中島岳志「国体論 菊と星条旗」書評と「Newsweekの白井聡前後編」と[1972年の基地廃止提起」

白井聡著「国体論 菊と星条旗」については、4月23日のブログで日刊ゲンダイの記事を取り上げました(http://d.hatena.ne.jp/cangael/20180423/1524443520)。ほかにも内田樹氏のツィッターでも触れられていましたし、「特別な1日」さんも5月11日のブログで取り上げておられました(http://d.hatena.ne.jp/SPYBOY/20180511/1526041262
先週10日の発売日に「文藝春秋8月号」を買って父に渡したとき、いつものように読み終わった先月号をもらってきました。7月号の書評欄に中島岳志氏の「国体論」を見つけました。読んでみると、これがとても分かり易い。

国体論 菊と星条旗 (集英社新書)

国体論 菊と星条旗 (集英社新書)

本当は「国体論」を読めばいいのですが、今、ちょっと本を読む気になれなくて、書評で済ませてしまっていますが、この中島氏の書評、白井氏の「国体論」の危険性を指摘したうえで、「激しい問題提起の一冊」と締めくくっています。

この辺り、『安倍政権への危機意識』を共有する中島氏の心情が窺えるようでした。全文書き移すつもりでしたが、ネットで見つけましたのでコピーです。助かりました。最初の青字の一行は、7月号の本にはありません。文春オンライン版に付け加えられた一行です。

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天皇アメリカ――誰も書けない“激しい問題提起”中島岳志が『国体論 菊と星条旗』(白井聡 著)を読む
中島 岳志
2018/06/17
source : 文藝春秋 2018年7月号


 戦前の日本は天皇統治の正当性を唱える「国体」が支配し、戦後になって解放されたと考えられている。しかし、著者の見解では、国体は連続している。「『国体』は表面的には廃絶されたにもかかわらず、実は再編されたかたちで生き残った」。そして「現代日本の入り込んだ奇怪な逼塞状態を分析・説明することのできる唯一の概念が、『国体』である」と言う。どういうことか。白井の見るところ、「戦後の国体」は「菊と星条旗の結合」、つまり天皇アメリカの共犯関係である。アメリカが構想した戦後日本のあり方は、天皇制から軍国主義を抜き取り、「平和と民主主義」を注入することにあった。そのため、「対米追随構造の下」に「天皇の権威」が措定された。「象徴天皇制とは、大枠として対米従属構造の一部を成すものとして設計されたもの」である。

 しかし、「戦後の国体」は、すでに破たんしている。発端は冷戦の終結にある。ソ連という共通敵が存在する時代、アメリカは日本を庇護する理由があったが、冷戦の崩壊によって、アメリカが日本を守らなければならない理由はなくなった。これにより日本へのスタンスが庇護」から「収奪」へと変化する。


 ここに天皇アメリカの分離が生じる。今上天皇が志向するのは国民統合である。天皇・皇后の特徴は「動く」こと。被災地に赴き、慰めとねぎらいの言葉をかける。戦地に赴き、祈る。天皇は「動き、祈ること」で日本国の象徴となり、「国民の統合」をつくりだす。天皇が「日本という共同体の霊的中心」となる

 この「国民統合」の障害となっているのがアメリカだ。親米保守アメリカの国益のために行動し、日本社会を荒廃させる。沖縄の声を無視し、辺野古の基地建設を強行する。

 天皇は、加齢によって「動く」ことが満足にできなくなることを、退位の理由とした。しかし、安倍政権を支える親米保守論者は、天皇の生き方を否定し、「天皇は祈っているだけでいい」と言い放つ。そして、天皇よりもアメリカを選択する。

 天皇のお言葉は危機意識の表れに他ならないと白井は言う。腐敗した「戦後の国体」が日本国民を破たんへ導こうとしているとき、「本来ならば国体の中心にいると観念されてきた存在=天皇が、その流れに待ったをかける行為に出たのである」。

 白井は、今上天皇の決断に対する「共感と敬意」を述べ、その意思を民衆が受け止めることで、真の民主主義が稼働する可能性を模索する。

 この構想は危ない。君民一体の国体によって、君側の奸を撃つという昭和維新のイマジネーションが投入されているからだ白井は、そんなことを百も承知で、この構想を投げかける。それだけ安倍政権への危機意識が大きいのだろう
 激しい問題提起の一冊である。
(文春オンラインより)XXXXXXXXXXXXXXXXXX

白井聡氏の国体論のついでに、Newsweekの記事をここで:前編の方が面白かったです。

内田樹さんがリツイート

ガイチ
@gaitifuji 7月1日
“あらゆる可能性を吟味したうえで日米同盟が最も合理的な選択肢として選ばれるのならば、それは理解できる。しかし、現実はそうではない。猿田佐世氏が「ワシントン拡声器」という概念によって明らかにしていることだが、日本の政官メディアがやっていることは、言うなれば「アメリカの神社化」だ。”

@Newsweek_JAPAN
「ショーンKに騙された、恥ずかしい日本人」『国体論』著者・白井聡インタビューhttps://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/06/post-10481.php … …
#国体論 #白井聡 #日本政治 #対米従属

今の日本は自発的に主権を放棄し、国民は政治的自由を自ら放棄している――『国体論』の著者・白石聡による現代日本への警告>『国体論――菊と星条旗』(集英社新書)の著者・白井聡へのインタビュー後編。日本はどうすれば対米従属から抜け出せるのか

<インタビュー前編はこちら:「トランプは合理的、バカと切り捨てられない」『国体論』著者・白井聡インタビュー
2018年6月26日(火)16時40分
深田政彦(本誌記者)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/06/post-10473.php

●対米従属が戦後ずっとだったかといえば、そうではなかったという朝日の記事(7月2日)がありました。

沖縄返還の直後、日本側から基地廃止を提起したというのです。外務大臣大平正芳氏でした。


朝日新聞デジタルでも記事となっていますので、そちらも:(https://www.asahi.com/articles/ASL6V5WC6L6VUTFK01L.html)

基地の根拠「極東条項」廃止を提起 沖縄返還直後に政府
藤田直央
2018年7月2日05時22分
(←1972年6月の日米政策企画協議に関する双方の議事録で、極東条項を廃止する日米安保条約改定をめぐる議論が記された部分)


 米国が日本国内に基地を置く根拠の柱である日米安全保障条約の「極東条項」について、1972年5月の沖縄返還直後に日本側が廃止の議論を米側に提起していたことがわかった。東西冷戦緩和を機に米国の戦略と一定の距離を置こうという動きだったが、米国側から強く拒まれた。

 廃止論を提起したのは日米の大使や外交当局高官らが出席する日米政策企画協議。両政府が秘密指定解除した72年6月と12月の議事録から判明した。中国の核開発などを踏まえて米側の提案で64年に始まった非公式対話で、日米間で国際情勢認識をすりあわせる場として今も枠組みは残る。

 米国は当時、沖縄も出撃拠点となったベトナム戦争で疲弊し、中国に近づく一方でソ連と軍備管理を推進。その機を捉え、日本側が米軍基地の役割を縮小しようとした異例の提起だ。

 日本側は6月の協議で「ニクソン政権が対話へ転換し、軍事同盟の意義に国内で大きな疑問が生じた」と主張。日中国交正常化に向け極東条項が問題だとし、「廃止を提案したら米国の反応は」とただした
 米側は「米国をアジアから押し出す動き」と反発。返還した沖縄に集中する基地への制約を懸念し、「日本の安全は韓国や台湾と密接なのに、極東条項廃止とは島国的」と批判した。


 日中国交正常化後の12月の協議でも、日本側はなおも「安保条約の重要性は減少しつつある」とし、米軍基地を減らして管轄権を日本に移すことを提案。だが、米側は「もし在日米軍を全部引き揚げると申し入れたら、日本はどういう態度を取るか」と牽制(けんせい)した。
 極東条項の廃止論は当時の外務省で大平正芳外相も交えて議論したという証言もある。だが、その後は機運がしぼみ、日本は今なお、米軍が「極東」で中朝を牽制するだけでなく中東まで展開できる拠点を提供し続けている。(藤田直央)