メープルホールの大阪交響楽団特別演奏会のベートーヴェン

◎先週の金曜日、久しぶりにメープルホールのコンサートに出かけました。夫がチケットを求めてきたのは大阪交響楽団ベートーヴェンでした。3月に予定されていたものが延期されての演奏会。ヴァイオリン協奏曲ニ長調交響曲第7番の組み合わせ。ここ数年、7番の生演奏が続きます。早めに食事を済ませて6時半過ぎに家を出ました。客席は半分、一つ座席を空けて座るようにチケット販売されています。ステージ上のオーケストラ団員は弦楽器奏者は全員マスク。管楽器の方たちもマスクを持参して演奏時は楽譜立てに引掛けている様子。前一列は空席。私たちはD席右寄りなので、ステージ奥の方は見えない。

弦楽器奏者に女性が多いのは昔からですが、その女性たち、パンツ姿が増えていました。プログラムによると指揮者は坂入健司郎という「1988年生まれで、慶應義塾大学経済学部卒業。指揮法を井上道義小林研一郎三河正典、山本七雄各氏に、チェロを望月直哉氏に師事。」と色々書かれているのですが、経済学部卒で音楽!? が面白い経歴だと思いました。

それで思い出しました。慶応にはワグネル・ソサエティー・オーケストラという学生オケがあってかなりレベルが高いようです。なぜ知っているかというと、1992年、オーストリアのウェルザーメストがロンドンフィルのテンシュテットと一緒に来日して、病気のテンシュテットの代役で振ったベートーヴェンの5番がNHKで録画放送され大評判。私もそれを聴いてファンになったのですが、この来日のオフの日に、学生オケを振りたいというメスト氏の希望でワグネル・ソサエティーを振ったという記事が当時の音楽雑誌に掲載されました。だから、経済学部出身の坂入という指揮者も、この学生オケに関わっておられた方かなと思ったり。

ソリストバイオリニスト、石上真由子さんは「8歳でローマ国際音楽祭に招待され、高校2年生で第77回日本音楽コンクール第2位、たくさんのオーケストラと共演、海外の音楽祭にも多数出演。ソロ活動と共に長岡京室内アンサンブル、アンサンブル九条山のメンバーとして活躍」と紹介されています。

一曲目のヴァイオリン協奏曲、私が初めて全曲聞いて感動したのがテレビで見たN響と共演した安永徹さんの演奏でした。それまでに聴いたのは長大で退屈?でしたが、初めて引き込まれるように聴いてこの曲の良さが分かりました。当時安永氏はベルリンフィルコンサートマスターでした。65歳の定年を待たず2009年58歳で退団。後任は同じ日本人の樫本大進さん、翌年31歳で正式就任でした。

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パンフレットの解説を書いているのは奥田佳道氏。NHKラジオ「音楽の泉」に出演されている方による面白いエピソードが紹介されていました。勝手にダイジェストで:

 1806年12月、ウィーン川のほとりのアン・デア・ウィーン劇場で依頼主で同劇場の音楽監督コンサートマスターでもあるフランツ・クレメントによって初演された時の批評は「多くの美点を認めるものの、平凡な繰り返しは聴衆の退屈を招きかねない」。微妙である。抒情性に満ちあるれたこの協奏曲の美質を別の角度からとらえた文面ともみなせるが、どうも華麗な名人芸を期待した向きをがっかりさせたようだ。 このヴァイオリン協奏曲は、驚くことに音楽誌の表舞台から消えかかる

 転機が訪れる。1844年の陽春、舞台はロンドン。歴史的ヴァイオリニスト、当時は少年だったヨーゼフ・ヨアヒム(1831~1907)が、なんとメンデルスゾーン(1809~1847)の指揮で弾き、賞賛を博すのだ。メンデルスゾーン自らもヴァイオリン協奏曲ホ短調を創作中だった。こうして、ベートーヴェンヴァイオリン協奏曲は蘇り、1861年には遅ればせながら総譜も出版される。

よく、三大ヴァイオリン協奏曲と言われるのは、このベートーヴェンの「ヴァイオリン協奏曲ニ長調」と、メンデルスゾーンの「ヴァイオリン協奏曲ホ短調」と、ブラームスの「ヴァイオリン協奏曲ニ長調」。この日の演目のヴァイオリン協奏曲ニ長調が日の目を見るのにメンデルスゾーンが関わっていたというエピソードはとても面白いと思いました。それに、初演の演奏で当時の聴衆があの穏やかで伸びやかな主旋律の繰り返しを『退屈』だととらえていたのが可笑しい。私も安永さんで聞くまでは、そう思っていたのでわかる気がします。

ところで、母は難聴を抱えていますので電話での連絡が出来ません。私もその内耳が聞こえなくなると思っていますが、今は数年前耳鼻科で検査を受けたとき、片耳が難聴気味であるヘルツの音が聞きづらいということが分かっています。テレビのヴォリュームが大きいと夫に言われていますので、最近は夫が見つけてきた補聴器を片耳につけることも有ります。だいたい字幕を利用しますが、ドラマの場合はBGMで流れる音楽が全く聞こえていないことに気づいたことがありました。「ここで音楽」とか「♬」のマークが出ることがありますが、たまに全く聞こえていない時があります。こんなでオーケストラ音楽が楽しめるのかと不安になることがありますが、今のところ大丈夫。

この日の石上真由子さんのヴァイオリン。硬質でちょっと変わった音色のヴァイオリニストです。ニ長調の演奏、ソロのところで、弓が動いているのに一部音が消えることがありました。私の耳がある領域の周波数に反応しないということです。低い音や高い音は聞き取れているので中間部分のある音域が聞こえていないのだと思いました。でも全体の演奏では楽しめましたので、今のうちに生演奏は聞いておこうと改めて。アンコールに世界初演の演奏。客席に作曲者がいたようで、拍手に応えてそちらに手を差し伸べて、真ん中あたりで男性が一人立ち上がっていました。

後半の7番の交響曲。これは15年前のテレビドラマ「のだめカンタービレ」のテーマ曲になっていて改めてその魅力を教えられ聞き直した曲です。この日の指揮者も33歳の若い指揮者なので体がよく動きます。ウェルザーメスト氏の日本デビューが32歳でしたから、ほぼ同年齢。と言っても最近のメスト氏(3年前東京で聴いたのは58歳でした)も情熱的な指揮ぶりは老成とは程遠い若々しさでしたが。で、7番、スカッとする勢いのある演奏で最終楽章も盛り上がりました。アンコールは無しなので指揮者がマスクをつけて最後のご挨拶をしてコンサートが終わりました。半分しか入れない座席が全部埋まっていました。金曜日ということもあってか年齢層は高め。今時クラシックを聴く若い人はいないよね~私も40代からだったし…でも演奏家がいる限りなくならないかなと私。夫が、聴衆の支持が無くなれば廃れるだろうとも。家に歩いて5分くらいで帰れるのは有難いことです。