春の衣替えと明るい青年


先日、夫が、雨の日にサンルームにいると、一か所だけ雨の音がうるさいほど大きな音をたてる箇所があるからと、3000円払って点検だけしてくれる業者に点検を頼みました。若い男性がやって来て、ハシゴを北側にかけて南のプラスチック屋根の先端を、耳に挟んだカメラで撮った写真をスマホに移して見せてくれました。ベランダを覆う波板が樋を覆ってしまっているので、手を突っ込めないとのこと。波板屋根はまだ新しいので剥がす時期ではないとも。ついでに、隣りの屋根と樋を見たら、こちらの方が問題だ。スレートの屋根は、一度も塗った形跡がないし、今が塗り時、樋は一か所ダメになって、洩っているはず、これは取り替えないと駄目とのこと。隣のことは両親に相談しないと私たちでは返事できないし、と道路で少し立ち話。

夫が前日、福井県荒島岳のテント泊から帰って来て、山の道具を鉄柵にかけて干しているのを見て、「山へ行かれるんですか?」と話しかけて、「え〜! 雪の降ってる山へわざわざ行くんですか〜?」「雪山登山だから」と夫が答えています。おかしなことを訊く青年に、私が「屋根の上で怖い目にあった事あるんじゃない?」「あります」「命綱は?」「二人の時は良いんだけど、一人の時が、紐の長さが足りない時は、また、元のところに戻って…というのが大変で」「そうね〜。袖の処に”安全第一”のワッペンがあるから、安全には気を付けて」「はい」なんて、気さくな青年に、夫も気持ちのいい子だな…なんて言って、その時は、3000円を支払って簡単な見積額を欠いた紙片をもらって別れました。


お茶の時間に両親を前に、話をすると、母は、10年ほど前、雨漏りがして、原因が分からないからとスレートの屋根の葺き替えをしてから確かにペンキは塗っていない。樋は、洩れているのは知っているけど、命があとどれくらい持つかわからないから、どうせ私たちが死んだら取り壊すんだから放っておこうと思っていたと。私が、「壊さないよ。妹たちがやってきた時使えばいいし・・・」と。母は、「壊さない」と私が言ったのに驚いていました。

私は私で、母が何で取り壊すと決めつけていたんだろう、家の事なんか話し合ったことなかったのに…と考えて、解りました。ここ十数年、この辺りでは、同一敷地内で親が亡くなった後すぐ親が住んでいた家を取り壊して駐車場にしたケースがありました。向いは、親が亡くなられて2年後、裏も2年後に、家を取り壊して更地にして売りに出され、向いは今新築の立派な家が完成真近です。亡くなった後は取り壊されるんだと思っても当然かも。あの気持ちのいい青年のお蔭で、家の話が出来てラッキー!でした。


関東に居る妹たちの孫たちが大きくなって、ひょっとして関西の大学に来たいと言えば住まわせてやれるし…と母に。そうね、それがいいわ。お父さんは、なんでも捨てたり壊したりするのは嫌だから、壊さないと知って喜んで、壁も塗り替え時だからついでにと言っていると。両親も自分たちが死んでからの事を云い出さないし、私たちも両親の死後のことなど口にできないし、とお互い、家のその後の話など触れないでいたのでした。私は、夫には、空家になったら、自分たちも高齢者なので、出入り自由のサロンにしたいと思ってるという話をしたことがありますが、これは、両親には言えない話です。身内が自由に使うという話や、阪大生に貸すという話は出来ても、自由に高齢者が出入りするというのは今の両親には一寸まだ無理でしょう。お人好しのバカと言われて反対されてしまいます。

さて、今回の件、あの青年のところで注文してやりたかったけど、話が大きくなって、一昨年内装工事でお世話になった工務店さんにお願いすることに。昨日、工務店の会長さんと、一級建築士の女性が来られて、母も一緒に話をすることに。この会長さんは、富山県出身。一緒に来た女性は会長さんの弟の娘で、母親の富山弁と隣の母の金沢弁が似ていると。そこで、あの小話を。北陸の介護施設介護士が「早く、死ね」と言うそうだ。それは、「早く、死ね」ではなくて、北陸弁で、「はよ〜しね〜ね」と言ったのです。これは、「早くしなさいね」という優しい言葉かけなんです。という話を雑誌で読んだことがあって、北陸出身者にはよくわかるので、この取って置きの小話で大笑いでした。姪御さんは、「出して」と言うのを富山では「だいてま」と云うと。私が「抱いて」じゃ、セクハラだわね.とこちらも大笑い。


気の良い元気な青年のお蔭で、両親亡きあとの家の問題を私たち夫婦と両親との間で話し合う事が出来ました。春には、我が家も、波板を外して診てもらえることになり、樋も新しくすることに、隣りは屋根と壁面の塗り替えと樋の架け替え工事に入ることになりました。母は、ご近所の人に、”年寄りが今ごろ何を?”と思われると言うので、私も、「まだ生きるつもり?なんて言われたり」というと、「本当に、そう言われるわ…」と二人で大笑いしました。

いつもお彼岸の日に衣替えする我が家の布類、暖簾やカーテンやテーブルクロスなどを、昨日やっと入れ替えました。暖色から青に変わります。今朝は全部洗濯して気持ちの良い一日です。と言っても、寒くて、まだ暖房をしています。でも、日差しはすっかり春の勢いです。もうすぐ春です。


◎月曜日の母の俳句から:

 
    つまづいた石を見返る草青む


    あっさりと席ゆずられて花はまだ