加えて、原発内部の非常用電源が何かの事故で失われたらどうなるか」という質問をしていた。現在の福島第一原発で直面している問題だ。これに対して現在の寺坂信昭・原子力安全・保安院長は、「冷却機能が失われるということになりますとーー炉心溶融とかそういったことにつながるというのは、論理的に考え得る、そういうものでございます」と答えている。(=「対策は立てていない」と答えたと同じ= cangael)
民主党政権で加速 現在の民主党政権は、自民党以上に原発建設に積極的だ。鳩山政権はCO2削減の柱のひとつとして高速増殖炉推進を入れ、菅政権は原発の海外への売り込みに躍起になっている。さらに福島第一原発1号機が40年の老朽化で批判されているのに、60年間の延長運転計画という自民党の政策を無反省に引き継いでいる。
 この「延長運転計画」を質問された直嶋正行経済産業相(当時)は昨年4月9日の衆院経済産業委員会で、官僚の教科書通りにこう答えている。「多重防護でしっかり事故を防いでいく、いわゆるトラブルがあっても、ご指摘のようなメルトダウンというようなことを起こさない、このための様々な仕組みをつくっているということであります」。この答弁から1年しかたっていない。

そして、地震津波・事故と論理的に可能な事態は現実のものとなり、無策の人災に今なお多重事故の収束の目処はたたず。お金の掛け方が間違っていたと言わざるを得ません。安全対策に必要なお金を無駄遣いと言い、安全神話の流布に大金を注ぎ込んだ政官財学+マスメディアの責任は重大です。そして、信じて深く考えようとしなかった私(たち)も反省すべきだと思います。
 
↑「阪神大震災並みの振動を原発の配管に与え、耐震性を調べる試験をする多度津工学試験所/2002年11月」
310億円もかけた施設を2億7700万円でスクラップに。同じ話がありました(4月11日にブログで取り上げた)。2000年に30億円投じた原子力災害ロボットの開発を1年後に打ち切りにということが。原発推進のために安全神話にとりつかれた当時の自民党政権の責任は免れません。