まず、NHKの番組紹介から:
第3集は、変容する富の分配と巨大格差。資本主義は、人類が史上経験したことのない「巨大格差」を生み出した。その象徴が、世界におよそ150人いるという年収2400万ドル以上の「プルトクラート」と呼ばれる超富裕層だ。巨大な富と力を得たプルトクラートは今年注目のアメリカ大統領選挙を背後で支え、影で世界の趨勢を握っている、とも言われる。一方で、利益の追求を放棄するニューウェーブが世界各地で起き始めている。自らの年収を10分の1にすると宣言するCEO、給与体系を変更し全従業員の賃金を同額にする企業、利益を分かち合う自治体―。過剰な富の追求は「幸福」に繋がらないという経済学が注目を集め始めているのだ。世界の富の分配は、今後どう変容していくのか検証する。
◎(その2)では、後半太字部分を私なりの書き起こしでメモしていきます。『過剰な富の追求は「幸福」に繋がらないという経済学』については、この番組のあとに5月の「欲望の資本主義」(蛙ブログ10月18日http://d.hatena.ne.jp/cangael/20161018/1476775380)を見ればもっとよかったのにと思いました。さて、この番組に触れておられる「特別な1日」さん、今回は最初に引用です(http://d.hatena.ne.jp/SPYBOY/20161024/1477265259):
番組でロバート・ライシュ先生が言っていた『格差が社会の分断を引き起こし、その分断は社会そのものを危うくする』が現代の根本的な問題だと思います。それに対して番組で取り上げていた富裕層への増税を訴える億万長者の団体『パトリオティック・ミリオネア』や社員の最低年収を7万ドルに引き上げたフィンテック企業の話も面白かった。その社長が犬を連れて出社していたのをボクは見逃しませんでした!(笑)。番組としては情報量が多すぎて、見る人が見ればわかるという形になってはいましたが、時間的制約があるからしょうがないんでしょう。
◎書き起こしで何回か録画した番組を見ているはずなんですが、CEOの彼、犬を連れてましたっけ?見逃しています。それでは、最後まで・・・
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◆なぜ格差がここまで拡大したのか、資本過ぎ250年の歴史から読み解いていく。
近代資本主義が誕生して250年、拡大と縮小を繰り返していた格差は1980年から広がり続け、現在、空前の巨大格差が出現。
そもそも格差の拡大はどのようにして起きるのか。
本来、格差は資本主義を発展させるエネルギーの一つとされてきた。隣の人が自分より豊かであれば競争が生まれ努力する。その繰り返しが経済発展につながるとする考えです。実際、近代資本主義が始まったころから20世紀初頭まで、世界は順調に経済発展を遂げてきた。
一方で、利益を貯めこむ資本家も現れ、労働者は苦しい生活を強いられた。
◆その中で起きたのが1917年のロシア革命。資本主義に対抗する社会主義経済を掲げたソビエト連邦が誕生。経済生活の柱とされたのが労働者の生活向上と格差の是正でした。
◇一方、資本主義の国々も格差を是正する政策を強化して、富裕層に高い税金を課し、社会福祉を充実、また、経営者は労働者の賃金を上げ利益を還元した。これによって格差は比較的小さく押さえられてきた。
◆ところが、1970年代に入ると成長に陰りが見え始めた。低成長時代の始まりです。
先進諸国は、それまでの経済政策から大きく舵を切った。企業の経済活動を促す法人税の減税などを推進、企業では経営者たちの報酬が格段に増える一方で、低賃金が続いて労働者の格差は拡大していく。
こうしたなか1991年にソビエトが崩壊、資本主義の対抗勢力が無くなる。さらにIT化やグローバル化が進み労働者の低賃金競争が起こる。そしてかつてない巨大格差が生まれた。
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井手「資本主義と社会主義の微妙な緊張関係があって、社会主義を意識しながら資本主義の方も格差を問題にする時代があって、緊張関係が無くなった瞬間に、むき出しの『私』みたいなものが出てきたような……ただ問題なのは、日米とも社会主義がいいじゃないかと戻っていくかというとそれは違うわけです。」
T「IT化やグローバル化が格差を拡大させたというのは?」「例えば、一部で言われているように大企業がお金を貯めこんで人件費を全然増やさなかったので格差が大きくなったという話があるが、確かに事実だけど、一方で、企業は企業でせざるを得ない状況でもある。たとえばIT化だと新しい技術が次々と生まれてくるので、例えば会計なら、昔は会計の知識を持った人しか出来なかったが、今はソフトで出来ちゃう。しかも当然賃金が下がるわけですよ。そしておまけにグローバル化が進んでいくと、例えば安い労働者が国内に入り込んでくる。企業はやっぱり競争に勝つために人件費を削らなきゃいけなくなってくる。そのことが賃金の低下を、日本だけじゃなく、世界的に引き起こして、格差も世界的に大きくなって行く。」O「資本主義の進化のスピードに人間の哲学が追い付いて行けてないんだね。その時、どうするか?」
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◆このまま格差が広がり続けると、どのような社会が訪れるのか。
クリントン政権で労働長官を務めたロバート・ライシュさんは、今、歯止めが効かない巨大格差に警鐘を鳴らしている。「私は振り子が触れすぎていると考えています。格差はプラスの影響をはるかに超えてしまった。もちろん格差には人々が懸命に働くというプラスの側面があります。大金を生み出しイノベーションに拍車を掛けます。しかし、格差が行き過ぎると利点を圧倒し危険になる可能性があります。私たちはまもなく「新たな時代」に突入しようとしています」
ライシュさんは自筆のイラストでその「新たな時代」を表わしている。それは一握りの富裕層が実権?を持った貴族のようにふるまう一方で多くの国民が努力しても報われず諦めや無力感が支配する世界。経済は停滞するとともに世界は分断されていく。
◆その分断が既に始まていると指摘するのは、質素な暮らしぶりから世界一貧しい大統領と呼ばれたホセ・ムヒカさん、81歳。巨大格差は世界各地の排他主義を助長し、世界に大きな亀裂を生み出していると言います。
「人々は政治不信に陥り現在の社会や経済のシステムに不安をいだくようになっている。その結果、今日、世界中で起きているような大衆の不安をあおる排他的なポピュリズムを招いているのです。人々をいとも簡単に極端な国粋主義に変えてしまいます。そして彼らは「アメリカ人のためのアメリカ」とか「ドイツ人のためのドイツ」とか叫ぶのです。これはグローバル化した現代の世界に生きるすべての人々に不幸をもたらすことになるのです。」
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井手:「今、分断と仰っていました。これはすごく重要な言葉、というか考え方だと思います。社会の至るところに分断線が引かれていって、所得階層間でもそうですが、例えば、雇用だったら、正規/非正規、時には男性/女性、いろんなところに分断線が引かれている。そうすると、それぞれの個別利害の塊になっているから、自分のとこ削る前にあいつんとこ削れとか、どんどん分断が深まていくような気がします。そうなってくると、排外主義とか、さっき国粋主義という言葉もありましたが、貴方たちの暮らしが貧しいのは外国人のせいですと、例えば、やるわけですね、簡単に転嫁していくわけですよね。」
O「イライラが募っている感じがある、ヘイトスピーチとか。排他的なのは勿論いけないが、なんで、イライラしているのか?理解しようとする姿勢が、どちらのからも歩み寄らないと、それこそ分断しちゃう」
井手「格差が広がっている。こんなに困っている人がいる、だけど困っている人を助けようという社会にならないのは、、太田さんが仰ったことと関わってるんですが、普通の人々が将来にものすごい不安を持っている、ここをちゃんと押さえないといけない気がする」
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T「巨大な格差を抱えた世界はどうなっていくのか危機が叫ばれている中、世界でこんな動きが始まっている。」
◇アメリカ大統領選挙に向け盛り上がりを見せていた今年の民主党大会。この舞台の裏で富裕層の一人がある活動を続けていた。モリス・パールさん。かつて世界最大の資産運用会社の常務として巨万の富を得てきた。しかし、現在の巨大格差に疑問を持ち、二年前に退職。このままでは世界全体が取り返しのつかない事態にになると考え格差の是正に動き出した。
パールさんは、およそ200人の富裕層が集う政治団体「パトリオッティク・ミリオネアズ」の代表です。彼らの目的は2つ。富裕層への増税と最低賃金の引き上げです。「私は多くの貧困層が所得を増やして中間層に入れるようにしたいのです。それは投資家や実業家にとってもよいことです。お店で物やサービスを購入する中間層の人々がふえるからです。」
民主党大会でパールさんが向かったのは巨額の献金をした人のみが入れる特別なエリア。最上階のVIPスペース。ヒラリー候補など民主党の要人が一堂に会する絶好のロビー活動の場です。豊富な資金力を生かしたパールさんならではの取り組みです。
議員たちの中にはパールさんたちの考えに反対する人も少なくない。しかし、「格差是正は待ったなしだ」とパールさんは言います。「私たちは資本主義の終焉を目指しているわけではありません。しかし、現在は一握りの富裕層が然るべき負担を免れ過剰な利益を得ている状況です。これを認めることはできません。」
◆広がり続ける格差。その一方で、格差を縮小することが経済活動のエンジンになると考えて壮大な実験を始めた企業がシアトルにある。グラビティ・ペイメンツ社。社員の数は130人。地元の小売店向けにクレジットカードが手ごろな金利で決済できるカードなどを提供している。
CEO(最高経営責任者)のダン・プライスさん、31歳。去年、彼は驚くべき提案を社員の前で発表した。「全社員の最低賃金を7万ドル(約735万円)に引き上げます。今は3万5千ドルの人もいると思いますが、間違いなかく7万ドルにします。私もこの発表ができて、とてもワクワクしています。」
100万ドルあった自分の報酬を10分の1以下にカット、その分を社員に積み足す形で、3万5千ドルだった最低年収を7万ドルに引き上げたのです。「最初はみんな私の頭がおかしくなったと思ったみたいです。でも会社を発展させたいのなら、これまでのやり方をしていたのではダメだと思ったのです。」
◇一見無謀にも思えるこの挑戦。しかし、この1年で業績は2倍に上がったという。一体何があったのか? 社員のコーディ・ブアマンさん、24歳。かつての年収は5万ドル。給料が増えたことで仕事への意欲も上がり、会社が難航していた会計システムへの開発を志願した。「このシステムになりクレジット処理が自動化できました。以前は市販のソフトでしたからね。年収が7万ドルに上がってとても嬉しかったと同時に大きな責任も感じています。一生懸命働こうと思うし、会社を自分の赤ちゃんのように大切に考えられるんです」
◆この年収アップの取り組みは、実は会社の業績向上に結び付いただけでなく、ある効果をもたらした。ブアマンさんの家では今年妻が妊娠しました。そこで夫婦は生まれてくる赤ちゃんのために800ドルをかけてベビー用品を買いそろえました。「二人ともずっと子供を欲しいと思っていました」「でも、いつ環境が整うかと思って…」。会社ではこの1年で11人も社員に子供が誕生し、結婚した社員も10人。生活の変化に合わせて消費も活発になっている。
「こうした動きがほかの企業にも広がっていけば経済全体がうるおうようになる」とCEOのプライスさんは考えている。「私たちはまだ旅の途中です。それでも大きな一歩を踏み出したことは確かです。資本主義は私たちに富と発展をもたらしてきました。しかし、今こそ新しい発想で前に進む時なのです。」
その一方で課題も抱えている。創業の時から一緒にやってきた兄が、自分の報酬が不当に抑えられたとプライスさんをシアトル州の裁判所に訴えを起こした。さらに長年勤めた幹部二人が新たな勤務体制に反対して退職した。多くの従業員と経営者の報酬のバランスをどのようにとっていくのか、模索が続いている。
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スタジオ。T「あれ、最後いい感じだったんですけど、お兄さんに訴えられちゃった」O「頭抱えちゃったね、お兄さん」井手「今の人、立派ですが、取られる方は頭抱えちゃうわけです」O「だから、そうならない哲学というか、考え方を変えなきゃいけないんだけど」井手「古代ギリシャの時代から、いろんな思想家が、なぜ社会をつくるのか、政府をつくるのかと考えたんだけど、皆一つだけ同じことを言っている。それは何かというと、誰かの利益ではなく、みんなにとっての利益になるものを提供するために政府や社会はある。格差を小さくする方法、それは、みんなが受益者になって、同時に、皆が負担者になる。 みんなにとって必要なものをみんなで痛みを分かち合って、つまり税を出して提供していく。だって、病気にならない人間はいない、じゃ、医療はみんなで負担、赤ん坊で生まれて放っといて生き延びる赤ん坊はいない、じゃ、育児保育はみんなで負担。みんなの利益をちゃんとみんなで提供するという考えをもっと持つべきだと思う」
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◇近代資本主義が誕生して250年、経済学の父と言われたアダム・スミス(1723-1790)は市場経済を動かすのは、自らの利益を求める『利己心』であると説いた。その一方で経済活動に欠かせないものとして、もう一つの要素を記しています。
それは、『共感(Sympathy)』という概念です。経済活動の中で相手の不利益にも思いを致し自分の行動を判断する。これがスミスの言う『共感』です。
◇それから200年余り、時のその共感を忘れたようにひたすら利益を求める現代の資本主義。その資本主義に私はどう向き合えばよいのか。今年、世界一貧しい大統領ホセ・ムヒカさんが来日しました。彼の希望で、経済大国日本の若者たちに向けて、4月のある日、東京外国語大学で講義が。「人生をすべて市場経済にゆだねてはいけません。あなたが何かモノを買うとき、それはお金で買っているのではなく、お金を稼ぐために費やした時間で買っているのです。かけがえのない人生を大切にしてください。」
◇今、資本主義とは異なる新しい経済の形が生まれつつあるという人がいる。文明評論家のジェレミー・リフキンさんです。「私は2050年の世界で資本主義が経済活動の全てを支配しているとは思えません。『共有型経済』が資本主義と並び立つ存在になっているでしょう。」
◆「共有型経済」。それは、お金のやり取りを前提とする資本主義ではなく、お金を介さずにモノやサービスを分かち合う新たな経済です。今、世界で急速に広がっている。その中心地の1つ、オランダ。あらゆる日用品を無料で貸し出すシステムが4年前から始まった。
アムステルダムでは、人口の5%、およそ4万人が登録している。去年の貸し出された品物の総額は10億ユーロ相当で、前の年の5倍。こちらは食事のおすそ分けサービス。材料費とほぼ同じ値段で希望者に提供。これまで25万食が人々の間を行き交った。
リフキンさん:「共有型経済を止める術はもはやありません。資本主義と社会主義以来の全く新しい経済システムだからです。GDPには入りませんがね。」
◇アメリカのメディア王、スタンリー・ハバードさん。休日は2500万ドルのヨットに乗って家族と過ごす。資本主義の荒波のなかで、競争を勝ち抜いて成功をおさめてきた83歳の人生。ハバードさんは言います:「現代の資本主義こそ等しくチャンスを与えられ努力の分だけ見返りがある。」
そんなハバードさんが取材の最後こう口にした:「いろんな大きさのボートがあるね。小さなボート、中くらいのボート。彼らは私と同じくらい楽しそうだ。もしかしたら私よりもね」。ナレーション「人類に繁栄をもたらした資本主義。これから私たちをどこへ運んでくれるのでしょうか。」(終わり)
AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
◎ハバード氏の最後の言葉は何と受け止めればいいのか? 「ボートの大小と幸せは関係ない」ということですが、「だから、ボートの大小を問題にすべきではない」と言いたいのか? あるいは「巨万の富を得ても幸せにはあまり大小はない、虚しい」ということなのか。もしそうなら、生き方の問題ですね。
ハバード氏が政治に大金を使うのは、自分の富や地位を守り「防護壁をめぐらすため」でした。パール氏も同じように政治に大金を投じていましたが、こちらは、自らの富を削って貧困層を中間層に引き上げたいというものでした。「利己」と、その対極の「利他」。貧者への共感がパール氏の政治活動の動機でした。
この番組を見終わって一週間以上。ブログにまとめながら思い出したのが司馬遼太郎さんの「21世紀の君たちへ」の言葉でした。(蛙ブログ2014年8月9日)
「いたわり」
「他人の痛みを感じること」
やさしさと言いかえてもいい
これらは似たようなことばである
この三つのことばは元々一つの根から出ているのである
根といっても本能ではない
だから 私たちは訓練をしてもそれを身につけねばならないのである
いつの時代になっても人間が生きていく上で
欠かすことができない心がまえというものである
そういう神経の人々が
たくさん日本人に出てくることによってしか
日本は生きていけないんじゃないか
◎司馬さんのこの言葉は主に国同士の間のこととして言われたようなのですが、21世紀に入って、国内の2分する階層間、あるいは人と人との間でも大きな意味を持つ時代になりました。状況に負けてしまわない強い心で優しさを持ちたいと思います。