「戦場ぬ止み」(2)<標的の島−1「制限戦争」>

入り口で前売り券を渡すと白い表紙のリーフレットを戴きます。「とよなか”市民力”フェスタ実行委員会」の「ごあいさつ」が表紙の裏に。それによりますと、2008年から「平和・共生・環境」をメインテーマに脱原発、食の安全安心、反戦平和、障がい者の人権と社会参加、「慰安婦」問題、男女平等など、豊中および近隣地域で様々な問題に取り組む市民グループ・個人が参加し、「市民の、市民による、市民のためのおまつり」として毎年秋に開催しています」とあります。昨年11月の慰安婦と沖縄の短編映画祭もその一環だったようです。
さて、そのリーフレットに挟まれている昨年の週刊金曜日(2015.10.30)の記事のコピーが二つ。
これを読むと、本土の人間にはわからない、日米安保条約の現実が生々しく迫ってきます。
私のできることの一つは、知ろう、知らせよう、という事かと思い、記事全文を書き移してみます。


「標的の島」をつくり制限戦争へ


 宮古島市の市議会議員らが作図した自衛隊設備の配置図を元に、私も現場へ赴いた。主な建設場所は牧場のほか、手つかずの自然が残る島の東海岸一帯、と、島中央部の借金を抱えたゴルフ場である。防衛費を当て込んだ利権も動き始めているが、この配備計画で島の運命と日本の未来がどう変わるのか、土地代や振興策と天秤にかけるべきものなのか、考えてほしい。

 日本の対中国戦略の中でとんでもない位置付けにされた同市では、危機感を持つ島人はいても、重要な情報を多数が共有出来ているとはいいがたい現状がある。潤沢な資金とともに配備推進派は「自衛隊がいた方が安心」「南西諸島の防衛を強化すれば中国が攻めてこない」などと宣伝するが、実態は「有事の被害が拡大しないよう海に囲まれた島にあえてミサイルを配備して『標的の島』を作り、制限戦争に持ち込む」というものだそれではまるで、玉砕ありきで沖縄守備軍を貼り付け、補給もせず、住民の命をも防波堤にしようと企てた沖縄戦と同じ発想ではないか。
 南西諸島への自衛隊大増強は、「日中軍事衝突を誘発して制限戦争に持ち込む」という米国の安全弁の役割の始動であり、列島を補給基地にしながら拡大すれば日本全体を戦場にする発想である。

まず初めに宜野湾市長の伊波洋一氏の記事から:

標的の島

"机上の仮定”で
南西諸島を防衛強化
日本周辺での「制限戦争」を企てる米国の対中国戦略

ソ連が北海道を侵攻する」というかつてのシナリオは、冷戦の終焉と伴い通用しなくなった。防衛省自衛隊)は組織の存在意義を示し防衛予算を拡大するため、米国の荒唐無稽ともいえるエアーシーバトル構想などにかこつけて、「来たる中国有事」に備えている。    伊波洋一

 南西諸島の奄美諸島と先島(宮古八重山)諸島で自衛隊基地建設計画が急ピッチで進んでいる。沖縄島(右図参照)でもキャンプ・ハンセンとキャンプ・シュワブ陸上自衛隊の駐留拠点になる。シュワブでは巨大な米海兵隊飛行場を建設する計画が進行中で、ゲート前では新基地建設に反対する市民の座り込み行動や抗議行動が1年以上も続いている。翁長雄志(たけし)県知事は(昨年の)10月13日、仲井間弘多(ひろかず)前知事の埋め立て承認を手続きに「瑕疵があった」と取り消したが日米両政府は新基地建設を強行する姿勢を変えていない


日本に圧力をかけた米国


 この計画を2009年誕生の鳩山由紀夫政権が見直そうとしたとき、米国はカート・キャンベル国務次官補(当時)を送り、辺野古新基地は中国との戦争のための第三滑走路(嘉手納基地内に既存二本)、との旨を述べたことは、ウィキリークスが暴露した米極秘公電で明らかになっている。
 南西諸島の陸上自衛隊配備も中国との戦争を想定したものである。
 05年10月29日に合意された「日米同盟:未来のための変革と再編」で日米の役割が示され、「日本は弾道ミサイル攻撃やゲリラ、特殊部隊による攻撃、島嶼部への侵略といった、新たな脅威や多様な事態への対処を含めて、自らを防衛し、周辺事態に対応する」(外務省ホームページ)としている。
 その結果、南西諸島の防衛を自衛隊が受け持つことになり、島々への自衛隊配備計画が進められている。さらに米海兵隊の遠征部隊をモデルにして自衛隊の中に離島防衛を任務とする3000人の「水陸機動団」を18年までに創設する。すでに、水陸両用部隊の訓練は始まっている。18年までに新型オスプレイ17機と水陸両用車52両を購入する。14年7月に米国サンディエゴの海軍施設を視察した小野寺五典(いつのり)防衛相(当時)が、「強襲揚陸艦(きょうしゅう・ようりくかん)」の導入を検討する意向を表明した。
南西諸島での訓練は11年から奄美大島で開始され、13年は沖大東島での奪還訓練と、那覇宮古島への地対艦ミサイル配備訓練が行われた。14年は県知事選とかち合い再び奄美大島で実施。いずれも日出生台(ひじうだい)演習場(大分県)に”奪還する島”が設定され、北海道の戦車部隊や、各地から自衛隊部隊が集結するなど陸・海・空の各自衛隊から3万人以上参加した。各地の自衛隊は今後、南西諸島の戦闘に備えて機動部隊化される。


島嶼防衛強化の動きは尖閣諸島問題の日中間の緊張を背景に加速した。12年9月の米国下院議会公聴会でトシ・ヨシハラ米海軍大学教授は、「尖閣防衛の主責任は当然、日本にある。中国の尖閣諸島攻撃には日本が最初に独力で対処しなければ日米共同防衛も機能しない」と証言し、日本に防衛強化の圧力をかけた。一方、米軍関係者からは無人尖閣の防衛はミサイル数発で足りるとの指摘もある。
 自衛隊が離島防衛の為に新たに開発している機動戦闘車(タイヤ付戦車)は、アスファルト舗装された島々での移動を想定している。このことから、戦闘は石垣島宮古島、沖縄島、奄美大島などで行われることが分かる。さらに、離島奪還作戦は島々への敵上陸を前提にしており、いずれも南西諸島の島々で衝突することを想定している。


戦場は「尖閣」ではない


 米国側が描く対中戦争戦略の一つに統合エアーシーバトルがある。平安名純代(へいあん・すみよ)氏(「沖縄タイムス」米国特約記者)がジャン・ヴァン・トル氏(戦略・予算評価センター上級研究員)を取材し、11年4月15日に同紙で紹介した。


 戦争になれば在日米軍基地や自衛隊基地は中国のミサイルで先制攻撃され、米軍は北海道から米空軍とミサイル防衛部隊を送り込んで沖縄までの制空権を拡大していく日本全土を戦場にする大規模紛争であるが、海兵隊の役割は想定しないという構想だ。同センターは12年までの15年間に24回以上の図上演習を実施し、次世代爆撃機の開発等を後押ししてきた。
 冷戦終了までの「ソ連脅威論」が成り立たなくなり、そも新たな脅威であるかのように示される中国の情勢だが国防総省内部にも中国との大規模な武力衝突は「計り知れない人的・経済的破壊」をもたらすとの批判がある。国防総省から、「アジア太平洋地域における米軍の態勢に係る戦略」の調査委託を受けた戦略国際問題研究所(CSIS)の報告書は「米国のアジアにおける戦略の最優先事項は、中国との紛争に備えることではなく、むしろそのような紛争が決して必要ではなく、紛争を引き起こそうと、考えることもできない環境を構築することである」とした日本には、韓国、オーストラリアと同様に「抑止と撃破」のために米軍の態勢に寄与、つまり、ともに戦争を遂行するように求めている

  南西諸島への自衛隊の地対艦ミサイル配備と有事即応部隊の配備等がその具体的取り組みであることは、海上自衛隊幹部学校が11年5月に創刊した戦略研究誌の『海幹校戦略研究』に発表されたエアーシーバトルに関する複数の戦略論文で明らかにされている

だが、一連の「AirSea Battleと対中抑止の理論的分析」(12年)や「統合エア・シー・バトル構想の背景と目的」(11年)、「エアシー・バトルの背景」(11年)、「アメリカ流非対称戦争」(12年)などの主要論文で尖閣」の文字は見当たらない。この点からも、あらかじめ南西諸島の市街地での戦闘が想定されていることが垣間見える


米国の目標は「制限戦争


 安倍晋三首相は13年9月25日、米・ハドソン研究所で「集団的自衛権について憲法解釈を見直す」「日本がアメリカの安全保障の弱い環であってはならない」などと述べた有事には米国の同盟国として、中国軍官を地対艦ミサイルで攻撃する決意だったといえる。
 前出のトシ・ヨシハラ教授はアメリカ流非対称戦争」で、その狙い琉球列島での戦闘で「米国政府の適度な目標達成に有効」とし、もっと重要な理由は戦争を米中全面戦争や核戦争にエスカレートさせない「制限戦争」を行うためとしている米軍は戦闘に加わらない
 一方、自衛隊の地対艦ミサイル部隊は島々で隠れまわりながら攻撃力を温存する。「適度な目標達成」とは中国による台湾の「武力併合」阻止であり、敵対行為を終了させて戦争開始前の境界線へ回帰させるにあるという。しかし、その為に沖縄を戦場にすることは許されない。軍事力ではなく、対話と交渉を尽くす解決にしなければならない。 (いは よういち・元宜野湾市長)