先週のある朝のこと、夫が朝早く山へ出かけて二人で朝食を食べていた時のことでした。母が、唐突に「行きたかったら、二人で旅行に行ったらいいのよ。私は、どこにも行かないで家にいて、朝、Yちゃん(甥っ子のなまえ)に散歩がてら顔を覗いてもらうように頼むから」と言い出しました。私が、「なんで~? そんなこと考えてないから、大丈夫」というと、夫がそう思ってるはずだと。
そういえば、前日の夕飯時、夫が、斜め向かいのKさん宅の雨戸が3,4日連続で閉まっている。きっと100歳近い母親を老健に預けて息子さんがどこかに出かけているはずだという話をしました。
母は、思いつめたような言い方で、「老健に預ける」という話を夫が持ち出したのは2度目だ。きっと二人で出かけたいと思っているはず。それに自分の70代、80代は、お父さんと二人でアチコチ旅行に出かけていたので、アナタたちが可哀そうだ。老健は行きたくないので、甥に頼んで家にいるので、遠慮しないで旅行に行けと。
「今は考えてないけど、そんな時が来たら、そうしてもらうね」と答えましたが、困りました。あれだけ世話にならないようにと心がけていた母が、私の迷惑になっていると思っているのですから、悔しくて悲しくて情けないはずです。さすがカンの良い母、確かに、夫は、最近、私に母を老健に預けて旅行に行くことも考えろと言い出していました。「犠牲になることはない」とまで言い出したので、困っていました。
私は、若いころ、夫がいわゆる「仕事人間」で、家のことや息子のことや私のことなど眼中にない働き盛りの頃、それを良いことに、やりたいことをやっていました。クラシック音楽のピアニストや指揮者に夢中になって、東京や八ヶ岳のコンサートに行ったり、CDを集めたり。ファングループの会報を作ったり。息子たちが家を出てからは、アルバイトの収入もありましたので、49歳の初海外を含めて3回の海外旅行に出かけています。そのうち2回は旅行社に頼まないで自分たちで考えた旅行でしたので今から考えても、よく遊んだと思います。
そのことを夫に説明するのですが、理解不能?のようです。今の状況を見越して若いころ遊んだわけではないのですが、あの十分に遊んだ時期があるから、私の70代は両親に親孝行する時期だと決めて、家にいて、父と母の世話を精一杯して思い残すことがないようにしたいと思っているのですが、それを夫がなかなか理解できないのですね・・・家にいるからといって私が不自由だとか楽しんでいないということも全くありません。今だから出来ることを自由にやっています。だから、夫には山仲間と行きたいところへどうぞと言っています。
その日の午後、一緒に二回のヨーロッパ冒険?旅行を共にしたXさんから電話がありました。母が父の遺品整理をしていたら、父が写した葉書サイズの美しいアジサイの写真が出てきたので、先日シンフォニーホールで聴いた前橋汀子のヴァイオリンの感想を書いて送っていました。
その葉書を受け取って返事を書くつもりだったけど、書ききれないほど話したいことがたくさんあってということでした。Xさんとは、ちょうど1年前の6月1日にサントリーホールでウェルザーメスト指揮のベートーベンをクリーブランドオケで一緒に聴いたのでした。二人で近況を報告して、お互い、今、気になっていることを話し合って、私も楽になりました。Xさんの神奈川のマンションには泊めてもらったこともありますし、Xさんも我が家でお茶飲み仲間と一緒にひと時を過ごしたこともあります。Xさんは団塊世代ギリギリ、私は戦中生まれの戦後育ちと年齢確認も。電話で話したおかげで私の鬱屈は消えてしまいました。
翌日になると、母が「日曜日は父の日だから、ご馳走食べに行こうか、どこがいい」と言い出しました。「出かけるより、食材にお金をかけて家で食べるのが一番」と私が言って、夫と母のお気に入りの肉屋さんのステーキ用肉を買って、16日の父の日の夕食を準備しました。山から帰った夫も、そして、もちろん母も大喜び。
先週の月曜日、母のコレステロール値と血圧が少し高めといわれて、訪問医の先生に「食事注意した方がよいでしょうか?」と尋ねたら、「いや~長生きする人は肉を食べてますよ。気にするほどの数字じゃないから肉食べてください」と言われていました。
母が「やっぱり家にしてよかったね。ワインも飲めるし」と夫が飲めることを喜んでいます。夫もビールやワインをいつも母に一口すすめます。私は大量の薬を服用するんだからアルコールはよくないはずだと思うのですが、母が毎回一口飲むたびに、本当に嬉しそうに「あ~おいしいね~」と言うので、黙っています。
夫も納得してくれたのか何も言いませんし、私も「もし私たちが家を空けるときは、老健に行かず、家にいて甥に1日1回覘いてもらう」という母の考えが分かりました。これで、良かったよかった、いつも通りの三人暮らしに戻れました。
(大きな写真は、ボリューム満点の柏葉アジサイ、何年か前から額アジサイになった青いアジサイ、そして西洋アジサイのアナベル)