前アメリカ大統領の「私の履歴書」

日経新聞の一番最後の文化欄にあるコラム「私の履歴書」はなかなか面白い読み物です。個人と時代が絡み合ってそうだったのか〜と納得したり、知らない方の個人史に思わず引き込まれてしまうこともあります。
4月30日に最終回の30回を終えたのがアメリカのジョージ・W・ブッシュ前大統領です。7回目辺りから切り抜くことにしました。讀賣新聞を取っていて、朝のコーヒータイムの時、我が家の日経をサ〜と見ていく父に聞いてみたら、読みたいというので渡した切抜きの束が手元に戻ってきました。
私自身の関心は、やはり9・11、イラク、そして、小泉首相との関係です。本当のことが書かれるのか、言い訳に終始するのでは?と思いながら読み進んでみますと、割とサラリと書かれています。そのあっ気なさ?に、本当はこんなものだったのか?と却って真実味を感じたりします。

と、下書きを始めた翌日のお昼過ぎのニュースで、「ビンラーディン殺害」のニュースが流れました。2001年の米同時テロなど数々の反米テロを首謀した国際テロ組織「アル・カイーダ」指導者のウサマ・ビンラーディン(54)を「米当局による攻撃で殺害した」と発表。すぐ、ホワイトハウスオバマ大統領が「パキスタンで作戦を実行し、戦闘の末、ビンラーディンを殺害し、遺体を回収した」、「正義が成し遂げられた」と宣言。オバマさんにブッシュ大統領が乗り移ったかに見えました。2001・9・11の同時テロから10年近くです。
さて、「履歴書」に戻ります。本文から羅列して引用してみます:

「明らかにテロリストによる我が国への攻撃だ」、「われわれはテロとの戦争の最中にある」と言明。
直後、中央情報局(CIA)のテネット長官に問いただした。「誰がやった?」。
テネットは短い単語でこう答えた。「アルカイダ」−−−。 「犯人を探し出し、法の裁きを受けさせる」。
ヘリから変わり果てた首都の姿を見ながら、傍らの補佐官に、「君が今、目にしているのは21世紀で最初の戦争だ」。
そして、世界貿易センター跡地は、「グラウンド・ゼロ」と呼ばれる。本来は原爆の爆心地を意味する軍事用語で。
約1週間後、「米議会で真珠湾攻撃を受けた時のルーズベルト大統領以来となる戦時演説に臨み、テロ組織と全面対決する決意を内外に表明。」
以後、10月7日にはアルカイダ壊滅のため、アフガニスタンでの軍事行動を開始と発表。
「国防副長官のウォルフォウィッツが攻撃対象としてアフガンのタリバン政権だけでなく、イランのフセイン政権も入れてはどうかと提案。すかさず、ラムズフェルド国防長官が「テロ防止に大掛かりに取組んでいることを示す事ができる」と合いの手を入れた。

9・11は私もリアルタイムで飛行機がビルに突っ込むのを見ました。
その後、ビルが静かに真下に崩壊するのも、信じられない思いで見ていました。
何日もたってから考えた事があります。アメリカは真珠湾攻撃以外、本土を攻撃されたことがありません。これで日本の原爆や空襲による被害に対して、国民同士、戦争について、やっと共感できるかもしれないと思ったりしました。
しかし、テロ=戦争と決め付け、ヒステリック(*)な対応に走ったブッシュ大統領は「テロとの戦い」に突入。国内的にはFBIやCIAによる電話や電子メールの傍受権限を強化した「愛国者法」(これは「名前がよくなかった」「悔いを残した」と書いている)によって戦時体制に。北朝鮮、イラン、イラクを「悪の枢軸」と命名。6カ国協議に中国を引き入れるために「日本の核武装の可能性」を持ち出したとも書いています。先制攻撃を意味する「ブッシュ・ドクトリン」、そして03年12月、出生地ティクリート近郊の村でサダム・フセインは身柄を拘束され、3年後、「人道に対する罪」で死刑確定していたフセインは絞首刑に。その後、イラク大量破壊兵器(WMD)は見つからなかったと、04年秋、米調査団が報告書で発表。
(*)当時のCIAの情報が如何に大量でかつ出鱈目であったか、かつ、それに如何に振り回されていたかが書かれています。「ポツリヌス菌騒ぎや生物化学兵器大量破壊兵器WMD)。フセイン保有しているとCIA長官が「スラムダンク(絶対確実)」と断言したから信じた。世界もそう信じていた。だが、見つからなかった。そのことには失望したが、今もフセインが生きていたら実際に保有しているだろうから、私の決断を今でも強く支持している」と。

日本の小泉首相アメリカの「テロとの戦い」に一番名乗りを挙げた首相で、国会で審議を尽くすことなく自衛隊イラクに派遣しました。この小泉首相とのエピソードが語られています。<06年の訪米時、「米議会で演説をしないか」と打診した。だが、最も偉大な演台の一つを提示されたにもかかわらず、彼はそれを辞退した。代わりに選んだのがグレースランドエルビス・プレスリーが暮らしたテネシー州メンフィス)だった。彼は表舞台から退場する方法として、とても面白い方法を選んだ」。
12回の「初会談から信頼築く/日米関係の重視 固く一致」と、23回が「軽妙な花道/米議会での演説辞退 グレースランド訪問」という見出しで小泉首相が取り上げられています。21回は、「イラク問題で常に協調/国内の批判の中『有志連合』を崩さなかった」トニー・ブレア英国首相です。「トニーは米英関係の重要性もよく理解し、戦略的に物事を捉える事ができた。真のステーツマンと呼ぶに相応しい」と絶賛しています。

残念ながら、小泉さんは日本の首相という公の立場より私人として、米大統領との「特別な信頼関係」を利用して、プレスリーの故郷を訪ね「興奮して上機嫌」だったようです。もっとも、「米議会で演説をする」にしても「日本の首相」として米国に語るべきこと訴えるべきことは何も無かったのでしょう。はるかに、ブッシュ氏の方が「アメリカ大統領」でした。日中関係を心配して小泉首相に「中国はどうなっているのか」と問い合わせてもいます。小泉さんの靖国参拝の言い訳を聞きながらブッシュ氏は「いずれにせよ、私が望んでいたのは日中両国が良好な関係を維持するということだった」のです。

読み終えて、小泉首相ブッシュ大統領、英語で言う「temperament」が二人は共通しているのかもと思いました。「テンペラメント」というのは「(思考・行動に表れる)気質、気性」、あるいは、「興奮しやすい気質、感情の起伏の激しい気性」と英和辞典には書かれています。ブレア首相の場合もブッシュ氏との個人的な関係が公的なものより上回ったのだろうか。ブッシュ氏には国を誤らせるような個人的な魅力もあったのかしら・・・と思っていたら、最終回が載っている同じ新聞の4面に早々とこの「履歴書の読み方」?が書いてあります。私はコッチの方が、気がかりになっています。

9.11の米同時テロ以降、核などを使った大規模無差別テロへの恐怖が米国の国家安全保障政策を根底から揺るがした、・・・〔略)
言い換えれば、同時テロ以降、核の拡散防止と安全管理を重視する米安保政策の根幹は何ら変わっていない。福島第1原発の事故を巡り、最先端の部隊を投入したのもその一環と位置づける事ができる。・・・・暴走した「核」が国家全体を脅かす日本の現状は、米国が恐れ続けた最悪の事態と重なる。その深刻さを考えれば、米同時テロ後のブッシュ政権同様、震災後に日本のとる行動が国際社会に様々な影響を与える可能性は高い。

アメリカ(ブッシュ氏)の強かさというか、自国の政策実現のためには、日本を上手に利用して・・・と感心する場面があります。
<中国を米朝の介在役にするのに、「日本が(北朝鮮核兵器で)脅されていると感じたら、日本が(自主核武装で)前に進むことを妨げることはできない」と述べ、中国に決断を迫った。彼らがそれ(日本の自主核武装)をとても嫌がっていたのは言うまでもない>と書いています。
日本の「自主核武装」を唱える人たちの存在を利用して中国を脅し、アメリカの北朝鮮政策に中国を協力させたのです。
日本の「自主核武装」ということは、日本の原発のその先に核の軍事利用の道が続いていたということでしょうか? それでも、先週の関西テレビの報道番組「アンカー」での青山氏の解説によりますと、福島原発の肝心のところは、企業秘密・軍事機密となっていてアメリカ(GE)からは文書でも東電には知らされていないそうです。ということは「自主的な核武装」などあり得ない。日本の核武装アメリカの意向次第だし、今回の事故で日本は失格扱いでしょう。
日経の「読み方」に書かれている「震災後の日本の行動が国際社会に与える影響」が何なのか見当がつきませんが、私としてはこれほど甚大な被害と迷惑を世界に与え続けている原発は廃止の方向へ向かって欲しいと思っています。耐用年数の期限が来ている原発は延長しないで運転停止、新規建設はしない、運転中の原発は期限が来た時点で廃止、足りない分は節電と新エネルギーに切り替えるという方向に日本が進むことで世界の心配と期待?に応えて欲しいものです。そうすれば、自然エネルギー(地熱、水、風、太陽など)産業に日が当たり、また新たな経済成長も期待できますし。