かんさい熱視線「どうする老朽化原発」(脆性破壊の危険)

今朝は真っ白な雪景色の朝でした。
昨夜からの雪で静かな朝。日差しは春の日ですが、気象予報通りの雪の朝。午前中に消えてしまった春の雪でしたが。
さて、金曜日のNHK、ニュースの後の7時半からは関西ローカルの番組です。
今週は福井の原発銀座の老朽化した原発が取り上げられました。
事故を起こした福島第一原発も40年以上経過した原発でしたが、福井県にある13基の原子炉の内8基が30年以上、うち2基が40年以上です。2月20日の月曜日には福井原発は全基が運転を停止します。先月細野原発相は原子炉の40年運転制限法を発表しましたが、20年延長の例外規定があり、その判断基準も示されていません。
「何をもって安全とするのか? 検証してみます」で番組スタートです。

日本にある原発54基中30年以上は19基。40年以上が3基。内一基が事故を起こした福島に。美浜原発1号機、2号機が残りの2基です。そして、1号機は、一昨年、50年までの10年延長の運転認可を受けていますが、再開の目途は立っていません。
雇用の大半を原発に依存している美浜町、地元住民の再稼働を求める声は切実です。山口町長は一刻も早い再稼働を求めています。
しかし、隣町の周囲を原発で囲まれた小浜市では相反する声が。昨年6月、議会は全会一致で即刻原発から脱却するよう国に求める意見書を可決しました。小浜市議会の池尾雅彦議長は憤りを隠せません。「40年とかプラスして20年延長とか、簡単に数字が出てくるものじゃない。到底、理解できるというより、言語道断です。もっともっと福島の事故というものをより一層真剣に考えてもらわないと。」


再稼働には次の3つのステップがあります。1.ストレステスト 2.国の承認 3.地元の合意。
地元の合意と言っても、福島でも避難区域、屋内待機の範囲が半径30キロになりました。福井県原発から30キロというと滋賀県京都府も含まれますが、地元住民の合意の中に原発に囲まれているとはいえ、原発が立地していない小浜市の意向がどのくらい反映されるのか明確になっていませんし、京都や滋賀の意見が入れられるのか判りません。あと2日で福井県の高浜原発が停止。関西地区に電気を送るすべての原発が止まることになります。


さて、再稼働を認める際、原発が老朽化しているかを判断する基準は、1.配管 2.電気系統 3.原子炉の3点です。そして、どのくらい持つか調べていくうちに、どのくらい危険を抱えているのかさえ明確にわからないという実態が浮かび上がってきました。
老朽原発に潜む脆性(ぜいせい)破壊」=放射能によって原子炉が脆(もろ)くなり破損する現象です。原子炉の心臓部は核燃料の入った圧力容器です。運転中およそ300度まで熱せられた水で満たされています。この時、配管が破損するなどの事故が起こると、緊急停止して、およそ30度の冷却水が大量に注入されます。圧力容器の内側は急激に冷えます。もし圧力容器の内側に傷があれば最悪の場合そこから亀裂が入り破損する恐れがあります。


急激な温度変化が硬い物質にどんな変化を与えるか? たとえば、高温で温めたガラスのコップに氷を入れて実験してみますと、ガラスのコップは亀裂が入り、粉々に割れてしまいました。ガラスのような硬くて粘り気のない物質ほど温度変化に弱い傾向があります。圧力容器の原料は鋼鉄です。鋼鉄は通常の温度では粘り気があり、こうしたことは起きません。しかし、鋼鉄には、温度を下げると粘り気を失って割れやすくなる性質があります
常温の鋼鉄を実験用の装置にセットしてこれを機械に入れて上からハンマーで叩くと常温では粘り気があるので千切れません。今度はマイナス195度の液体窒素につけた状態で待ちます。すると、粘り気がないため割れてしまいます。一般的に鋼鉄が粘り気を失うのは0度を大きく下回った場合です。ところが原子炉の中で放射線を浴び続けると0度を超えても粘り気を失うようになります。

放射線が金属に与える影響を研究している京都大学原子炉実験所の義永敏正教授の実験です。原子炉内部にカメラを入れてみます。中では核分裂反応が起きていて、青い光は放射線です。放射線にはアルファ線ベータ線など様々な種類がありますが、鋼鉄でできた圧力容器を劣化させるのは中性子線です。これは、中性子を当てた量と劣化の関係を表したグラフです。
中性子を浴びるほど劣化が進み高い温度で粘り気を失います。義永教授:「原発の場合は中性子を多量に出すので、基本的に劣化を防ぐことはできません」


中性子を浴び続けた圧力容器の鋼鉄はどこまで劣化しているのか? 運転開始から41年経った美浜原発1号機。国は安全性についての評価を元に40年を超えてさらに10年間の運転を認めています。
原子炉の圧力容器の中に、容器と同じ材質の試験片が入っている。その一つを11年前に取り出したところ、粘り気を失う温度が81度まで上昇していた
1970年に運転を開始したときには、-50度、その後31年の間に4回、計測しています。そのデータ等を元に60年運転した場合の温度を予測しました。その値は101度。その上で、関西電力は大きな力で加わった状態で圧力容器の温度は101度まで下回ることはないとして、脆性破壊はおこらないと結論づけました


しかし、福島第1原発の事故をきっかけにこうした評価方法を見直す動きが始まっている」(報告・福本秀敬NHK大阪
去年11月に設けられた国の会合「高経年化に関する意見聴取会」でも、これまでの評価方式に疑問の声が上がっている。美浜原発のような老朽化した原発の安全性を研究している日本原子力開発機構の鬼沢邦雄さんです。鬼沢さんが問題にしているのは、電力会社が安全評価で脆性破壊が起きないと断定している点です。将来の予測に絶対はなく、想定を超えた事象が起きる確率を考えておくべきだというのです。「鬼沢:「不確かな要因が含まれているのでゼロになることはなくて、ある値をもってやはり・・・そのために、検査の頻度を上げることも対策としてあるのではないかと思う」。


さらに、圧力容器の劣化は正確に捕捉できないことを示す事態も起こっています。九州電力玄海1号機1975年に運転を開始して以降、3回、試験片を取り出して粘り気を失う温度を計測。それらの値を元にその後の温度変化を予測したところ、2009年には78度になるとされていた。ところが、この年に試験片を取り出して調査したところ、およそ20度高い98度ですでに粘り気がなくなっていた。これまでの予測方法に問題があることが明確になったのです。


鋼鉄に中性子をあてて劣化の進み方や仕組みを調べてきた東北大学の量子エネルギー材料科学国際研究センターの長谷川雅幸さんは、なぜ予測値を大幅に上回ったのか原因を究明するための研究をしなければ正確な予測にはつながらないとしています。「我々がまだ知らないような何か、原子炉の運転とか、何かに、あるいは、燃料に変わったことがないか、いろいろと考えないといけないと思います」。しかし、電力会社は試験片を大学などに提供するといった情報公開を充分には行っていないといいます。「九州電力自身が調べること、それから結果を公表すること、それから、その試験片の一部を第3者機関の公的機関に提供して調べてもらう。そういう制度作りが必要だ。」



スタジオには東京大学名誉教授の伊野博満さんにお越しいただいています。伊野さんは老朽化した原発の安全対策について話し合う国の会合のメンバーです。原発の鋼鉄の劣化の危険性について強く訴えておられます。
野村優夫アナウンサー「今進んでいる劣化がどのくらい危険なのか正確にわからない部分があるというのは驚きでしたが、先生はどの辺に問題があるとお考えですか?」
伊野博満さん「劣化の予測、監視試験片と劣化予測式というのがあります。予測式というのは、将来のことを予測するのだから分らないということではなくて、もっと沢山中性子をあてて先を見ようということです。一気に100倍、1000倍のスピードで当てておいて、先が見られるということになるので劣化を予測しようと・・・。
ところが、最近、ここ10年ぐらいで分かってきたことは、ゆっくりあてる場合と、早く当てる場合では、違う。早く当てれば劣化がそんなに進まないということが最近分かってきた。ミクロ組織が違うということが分かってきた。」

野村「そうすると、本当に正確なことを言おうと思えば、それだけ時間をかけないと正確にはわからない。60年先のことは60年先にしかわからないと。本当にわからないところがある中で、じゃ、原発再開はどうする? 先生は科学者としてはどうお考えですか?」
伊野「え〜とですね、原発というのは非常に危険な技術なんですね。わからない事には非常に慎重にならなければいけない。
普通、何でもですね、物は完全にわかって物を作るものではない。多少わからないことがあっても作る。で、失敗したり、事故を起こしたり、そういうことを経ながら改良したりしていくのが多くの技術なんですが、原発の場合、そういうことが許されないわけです。事故になってしまっては、取り返しがつかないことになってしまいますので、そういうことは出来ない。慎重の上にも慎重じゃなきゃいけないと思います。」


野村「政府の案を見てみますと、とりあえず40年、さらに20年延長を認める場合もあるとしています。これについてはどうお考えですか?」
伊野「あの〜40年というのはですね、40年に近づいてくるというのは、先ほどのVTRにもありましたように、1970年代の原発が今40年に近づいてくる。関西にはたくさんありますが、で、そういう原発はですね、材料の質、圧力容器の材質も良くないし、胴の部分ですね、劣化を進める不純物がたくさん入っているとか、製造技術においても危険な溶接が無数にあるという、そういう点で問題が多いのは事実ですね。やはり、きちんと40年で止めるというふうにしないと心配である、ということです。」


野村「20年延長のこの20年について、アメリカでも20年だから、良いんでは?という考えについては?」
伊野「日本には日本の事情がありますね。地震が非常に多いということです。それと、アメリカの管理に比べて、日本の管理技術の面で様々な問題が指摘されています。福島第1原発においても、そうであったのですが。アメリカのことは参考にしなければならない場合もあるかもしれないが、都合の良いところだけつまみ食いして日本に当てはめるというのは良くない。」


野村「判らないことが沢山ありますが、今後その真実に迫っていくのに何かありますか?」
伊野「VTRにもあったが、監視試験片を今電力会社は身内の組織とか研究所では試験しているが、大学とかそういうところに提供していない。先ほどの東北大学の長谷川さんの所は最も優れた解析技術を持っているのですから、そういう所へちゃんと提供していかなきゃいけない。そういう公平なオープンな場で調べなきゃいかんということになると思います。」


野村「まさにオープンな場で、複数の目で、いろんな検証をしたり研究をしたりする、その道のりが一歩一歩、もしかしたら真実に近づく道かもしれないと・・・」
伊野「研究者はいろんな考え方で、着眼点で、アイディアでやっていますから・・・・」時間切れ
野村「ありがとうございました」。