大坂なおみさん優勝と新書大賞2021第一位・斎藤幸平著「人新世の『資本論』」

f:id:cangael:20210218224237j:plain f:id:cangael:20210218224241j:plain

◎昨日はテニスの全豪オープン女子シングルス決勝戦をテレビ観戦、大坂なおみさんが優勝するのを見ました。セリーナ・ウィリアムズに勝った試合で優勝間違いなしだと思いましたが、見ていても安心、精神的な成長が見て取れて心技体が見事に調和した立派な選手になりましたね。相手の素晴らしいショットをたたえる余裕も。危ない場面も落ち着いて結局自分のペースに持って行ける実力。凄いですね、強い!

f:id:cangael:20210220185451j:plain f:id:cangael:20210220191325j:plain

いつも彼女の発する言葉にはウソがない。

夜のNHKのスポーツ番組で女性キャスターが強くなった理由を聞きました。

f:id:cangael:20210220191342j:plain f:id:cangael:20210220215629j:plain

負けた経験から学んだ・・・という。着実に成長していますね。

政治家の皆さん、『老いては子に学べ、子に任せ』ですね。

f:id:cangael:20210220215635j:plainf:id:cangael:20210220215653j:plain

◎さて、今日は、2度目の「人新生の『資本論』」についてです。
私が新書「人新世の『資本論』」を読み始めたときのカバーには「8万部突破」が印刷されていました。先月中頃には16万部と倍になったと聞いていましたが、今月10日、新書大賞受賞の段階で20万部突破です。凄いですね。内田氏の10日のツィッターです:

 
 
 
@levinassien
 
斎藤さん新書大賞受賞おめでとうございます!これを機にさらに多くの読者がご本を手に取ることになりますように願っております。
引用ツイート
斎藤幸平
 
@koheisaito0131
·
『人新世の「資本論」』が今年の新書大賞を獲得しました!!応援くださった方々ありがとうございます!大変名誉ある賞を頂き嬉しく思うと同時に、ゴールは賞ではなく、この地球を未来の世代のために守ること。同じ想いの人たちと3.5%の運動を作るために、思索と対話を続けていきたいです。 twitter.com/chuokoron/stat…

◎2月8日のブログで取り上げたときはまだ読み終わっていない段階で書いていましたが、最後まで読み終わって振り返ると、斎藤氏が書きたかったこと伝えたかったのは最終章と「おわりに―歴史を終わらせないために」にあるようです。グレタさんたちの危機感にお兄さん世代から解決策の解答と思ったことはその通りで、かつ、本気ですね。

マルクス研究者としてマルクス晩期の研究の中から資本主義の末期の様子を観察、研究した文献を丹念に拾い上げそこに解決の糸口を探っていくという学者としての作業だけに終わらせない本気を感じています。↓こちらは2月9日のツィートです: 内田樹さんがリツイート

 
 
 
門屋史明
 
@kadoyan0531
 
国連グテーレス事務総長は、石炭火力発電について「OECD加盟国は2030年までに、それ以外の国は2040年までに段階的に廃止しなければならない」と発言。 つまり日本は、2030年に全廃しなければならない。神戸での2021年稼働の石炭火力発電を作っている場合ではないということ。
国連 “石炭火力 2040年までにすべての国で段階的に廃止を” | NHKニュース
NHK地球温暖化対策の国際会議COP26の準備会合が開かれ、国連のグテーレス事務総長は石炭火力の廃止を先進国で2030年までに…

◎「SDGsはアヘンだ」という意味は、企業も一緒になって取り組むSDGsの取り組みは「グリーンニューディール」や「緑の成長主義」であり、資本主義や成長主義をそのままにして気候変動対策が新たなビジネスチャンスにさえなっていることの免罪符になっているという批判です。

資本主義は成長を求めて突き進む、それが地球環境を破滅に導いている。それを止めない限り限りある自然を守ることは出来ない。これは、戦後復興の頃やバブルの頃に薄々私たち自身や親の世代も感じていたこと、欲望のままに倍々ゲームを続けていいのか、このまま拝金主義や土地高騰が続いていいのだろうか。あれから既に2,30年が経っています。この資本の欲望を押さえることが出来るのか・・・・

そこで思い出したのが龍安寺の蹲(つくばい)の四文字です。

「吾唯足知」:四つの漢字がそれぞれ真ん中の口の字を共用していて、「吾(われ)、ただ、足るを知る」と読みます。

徳川光圀水戸黄門)が寄進したそうですが、意味は「金持ちでも満足できない人もあれば、貧乏でも感謝の心を持てば満足できる」という意味だそうですが、私は、人間の欲には限度がないので、己で足りるとする辺りを見極めて欲ばらないことと解釈しています。

◎今はアメリカで生活している学生時代の友人のAさん、定年退職後すぐにアメリカで日本語の教師をしていました。アメリカでは生徒の親たちが気軽にパーティを開いてくれるそうです。昼間?かと思ったら働いている人が仕事を終えた後の夕刻から始まるとか。これは感心しました。定時に仕事が終わる事、勤務先と学校と住まいが近いこと、子どもの教育に関心が深いことなどの条件がないとできないことですが、彼女が驚いたのは別のことでした。パーティが終わると大きなごみ袋を持ってきて、テーブルの上のものをザ~とごみ袋に投入。紙製のお皿もコップも残した食べ物も全部一緒にザ~と入れるのを見て、ぞっとしたそうです。楽だけど、こんなことをしていずれ罰が当たるんじゃないかと思ったと。

今から15,6年以上も前のことですが、日本人はまだそこまで行ってなかったのでしょう、聞いた私が鮮明に覚えているのはその所為だと思います。勿体ない精神が生きていたということですが・・・これからは、日本人みんなが足るを知る、自制心というか、成長、成長ではなくて、これで満足と思いとどまることを今しないといけないというのです。日本人だけじゃなくて世界の先進国では・・・ということです。
◎地球環境をこれ以上壊さないためには、『脱成長で豊かに』というのが目指す世界で、それは「脱成長資本主義」ではなくて「脱成長コミュニズム」だと斎藤氏は主張します。そのためには資本主義のシステムから離れて自治管理や相互扶助の道を模索し、ないといけない。働き方を変えないといけない。ブルシット・ジョブ(つまらない仕事)から環境負荷の低いエッセンシャル・ワーク(役に立つ、やりがいのある仕事)へと。

◎「気候正義(climate justice)」という考え方も紹介されます。「気候変動を引き起こしたのは先進国の富裕層だが、その被害を受けるのは化石燃料をあまり使ってこなかったグローバル・サウスの人々と将来世代であるこの不公正を解消し、気候変動を止めるべきだという認識が、気候正義である。」と説明されます。

富の格差が気候変動による被害の格差に関係しているということですね。だから、気候変動を失くす運動は正義にかなうという。

 ◎さて、コモンという言葉が使われていますが、斎藤氏の説明で辿ってみると、

マルクスの「コミュニズム」とは、「生産者たちが生産手段を<コモン>として、共同で管理・運営する社会のこと」で、「一度目の否定は、資本によるコモンズの解体である」。資本主義で価値を生むのは希少性で時に人工的な希少性をも生む。だからこそ潤沢さこそ資本主義の天敵である。

21世紀にこの潤沢さを回復するための方法が<コモン>の再生である。そう、資本主義を乗り越えて「ラディカルな潤沢さ」を21世紀に実現するのは<コモン>なのだ。

 例えば、電力は<コモン>であるべきである。水と同じように電力は「人権」として保障されなければならない。市場に任せるわけにはいかない。民間任せでもなく国有化でもない道、<コモン>は電力の管理を市民が取り戻すことを目指す。市民の手による「市<民営>化」である。

 ◎ややこしいですが、具体例が挙げられたりしていますので、何とかついて行って最後の「おわりに」へ。「資本主義によって解体されてしまった<コモン>を再建する脱成長コミュニズムの方が、より人間的で、潤沢な暮らしを可能にしてくれるはずだ。」

「資本主義と、それを牛耳る1%の富裕層に立ち向かうため99%の人たちを動かすなんてとうてい無理」と思うかもしれないが、「3.5%」という数字に注目してしほしい。「3.5%の人々が非暴力的な方法で、本気で立ち上がると、社会が大きく変わるというのである」とフィリピンの独裁を倒した例やグルジアの「バラ革命」の例が挙げられます。

◎斎藤幸平氏マルクスの研究者なのでマルクスが書こうとして書けなかった晩期の研究を当てはめてコモンの再生による脱成長コミュニズムという方向を訴えていますが、本気で地球環境の問題を解決しようとすればたどり着く先は解釈、方法が違っても似通ったものになるのではと思います。要は、自覚した人たちが動きだすこと・・・と理解したのですが。例えば「里山資本主義」の藻谷浩介氏などの考え方はどうでしょう。最近「経済成長なき幸福国家論 下り坂ニッポンの生き方」(毎日新聞出版)という本を出されています。次はこれを読んでみたいと思っています。

息子たちも「面白かった。壮大過ぎて、もっと若かったなら」とか「SDGsを阿片とバッサリ切っているので、その後の論に説得感があるけど、SDGsで飯食ってる産業もあるはずだし、金融業とかどうすんの、というところまでは著者の責任外だろうけど・・・脱成長は00年代から外国では言われているようだけど、日本でここまで書いた人はいるのかな。読まれるだけで終わる可能性もあるよね」と、たくさんの人に読まれているのは分かるということでした。私が読み終わったので次は夫に回します。夫も息子たちのメールの感想を読んで、じっくり読む気になっています。

「新書大賞2021」第1位は、斎藤幸平・著『人新世の「資本論」』(集英社新書)に決定。 - 産経ニュース (sankei.com)